エピローグ
「で、約束通りに逃したと?」
氷がようなルナの声にブラッキーはたじたじになりながら返した。
「いや、そう言う約束だったし! それにアウルの恐怖がないあいつなんて何の驚異にもならないし!」
そんな必死の反論に彼女は心を一切動かされず更に言う。
「これまで、少なくない犠牲が出てますし、その首魁を逃したとなると、民から少なくない反発がありますよ」
グサ!
「しかも、逃げる際にゴルドの街の宝物庫からかなりの量を持って行かれたんでしょう?あれも、もとは民の税金ですよ」
グサ!
「挙げ句の果てには隣のマリネとの貿易の約定書まで奪われたと、絶対に問題になりますよ。おそらくペルーはマリネに売り渡すでしょうし、マリネはそれを盾に難癖をつけるでしょうし、交渉が長引くようならそれこそ小競り合いの一つも起こるでしょうし。あと腐れなく殺しておけば良かったのに、まったく使えない隊長です」
グサ!グサ!グサ!
「かんべんしてくれ! 俺のヒットポイントはもうゼロだよ! これ以上は死んでしまうよ!」
「いっそ、責任を取って死んだらどうですか?」
「奴を逃した事がそんなにも罪だというのか!」
「それもですけど・・・」
と、そこでより一層冷たい声で、
「そもそもアウルの恐怖は隊長が作ったんですよね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・目を逸らした所で誤魔化されませんよ」
「いやーもう何十年も前の話しだし、作ったのはブライディのじじいだし、俺は剣を一振り作ってもらっただけだし、その見返りに渡した材料をじじいが何に使おうともじじいの勝手だし・・・だから、まあ、俺はそんなに悪くないと思うんだ」
「石を投げれば竜に当たるような神域から材料を手に入れられるとのは隊長ぐらいですよ。責任は小さくないかと・・・それにまだ行方の分からない道具がたくさん有るのでしょう」
ルナの追求にブラッキーは知らん知らんと首を振った。
ルナはため息をついたが、それ以上は言わなかった。諦めたと言ってもいい。
そして、窓の外を見た。そこにはゴルドの街の時期領主と王命隊の新人とそれに引っ張りだされた3年目ニートが別れの挨拶をしていた。
「では、私はゴルドの街に向かいますので、これで失礼しますわ」
「気を付けてね・・」
「元気でな・・・」
特に仲が良い三人ではなかったが最後とあって、しんみりした挨拶を交わしていた。
「ところでアイリス」
「何?」
「私、これからゴルドの街で領主を務めのですが、正直人手不足です。あなたさえよかったら私の元で働き『カトリーヌの部下とか絶対嫌』・・・ませんかなどと絶対思いませんわ!むしろあなたには生涯ゴミ捨て場でゴミ拾いがお似合いですわ!」
「なんだとー!」
二人は最後の喧嘩を始めた。
アルトはため息を吐きながらも何も言わなかった。雉も鳴かなければ撃たれないのだ、ましてやこの二人はアルトを責める時だけは協力するのだから。
カトリーヌが去っていき、辺りに静寂が戻って来た。
「いっちゃったね。寂しくなるなー」
その言葉にアルトはだったらなんで喧嘩したんだ?と思ったが何も言わなかった。年頃の少女の考え方など理解できないし、騎士の考え方など更に理解できないのだから。
「じゃあ、挨拶も終わったし寝なおすわ」
そう言って、館に入ろうとすると、ガシッと手を掴まれた。
「何を言っているのかなアルト君、まだ日は昇ったばかりだよ、働く時間だよ」
アルトはとても嫌な予感がした。
「いや、仕事は終わっただろ」
「何を言っているの?仕事が終わったなら次の仕事を探せばいいじゃない」
「えっ?・・・・・えっ⁇」
アルトにはさっぱり理解できない思考だ。
「とりあえず、街まで行こう。きっと困っている人なんて一杯いるよ」
「・・・・・・・いってらっしゃい」
正直、自分でも無駄な抵抗だと思った。
案の定相手にされず、
「ルナさんに言ってお弁当作って貰ってあるから、さあ行くよ」
手を引かれ半ば強制的に歩き出した。
そんな二人を見ていたルナはポツリと言った。
「なんとなく嵐の予感がしますね」
「怖いこと言うなよ!」
ルナの予感が非常に当てになる事を知っているブラッキーはうんざりとそう言った。
それからしばらく、二人の仕事探しは続き、結果王都を揺るがす大事件に王命隊は巻き込まれるのだが、それはまた別の話である。
終わり。
ここまで読んでくれた方ありがとうございます。次は『戦え無限術師 〜火花を散らす1ポイントの命達〜』と言う話を書くのでよかったら読んでください。