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05

「ふっ」


アイリスは王命隊の宿舎の前の広場で剣をふるっていた。


「はっ……」


騎士学校で教わった剣舞と呼ばれる型稽古の1つ『先駆』。自ら切り込む攻めの型だ。


ここ一月、アイリスは剣の稽古ばかりしていた。


朝、王命隊にやって来て夕方、帰宅する。


それだけの日々が続くアイリスには、それ以外することがなかったともいえる。


王命隊は毎日が休日だという噂は本当だった。森の中で何をするともなく自堕落な時間だけが過ぎていく。王命なんて影も形も見当たらない。


耐えかねたアイリスは隊長に街に出て働くよう直談判した。


すると、隊長の返事はこうだ。

「俺たちがいなければ誰がこの森の平和を守るんだ?」


ふざけているにも程があるとアイリスは思った。誰もいないこの森でいったい何を守るというのか?


そう問いただすと隊長は真面目な表情を造り重々しく答えた。


「いいかいアイリス隊員、この森は王宮の裏手にありながら人気がない。これは非常に危険な事なんだ。例えば国家転覆を企むけしからん輩や他国のスパイなんかが王宮を探りにきたとしよう。ここに誰もいなければ、これ幸いとばかりに森を拠点とするだろう。それを未然に防いでいるのが、我ら王命隊という訳だ。そりゃ地味な仕事さ、誰にも評価されんかもしれん。だがそれでいいじゃないか。誰が知るわけでもない日陰で頑張ることで王宮の平和が…ひいてはこの国の平和が守られていくのさ」


この、いかにもな言葉をぺらぺらと並べた隊長の顔に「すいません、手が滑りました」と言って右ストレートを放った事は今でも許されると思っている。


その後もさんざん言い合ったがアイリスの意見は通らなかった。ルナやアルトにも話したが無駄だった。


今ではアイリスも諦めており、せめてもの嫌がらせに隊長達の見える場所で剣の稽古に励んでいる。


「はっ!」


アイリスの剣は淀みなく斬撃を繰り出している。繊細な足さばきと相まって、まるで舞を舞っているようにも見える。剣舞と呼ばれる由縁だ。

それも終わりが近づいてきた。体重を込めた最後の一線を繰り出す。その際に自身のオーラを剣に込めた。


オーラスキル『剛剣』、自らの体内にあるオーラを腕を通して武器にまで流す技だ。


今は虚空をないだが、本来であれば岩をも切り裂く威力を備えている。


「はぁ……はぁ……」


剣舞の終わったアイリスが呼吸を整えていると、パチパチパチと拍手が聞こえてきた。


剣を納めつつ、アイリスが殺気だった目付きでそちらを見ると隊長と50代くらいの男が酒盛りをしていた。


「今のは先駆か、綺麗なもんだ。できる部下をもって隊長として誇らしいよ」

「いやいや、その年でその技の冴えとはな、この国の未来も明るいな」 嫌みのつもりであえて見える場所で剣を振っているのにまるで効いていない。


それどころか、それを酒のつまみにする始末だ。アイリスの機嫌は下がる一方だった。


誰が聞いても不機嫌と判る声で言った。


「平日の昼間から呑気に酒盛りですか。いいご身分ですね」

「だっろぉ…長いこと王命隊の隊長やっているけど、本当この仕事は天職だよ」


アイリスの左ストレートが隊長の顔めがけて跳んだ。


「ちょっ……今の威力は当たったらやばいぞ」

「当たった事なんて、ないですからいいじゃないですか」

「よくねーし……あのさ俺、隊長だよ……おたくの上官ですよ」

「だったら、上官らしく働いたらどうですか」


そんな風にもめる二人を見て男が笑った。


「はっはっはっ……お嬢ちゃん、なかなか楽しくやっているじゃないか」


男の不本意きわまりない言い分にアイリスは言い返した。


「全然楽しくありません…。貴方もこんな所で飲んだくれてないで働いたらどうですか? では私はこれで」


そう言い捨ててアイリスは家の中に入っていった。


隊長ことブラッキーがにやにやと男に言ってた。

「おいおい、今のはまずいだろ。処罰する? 不敬罪にするかい?」

「いや、こんな所で不敬罪も何もないだろう。大体、お嬢ちゃんよりその上官の方が100倍失礼だ。処罰するなら、そいつが先だ」


「えー、ルナを処罰する訳? 度胸あるなぁ」

「違う。お前だ、お前」


男は呆れた表情でそう言った。


その後も二人は下らない話をしながら酒を酌み交わしていたが男が唐突に切り出した。


「たしかに、お前は遊びすぎだな」

「ん? いきなりどうした?」

「いや、そろそろ働いてもらおうと思ってな………王命だ」


男の言葉を聞いてブラッキーは嫌な顔をした。


「ええっー。……めんどくさ……」

「めんどくさがるな、あのお嬢ちゃんを見習え」

「ってもなぁ……いつ以来だったっけ?」

「約3年ぶりだな。今すぐと言う訳ではないがゴルトの街がきな臭い」


ゴルトは王都の北に位置していて、クルルアルトでも規模でいえば3番目にでかい都市だ。


「今、探知隊が内定を進めているが、最悪内戦だな」


男はとてつもない事をあっさりと口にした。更に続けた。


「まだ、どう動いてもらうかは決めていないが準備だけはしておけ」


その言葉にブラッキーは心底嫌そうな顔で返事を返した。


「へぇへぇ、わかりましたよ国王陛下」


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