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一方、迷宮の外では一人のメイドと50人の暗殺者が対立していた。

「お頭、不味いことになりましたぜ、どうしやす?」


お頭と呼ばれた男は隣にいた部下から問いかけられた。

男にも不味い事になった事が一目瞭然だった。

標的であるカトリーナ=レッドローズとその護衛を包囲したと思ったら、護衛の一人の地味な感じのメイドが門を開き残りの奴らを迷宮に放り込んだのだ。

しかも、門の装飾からして80番台だ。

わずか3人で80番の迷宮に入るなど自殺行為と言えるのだが(正確にはメイドによる他殺行為だ)このメイドの実力は大したものだ。

そんな大したメイドが勝算もなく護衛対象を迷宮に放り込むとは思えない。

少なくとも奴等が戻ってくるという可能性はあると男は直感した。

とすると、やっかいだ。いつ帰ってくるかも分からない相手を待ち続けるのは面倒だ。そして、それ以上に危険だ。

ここは人気のない森の中とは言え、王宮のすぐ裏手なのだ。あまり長居したいとは思わない。


どうするか?

このまま待つか?

それとも、一度、退却するか?奴等がそのまま迷宮でくたばるかも知れない。

あるいは、いっそのこと迷宮の中まで追うか?いや駄目だ、迷宮の上限は6名だ。すでに3人、入っている。あと3人しか入れられない。詳細も分からない80番台迷宮に3人など自殺だ。


男は今後の行動を悩んだが、やがて答えを出した。

男が出した答えは退却だった。

やはり王宮の近くに留まり続けるのは危険だ。 迷宮に入れた事もおそらく苦肉の策だ。失敗する可能性も高い。

ここは一度引く。だが、その前に、


「あの女を殺す、取り囲め」

簡潔に部下に指示を出した

「了解、しかしなんであの女も迷宮に入らなかったんですかね?」

「おそらくだが、すでに一度入った事があるんだろう」

神の試練は成功しょうが失敗しょうが一度しか入れない。

先程の動きからして80番台は間違いなく突破しているだろう。百門突破者でもおかしくない。

おそらくオイゲン達を殺して、ふざけた手紙を持たせたのはあの女だ。 大した実力だし、次が来ても返り討ちにできる自信があったのだろう。

だが、予測が外れ苦肉の策としてカトリーナ嬢を迷宮に入れた。そして今50人の暗殺者に囲まれていると……。

せいぜい自分の浅はかさを後悔しろ。

男が内心で嘲笑っていると、女が自分に声をかけてきた。


「あなたがリーダーですよね。すこしよろしいでしょうか」

恐怖も諦念も感じられない普通の声だった。

なんだ? こいつは?

戸惑っている男にメイドは構わず話を進めた。

「これから殺し合いをする前に、少しだけお話があるのですがよろしいでしょうか? けっしてあなた方に悪い話ではありませんよ」


「………なんだ」


男は話を聞くことにした。命乞いだったらせせら笑ってから殺す


「ありがとうございます。…では本題に入りますが、現在、王命隊は陛下から2つの命を受けています。一つはカトリーナ様の護衛です。そして、もう一つはカトリーナ様を囮にして、カトリーナ様を殺しにくるベルーの配下を殺す事です」


メイドの告白に周囲がざわめいた。


「その為に、この前にきた刺客に手紙を持たせたりしたのですが、まさか50人以上で来るとは思いませんでした。完全に予想外でした。本来、暗殺者なんてものは個人主義ですからね。そんな個人主義者をこれだけ従えるあなたの器量は大したものだと思いますし、これまでの戦闘を見る限り、個人の質もあなたの指揮官としての質も高く評価させております」


「………長々と何が言いたいんだお前?」


「申し訳ありません。では率直に言いますが、降伏して私の配下になりませんか?」


「はあっ!?」


予想外の言葉にすっとんきょうな声が出た。


「陛下からは殺すよう命じられていますし、私も当初はそのつもりでしたが予想以上にあなた方が優秀なので気が変わりました。あなた方が武器を捨てて降伏していただければ、私は優秀な配下を手に入れる事ができ、あなた方は死なずにすみます。いかがでしょうか?お互いに悪い話ではないはずです」


メイドの話に周囲が唖然としていた。


部下の一人が、

「お前…頭おかしいんじゃないか……」

喘ぐ様な声で言った。

男も同感だった、しばし唖然としていたが、すぐに冷静さを取り戻しメイドをにらみつけた。


「ふざけるな。命乞いならともかく、降伏しろだと? 状況が見えてないのか?」


メイドは男の言葉に淡々と返した。


「見えていますよ。むしろ見えていないのはあなた方のほうです。私は強いですよ」

その上から目線が気にさわった。声に殺意が含まれていく。


「俺たち黒い風をなめているのか?、 この状況、例え豪腕ルークや閃光のアレクでも生き延びれはしない」

男は第7隊と親衛隊の百門突破者の名前を出したがルナは揺るぎもしなかった。

「確かにあの二人の実力では死ぬでしょうが……私には関係のない話ですよね?」

「もういい」

もはや話を続ける気が失せた。

周囲に合図を送る。

男の指示を受け取った部下達がメイドとの距離を詰めていく。


「交渉は決裂という事でしょうか?」


「当たり前だ!」


「そうですか……それは残念です」


と、その言葉ほどには残念そうに見えないメイドと男は距離を詰めていく。周囲の部下も同様だ。連携して、一斉に仕掛ける。


と、その時だった。緩やかな風がメイドの周囲を渦巻きだした。


男は眉をひそめた。 魔法か? 自殺行為だな、この状況で使わせると思っているのか?


男は部下に合図を出した。

部下の何人かがナイフを投げた。


と、同時にルナとの距離を一斉に詰めた。


別に、ナイフが当たるとは思っていなかった。メイドの凄まじい動きはこの目で見ている。

だが、ナイフに対処する事で魔法は消える。

そして、数の優位を生かして接近戦で仕留める。

そう男は予測した。

だが、男の予測は半分しか当たらなかった。

ルナはナイフを避けた。が、魔法は止まらなかった。

ルナの周囲を渦巻いていた風は蒼く染まり周囲に拡散していった。


そして、男はその光景をかつて見たことがあった。その時の事を思い出し、全身が総毛立った。


……蒼刃?

馬鹿な……あり得ない……。


一瞬の驚愕から解放された男は、あらんかぎりの大声を上げた。


「下がれぇぇぇっ!!」


たがタイミングが悪かった。いま一斉に突撃していたのだ。

男の命令に反応できたのはおよそ半数だった。 そして、反応できずルナの領域に入ってしまった残りの半数は……。


ザン!!


突如、上空から降りそそいだ、蒼い風の刃にまるで豆腐でも切るように、呆気なく切り裂かれた。


そのおよそ現実離れした光景に生き残った者達は凍り付いたが男はいち早く我に返った。


そして、生き残った部下に、


「できるだけちりじりに逃げろ!」


そう、叫ぶと自らも森の中に逃げ込んだ。

部下たちも我に返えると男の命令に即座に従った。


立ち向かおうとか、殺された仲間の仇を討とうなどとは微塵も思わなかった。それほどに絶望的な相手だった。


(くそ!くそったれ! 畜生、意味がわからん!死んだはずだろあの女は!)

(なんでこんなところにサラストラスターの皇女がいるんだ?)



一方、ルナの方は生き残りが逃げ出した事にむしろ感心していた。


「勝機がないと悟れば即座に逃走。よい判断です。部下に出来なかった事は惜しいですね」

それはルナの本心だった。

「…ですが、少々月並みなセリフですが知られてしまったからには生きて帰らせる訳には行かないのですよ」


そう呟くと蒼い風を纏い動き出した。

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