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アイリス達が正面玄関に到着すると外にルナが立っていた。とりわけ、緊張しているような様にも見えないが、その右手には薄い刃のナイフが握られていた。

「ルナさん!」

「来ましたか、三人とも表に出てください。外の方が有利です」

ルナはアイリス達に端的に指示する。

三人は素直に指示に従った。

アイリスとカトリーナは剣を抜き、周囲を警戒する。

が…何の気配も感じなかった。

アイリスが不信に思っていると隣で

「本当にいるのですか?」

そうカトリーナがルナに訪ねていた。

「ええ、かなり近くまで来てますよ」

「誰もいませんが?」

「結構な手練れですから、おそらく全員、70以上の門を突破しているでしょう。わからなくても無理はありませんよ」

その言葉にカトリーナはムッとしている。負けん気の強いカトリーナには、自分が気付けない敵を、ルナさんが当然のように把握している事が悔しいのだろう。その気持ちはアイリスにだって判る。

そしてルナさんも分かっていた。

「私は索敵が得意だと言うだけですよ。それより…来ますよ。二人は見える敵を相手にして下さい。見えない敵は私が相手にします」

見えない敵?

その言葉に疑問を感じるも、深く考える間もなく異変が起こった。

突如、森から二つの影が飛び出して来た。

真っ直ぐにカトリーナを目指している。

考える間もなく、とっさにアイリスはカトリーナと影の間に割り込んだ。

全力の一撃を影に放つ。

ガキン――と金属がぶつかり合う音がした。

切り結ぶことで影の正体がはっきり見えた。黒ずくめの装束を纏った男で、ある意味分かりやすすぎるくらい分かりやすい暗殺者だ。

そして強い。アイリスの一撃をきれいに受け止められた。

そうして、アイリスが最初の影とぶつかり合う間にもう1つの影が横を抜けてカトリーナに近付いた。

「カトリーナ!」

そう叫ぶカトリーナの後ろで、ガキンとまたもや金属音。

「心配には及びませんわ」 振り返る事のできないアイリスにカトリーナの冷静な声が返ってきた。

そしてカトリーナと暗殺者が打ち合う音が聞こえてきた。

アイリスも即座に加勢にいきたかったが、目の前の黒ずくめから目をそらせない。

それほどの相手だった。こうなったら目の前の黒ずくめを倒してからカトリーナの加勢に行くしか方法がなかった。

「カトリーナ! すぐに助けに行くから、私が加勢に行くまで粘って」

そう、後ろに言うとカトリーナから明らかに不機嫌な声で返事か返ってきた。

「だから! 心配には及ばないと言っているでしょう。私を侮っていますの!?」

怒る様にカトリーナは返事を返すと、暗殺者と激しく切り結んだ。

そして、カトリーナもアイリスと同じ感想を抱いた。

それは、敵が強いということ。

少なくともオーラ、ベクトルのレベルは相手の方が上だ。

だが…決してカトリーナは焦ってはいなかった。

オーラとベクトルで相手が上回っても剣術、体さばきで相手の攻撃をいなし、互角に切り結んでいる。そしてカトリーナは自身の最大の武器を使用した。

カトリーナの周囲に火の塊が生まれた。

それを見て、驚愕の表情を浮かべる黒ずくめに、火の塊が飛びかかった。

辛うじて黒ずくめは避けたが、避けた事により態勢が崩れた。その隙を逃さず袈裟懸けの追撃を降りおろす。

更に再度、火の塊を作り出し相手に放つ。

これがカトリーナの最大の武器、マテリアル『火槍』だ。

『火槍』は決して強大な魔法ではない。むしろ、マテリアルが5もあれば使える程度の初歩的な魔法だ。

だが、それは後ろでマテリアルだけに集中できる場合の話だ。

カトリーナの様に敵と切り結び、オーラ、ベクトルを使用しながら、と言う条件がつくと限りなくハードルが上がる。

少なくとも騎士学校時代ではカトリーナ以外にそれが出来る人はいなかった。

クルルアルトでは剣での模擬戦や決闘の時に、マテリアルの使用は暗黙の了解で禁じられているが、そもそも、それが出来る人間は滅多にいないのだ。

騎士学生時代、マテリアルを使う事が出来ればアイリスにも勝てる……そう思った事が何回あるか。


カトリーナと黒ずくめの戦いは、はっきりとカトリーナの方が優勢になってきた。

剣と魔法のコンビネーションに黒ずくめは防戦一方だ。

そして、カトリーナの『火槍』がついに相手をとらえた。

「ぐっ…」

黒ずくめが低いうめき声を上げた。

『火槍』が当たった場所は右足だった。致命傷ではないが、動きは鈍る。

もはや、次は避けられないと悟った黒ずくめは、一転して踏み込んだ。

捨て身の一撃。

が、やはりスピードが足りなかった。

迎え打ったカトリーナの一撃が黒ずくめの喉を切り裂いた。

どっと、無言で崩れ落ちる黒ずくめ。

男が死んだ事を確認すると、カトリーナはアイリスを見た。

すると、ちょうど決着が付くところだった。

アイリスが動いた。ベクトル技『瞬歩』。

速い……そうカトリーナは思った。

対する暗殺者も辛うじて剣を繰り出したが、アイリスの速度が勝った。 袈裟斬りにされ倒れる暗殺者を見ながら、胸中に悔しさが生まれた。

カトリーナもバランス型で突破した門もほぼ同じ、つまりベクトルレベルに差はないのだが明らかに速度においてアイリスが勝る。カトリーナにすれは面白いはずがない。

それにしても、明らかに今の一撃は前よりも速かった。

どうやら、王命隊に左遷されても腐る事なく訓練を続けていたのだろう。

アイリスのそういう所が気に食わないのだが、もし仮にアイリスが錆びついていたら、やはり気に食わなかっただろう。

つまり、どうあってもアイリスの事は気に食わないのだろう、と思っていると、アイリスが振り向いた。

こちらを見て、決着がつき、カトリーナが生きている事に安堵した表情に、なんとなく、いらっときたので、

「おやおや、随分と遅かったですね。こっちはとっくに終わりましたわよ」

と、挑発した。

すると、案の定アイリスはムッとした顔をした。

そのまま、いつもの様に口喧嘩が始まる所で、横から、

「二人とも、まあまあ、合格点ですね」

というルナの声が聞こえた。

二人がそちらに振り向くとルナは先程と変わらない様子で立っていた。

ただし、右手に持ったナイフには血がついていて、その足元には二人が闘った黒ずくめとは別の黒ずくめの死体が3つ転がっていた。


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