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転移陣を抜けると選択の間と呼ばれる大広間にたどり着いた。そして広間の奥には祭壇がある。
そこまでたどり着いたらこの迷宮はクリアである。
しかし、三人と祭壇の間に石の巨人が立ち塞がっていた。
「ゴーレムかー、しかも5メートルはあるよ。厄介だね」
「そうですわね。石の身体には斬撃も炎も効果ありませんしね」
「頭のコアを魔法で狙える?」
「当てるだけなら簡単ですが、コアを破壊できる威力となると厳しいですわね。一回、二回では無理でしょうね。アイリスの方こそ足を斬る事は出来ますか?」
「無理だよ。剣が持たないよ」
「でしょうね・・・どのみち私達二人だけだと、戦い方は限られてますわね。とりあえず、あなたが接近戦。私が遠距離戦でいきましょう。・・・ああ、それと私を守る必要はありませんわ。攻撃重視でいきましょう。」
「了解。じゃあアルト君は後ろで下がって・・・アルト君?」
「少年?」
二人の周囲からアルトがいなくなっていた。
慌てて探すとはるか後方にすでに退避していた。
「・・・闘う気ゼロですわね」
「・・・まあ、ほっといてもちゃっかり生き延びそうだし、後ろを気にしなくてもいい分、戦い易いんじゃないかな?」
こうして、ボス戦が始まった。
「うわっ、ひどい・・これはひどい」
アルトは思わず呟いた。
戦闘能力のないアルトは戦いの邪魔にならないよう、速やかに後ろに下り、二人の戦いを観戦していた。
戦いに積極的に参加する気はない。が、一応二人が危険に陥ったときにフォローする準備はあったのだ。
だが、そんな必要はまるでなさそうだ。
「ほら!ほら!ほら!ほら!」
「ほら!ほら!ほら!ほら!」
この国の騎士の流儀なのか何なのか、若干変わった掛け声と共に二人は息の合ったコンビネーションでゴーレムにダメージを与えていった。すでに顔面にあるコアに亀裂が入っている。
アルトもこれまでに幾つもの迷宮を突破し、ボス戦と言う物を経験してきたのだ。
今、アルトの目の前で行なわれている戦いは、今までの経験をあざ笑うかの様な戦いだった。
「さあ、こっちだよ!」
アイリスが大袈裟に立ち回る事でゴーレムの気を引いている。
至近距離で纏わりつくアイリスをゴーレムはなぎ払おうとしているがことごとく空を切った。
更に、アイリスに大上段から振り下ろされた一撃をひょいと避けたばかりか、そのまま石の腕を駆け上がりゴーレムの顔面に突きを叩き込んだ。
そしてゴーレムがアイリスを振り落とそうとすると、まるで暴れ馬を乗りこなす様な身のこなしでゴーレムの肩口に留まり更に一撃を加えた。
そんなアイリスを捉えようと、あるいは握り潰そうと腕を伸ばしてくるが、ひらりと空に逃げた。
それを遠目から見ていたアルトは空中だと逃げ場がないんじゃないかと思ったが、そして実際石の腕がアイリスをなぎ払おうとしたのだが、アイリス は空を跳ねた。
「はあっ⁉︎」
アルトが驚いている間にも更に二歩空中を歩いてゴーレムのコアに近づき斬撃を加えつつ背後に回り込むとようやく地面に降りた。
だがゴーレムの受難は終わらない。炎の蛇が顔面に襲いかかってきた。
「ガアァァァ‼︎」
爆炎と衝撃でゴーレムが悲鳴をあげた。
アルトはこれは神の試練で、ゴーレムを倒さなければ生きて帰れないことを理解しつつも、なんかちょっとゴーレムの可哀想になってきた。
無論、カトリーナにそんな感傷はない。容赦なく次の攻撃の為にマテリアルを練り上げていく。
が、ゴーレムもそれを阻止しようとカトリーナに攻撃を加えようとした。だが、カトリーナもひらりと身をかわす。
「・・・なんで、遠距離攻撃役が自分で回避するんだよ」
そんなアルトの呟きは誰にも届かなかったが。
そしてカトリーナが更に一撃を加え、間髪入れずにアイリスが飛び込んできた。
そんな攻防と言えない様な一方的なワンサイドゲームが繰り広げられ、ついに、
「ゴアァァァァァァァァ‼︎」
ゴーレムのコアが砕けた。
崩れゆくゴーレムを遠目から見ていたアルトは、
「相手が悪かったな。でも、まあ、お前は頑張ったよ」
何もしていない癖にそんな事を言った。




