リアル「ウハウハ小説パラダイス」
さて、ある会社が開発した「ウハウハ小説パラダイス」
これは、小説を書くのが楽しくなる画期的なソフトであった。
仕組みは簡単。君が書いた小説を読ませることで、画面の中の女の子がほめてくれるのだ!その上、執筆量に応じて服を脱いでいき、いろいろとエッチなご褒美を与えてくれるのだった。
「ウハウハ小説パラダイス」は、大ヒットを飛ばし、このソフトを開発した会社は大金を手に入れることができた。
すぐに、続編の開発に着手し、女性用ヴァージョンである「ウハウハ小説パラダイス ~今夜は君を寝かせないぞ~」や、ゲイ用に「ウハウハ小説パラダイス ~オッス!オッス!兄貴がお相手~」など、次から次へと新製品を発売していった。
さらに、小説だけではなく「ウハウハマンガパラダイス」や「ウハウハミュージックパラダイス」など、マンガを描いている人や、作曲をしている人用に、いろいろな派生製品も販売されていったのである。
おかげで、会社は猛烈な勢いで業績を伸ばしていき、瞬く間に株式市場に上場。株価はウナギ登りに上がっていき、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いといった感じであった。
*
さて、ここで話は変わる。
「ウハウハ小説パラダイス」には欠点があった。それも、致命的な欠点である。
それは、“何を書いても女性キャラクターがほめてくれる”というものであった。もちろん、キャラクターによっては、罵倒してきたり、冷静だったりもする。けれども、あくまでそれはキャラクターの性格であり、書いた小説の内容によって反応が変わるわけではない。
そこで、このソフトを開発した会社は、ある程度内容を反映するように努力してみた。たとえば、あまりにも同じ文章が繰り返されるようだと、怒られてしまう。ひたすら「ああああああああああ」などと打ち込んでもダメというわけだ。
あるいは、盗作チェック機能が搭載され、有名な小説や他の人が書いた作品などは指摘されるようになった。情報はインターネットを介して共有され、チェック機能はそこそこの精度を誇るようにまでいたった。
それでも、限界はあった。
どうしても越えられない壁だ。コンピューターの限界。現代の科学技術の限界である。
そこで、人々はどうしたか?どう考えたか?
当然、このような結論にいたる。
「機械が判断できないならば、人間が判断すればいいではないか!」と。
そう!
コンピューターに変わって、生身の人間が小説を読んでくれるサービスが始まったのだ。
まさに、リアル「ウハウハ小説パラダイス」である!
言葉だけではわかりづらいと思うので、1つ実際に試してみよう。
まずは、リアル「ウハウハ小説パラダイス」のサービス会社に電話をかける。あるいは、インターネットで女性の画像を見ながら注文することもできる。もちろん、女性だけではなく男性も選べる。ゲイもレズもいる。年齢も性格も人種も、様々なタイプが用意されている。
え~っと、じゃあ…今回は、この“ミカミカ”って娘にしてみようかな?
「年齢は19歳。大学には通っておらず、現在は実家で家事手伝い。本を読むのは好きな方で、年間の読書量は300冊くらい。特に読むのが好きなのは、ファンタジーと恋愛モノ…か。フムフム、なるほど。なかなかよさそうじゃないか。見た目もかわいい娘だし」
さっそく僕はサービス会社に電話をかけ、対応してくれた受けつけの女性に要望を告げる。
「あの…このミカミカって娘をお願いします。はい、そうです。登録番号52641番の。あ、はい。そうですか。わかりました。それで構いません。じゃあ、木曜の午後8時で」
電話を切り、フ~ッと大きく僕はため息をついた。
ミカミカは結構人気が高く、順番待ちなのだそうだ。それで、予約待ちになってしまった。まあ、仕方がない。楽しみに待つことにしよう。
*
そして、次の木曜日。
ミカミカは、僕の家にやってきた。料金は1万2000円。原稿用紙50枚ほどの小説を読んでもらって、この料金だ。少々お高いけれども仕方がない。今回は、みなさんに実際体験している姿をお見せしなければならないのだ。
「こんばんは~」と、若い女性の元気な声が玄関の扉の向こうから聞こえてくる。僕が、玄関の扉を開くと、ミカミカが部屋に入ってきた。
写真で見たのとはちょっとイメージが違う。髪の色だろうか?
「アレ~?写真と髪型が違う?」と、僕はたずねてみる。
「そうなのよ~、気がついた?」と、気さくな感じで答えるミカミカ。
「何か飲む?」とたずねる僕。
「じゃあ、紅茶でももらおうかしら。紅茶ある?」
「あるよ。ホットでいい?」
「ええ、ホットで」
「ミルクティーで構わない?」
「ええ、それで」
こうして、僕はミルクティーを作り、そっと差し出す。
「じゃあ、さっそく始めようかしら」
そういって、印刷した原稿の束を受け取るミカミカ。ちなみに、原稿はデータで渡すこともできる。その場合、タブレットで読んでもらうことになる。
「フ~ン…なるほどね」
「あ、ウフフ…」
「ホェ~、そうなるのね~」
などといちいち声を上げながら読んでくれる。やっぱり、本物は違うな~!臨場感が違う!そりゃ、そうか生身の人間なのだもの。
そうして、40分ほどが過ぎただろうか?
フゥ~と大きく息を吐くと、ミカミカは読み終えた原稿をトントンとテーブルの上で整える。
「どう?」と、オズオズとたずねる僕。
「そうね…うん!よく書けてると思うわ」
「ほんとに?」
「ええ、ほんとによ。でも、ここの部分はちょっとおかしいかな~?」
「どこ?」
「ここよ。ペンでチェックを入れでもいい?」
「どうぞ、どうぞ」
次々と赤ペンで修正を入れていくミカミカ。弱冠19歳とはいえ、さすがはプロだ。手慣れたものである。
「結構あるな~」と、驚く僕。事前に何度も読み直し、極力誤字脱字はなくしたつもりだったのだが、それでもいくつもの修正が入っていく。
「これらを全部直す必要はないのよ。むしろ、あなたの判断で残した方がいい部分もあるはず。それが、あなたの個性となるのだもの。私がチェックを入れているのは、『世間的には、こういう表現の方が普通よ』という部分なの。どちらか迷っている表現も含めてね。だから、全部直さなくていいの。むしろ、全部に従っていると逆にダメになっちゃうと思うわ」
「なるほどね~」
それから、ミカミカは作品の全体的な感想と、大きな矛盾点を指摘してくれた。
「そこの所だけは、致命的におかしいと感じたわね。もちろん、それだって、あなたが『正しい!』と思えば、それを押し通してもいいわけよ。設定的に矛盾があったとしても、それを上回るくらいのストーリーのおもしろさやキャラクター性があればいいのだもの。それを破壊してしまうんだったら、矛盾は残しておいた方がいい」
「わかりました。どうも、ありがとうございます」と、ついつい僕は敬語で答えていた。
最初は、気軽に話せる友達かデリヘルくらいに考えていたけど、結果的には全然違っていた。そういえば、全然エッチがことはしてくれなかったな…
まあ、いいか。小説の方はとても参考になった。
「エッチなサービスは別料金になってるのよ」と、僕の心を見透かしたかのようにミカミカがいう。
「あ、そうなんですか…」
「それじゃあ、よかったらまた指名してね。バイバ~イ♪」
そういって、ミカミカは帰っていった。
ここまでで、きっかり3時間。3時間で1万2000円。
作品を読んでもらっただけではなく、普段読んでいる本の話とか、小説論について議論を交わしたりもした。
これが相場として高いのか安いのかはわからないけれども、僕はその価格に充分満足していた。完全に元は取れたと思っている。
「これって、いいサービスなのかもしれないな~」
今度は、また別の女の子も指名してみよう。