異世界デビュー
弓瑠斗です。
初めてで駄文ですが、なにとぞよろしくお願いします。
「…………………」
晴れ渡る晴天のある日、高校生は先生の授業を聞いたり、校庭で汗を流しているような時間帯の屋上。
そんな本来誰もいないはずの場所に少年は一人そこにいた。
この高校は別に屋上への立ち入りを禁止しているわけではないのだが、それでもこんな時間にこんな場所にいると知られれば軽く一時間は怒られるだろう。
だが少年は、そんなことは眼中にないとでも言いたげに物凄い集中力で素早く手元のスケッチブックに鉛筆を走らせていた。
そこに描かれていく絵は、ある程度絵についての知識があれば驚き、かなり絵についての知識があれば感動し、絵を描くことに携わっていれば嫉妬される程の物と言えば想像はつくだろうか。
その絵には見る人を魅了し、心に残す何かがあった。
それも物凄い速さで描いているのだから、少年の力量が窺える。
「……ふう」
一段落終えたのか、一端手を止めて描いた絵を見る。
すると満足しないのか少年は顔を僅かに歪めたが、ため息をつくと横にスケッチブックを置いてその場に横になった。
視界の端まで広がる青い空は綺麗だったが、少年には暗い気持ちの少年を嘲笑っているようにしか見えない。
少年の名前は東矢春樹。
良く言えば物静か。
悪く言えば無愛想。
絵を描くことだけが生き甲斐の高校二年生である。
少年が絵を描き始めたのは小学一年生である。このときから周りの子ども達の絵とは一線越えた絵を描けていたのだから、そのときから才能は目覚めていたのだろう。
少年は家族の父と母と姉に誉めてもらうのが何よりも嬉しくて、誉められるために夢中に絵を描いていた。
だが、幸せだったのはそのときだけだった。
家族が突然他界した。
理由はどこにでもあるような交通事故である。
助かったのは留守番をして家で絵を描いていた少年だけだった。
交通事故によって潰れた車の中からは『誕生日おめでとう』という紙が貼られた、絵を描くために必要な一式が入っているショルダーバッグが、周りの物はボロボロになってしまっているにも関わらずそれだけ綺麗な状態で出てきた。
少年の家族は皮肉にも、少年のために起こした行動によって亡くなった。
少年はなぜ自分だけが助かってしまったのだろうとずっと泣き叫んだ。
なんだが、自分が家族を殺してしまったかのように感じてしまって心が壊れそうだった。
いや、実際にもう少年の心は壊れてしまったのだろう。
あのときから全ての感情が無くなってしまったのだから。
いや、無くなってはいないのだろう。だが、どれが自分の感情なのか判別出来なくなってしまった。
そのため、何事にも興味が無くなり、無関心になってしまった。
もう今の少年には何が嬉しくて、何が悲しいのか全くと言っていい程に分からない。
誉めてくれた家族がいなくなってしまったのにまだ絵を描き続けているのは、その虚無感を無くすために描いているにすぎないのかもしれない。
だがそれは確かめようもない。
そういった感情さえも今の少年にはもう分からないのだから。
ただ、なんとなく自分は絵を描くのをやめてはいけないと思ったから。
「……俺は、なんでここにいるんだろうな」
誰にも聞こえないその呟きは空に消えていった。
少年はしばらく空を見ていたが、もう一度ため息をつくと目を閉じた。
これからその言葉に答えるような出来事が起こることを少年はまだ知らない。