主に仕える者の転機
【言葉を無くした友人の為に、私が手を引いてあげよう。たとえ手を引く手が無くても。】
「こっちへおいで、ウィル」
私の主人のゾーィが呼ぶ。大柄な肉体を持ち、深緑色の髪を風に靡かせ、こちらを見る。私が仕える主人、ゾーィはこのイギリスの町外れの森に住んでいる。
綺麗な川に、緑溢れる森の中にウッドハウスを一人で建てたそうだ。とても一人で作ったとは思えないような大きさだ。二階建てで彼の仕事場兼、自宅だ。
彼には妻のイザベラ、一人娘のケイリーがおり、三人暮らしをしている。
私はその家族の中に招待された。身寄りの無い私に救いの手を差し出してくれたのだ。
「すぐそちらに向かいます!」
私は少し離れたゾーィに聞こえるように叫んだ。彼は急ぐ私を見て、
「そんなに焦らなくていいぞ」と、
朗らかに笑った。正直に言ってくすぐったい感情が私の胸を燻ぶった。こんな経験は今まで無かったのだから。
▼
私、ウィルは生まれてすぐに、親に捨てられた身だ。この肉体を授かった親は知らないし、住むべき家も無い。
あるのは、幸せに生きるという未来だけだった。自分が生き残る為に多くの罪を犯してきた、物を盗む行為なんて日常茶飯事だった。
そんな私が長々とそんな生活で生きていたのは、僥倖というものだった。しかしそれも長々と続く筈が無かった。
「ついに捕まえたぞ!この泥棒が!」
「いつまでも逃げられると思うなよ!」
私を捕まえたのは、いつも厄介になっている果物屋の主人と、肉屋の店員だった。
いつもは難なく逃げ出せている状況なのに、今回はそうはいかなかった。
(くそ、柄になく人助けなんかするんじゃあ無かったかな)と、
心の声で自分の行いを悔いる。そして捕まった原因の足を恨めしく睨む。
原因は、足だけでは無いのだが……。
私は捕まる数十分前に、溺れている女性を助けていたのだ。何を思ったのか、自分だけが生き残る為に必死だったのに、偶然目に入った川に浮いていた白いものを纏っていた人間に食い付いてしまったのだろう。
私の体が反射的に川へと飛び込んだ。何とか私は白い衣装の人間の元までたどり着いた。その時分かったのだが、それは女性だった。
何とか川岸まで押してやろうとした、その時に妙に白く長い衣装に身を包んだ女は、あろうことか私の足を思いっ切り捻ってきたのだ。私は体が小さく、女は私より背丈があったので、焦っていたから必死に掴んできたのだと、納得はしたがいかんせん、掴まれた私も慌ててしまった。
(あ、ダメだ。こいつと一緒に溺れてしまう)
身を弁えず、他人の命を救うだなんて考えてしまった私を、神様は笑っていたのだろうか。そして救おうとしていた女は罰を与えられていたのではないかと、口から肺の空気が逃げ出した時。私はふと考えた。
その時、
「大丈夫!助けるからね!」と、
大きな叫び声が私の耳に届いた。グッと急に私の体は引き上げられた。新鮮な空気が肺を満たし、大きく噎せ込む。
眩む私の視界を覆ったのは、 私よりも幾分が背のある少女だった。
深緑色の長い髪と、空色の瞳。人懐っこそうな顔立ちだが、芯の強そうな勝気な声をあげる。
「大丈夫?しっかり呼吸してよね!」
少女が私と、私の足にしがみ付いたまま気を失っている女を心配してくれている。
「私は大丈夫です。それよりどうやって私と、この女性を助けてくれたのですか?」
私はどのように少女が私と、長く白い衣装に身を包んだ女を助けてくれたのか気になった。
すると、少女は自分の右手で、川岸にある木製のレバーのようなものを指差す。
(あのレバーで助けたのか?どうやって?)
私にはそれだけでは理解出来なかった。
すると少女は私が納得していないのを理解したのか、ダッと駆け出した。(急に走るから割と焦ったのは内緒だ)
少女は深緑色の髪をした大柄な男性と、ベージュ色の髪を後ろに束ねた服装がおそろいの女性を連れてきた。
(両親を連れてきたのか?)
水に濡れた私と、いまだに私の足を掴んでいる長く白い衣装に身を包んだ女を見て、表情を変えた少女の父親と思しき男性は、こちらに向かって走ってきた。
「おい、大丈夫か?意識はしっかりしているな?よし、問題はそっちのお嬢さんか」
「あなた、私が診ますから川から引き上げて下さる?それと、この子をお願いね」
私は大丈夫と判断した少女の父親と母親は、白い衣装の女を岸へと引き上げた。
「待ってな、俺の家内がお嬢さんをたすけるからな」
「いやいや、私の家族でも知り合いでも無いですから!それより早くこの私の足を掴んでいる女性を離して下さいよ!」
「大丈夫だって、すぐ目を覚ますからな。取り敢えず落ち着けって」
「あなたは、私の話を聞いていないようですね⁉」
話を聞かない少女の父親のせいで(助けてくれた恩人の父親に向かって)私はこの白い衣装の女に、終始足を掴まれたままだった。
(早くこの場から逃げたい、人も集まってきているじゃないか!俺に商品を盗まれた人間に目を付けられてなけりゃいいが)
少女の母親は暫く、白い衣装の女を診ていた。すると、白い衣装の女が咳き込み始めた。
「ごほっ、がはっ、ごはぁぁっ!……ん~~?あれれ、生きてる?おおぉ、私生きてるぅぅ~~!」
目を覚ますにしても、もう少し感動があっても良いと思う私は変だろうか。
女はひとしきり元気一杯に体を動かした後、白い衣装の女は、
「いや~~、綺麗なお姉さん。貴女が助けてくれたのですね?」
と、少女の母親に向かって笑顔を向ける。
「いえいえ、私はあくまで娘と、あなたが足を掴んでいる、その子が助けたから、助けてあげられたのよ?」
少女の母親は謙虚にそう言った。
「ありがとうございます、でも綺麗なお姉さん。貴女が助けてくれたのは間違いないから、私がお礼をしてあげるよ!」
白い衣装の女は、おもむろに手を伸ばすと少女の母親を抱きしめキスをした。
口と口のキスである⁉スッと、口を離し息を吸い込むと白い衣装の女は、
「如何でしたか?綺麗なお姉さん?」
「結構なお手前で(モジモジ)」
少女の父親と少女は勿論、私と周囲の野次馬までも、時間が凍りついたように動けなかったのは言うまでもない。
「さて、私を助けてくれた花のような少女と、忠犬君にもご褒美をあげなくてはね!」
そして時間を凍らせた本人が、凍った時間を動かした。とった行動は獲物を捕らえるかのように、両手を左右に広く上げるポーズだ。
すると、少女の父親が娘を庇うように前に踊りでる。
「娘を淫乱にする気か貴様!」
(どう考えてもそう判断しちゃうよな⁉当然、私もマズイ立場だった!)
「いやいやいや、屈強な旦那さん。これは私の誠心誠意のお礼ですので、どうか花のような娘さんを私に下さい!」
「大丈夫です、あなた!きっと新しい感動を覚える筈よ!」
両親への挨拶のように懇願しているのは、水に濡れた白い衣装に身を包んだ女と、自分の娘を快楽への道に誘おうとする母がいた。
(どう考えてもおかしい状況にいるよな。私、本当どうして助けたのだろう)
しかしこの状態でも、まだ私の足を掴んでいるのだから、いい加減にして貰わないと、
「そろそろ離して頂けないかと、いい加減足の感覚が無いのですが」
すると私の言葉に反応して、白い衣装の女が振り向く、
「おやおや、忠犬君はしたないね。欲しがっちゃって☆」
振り向いたのは、色欲の悪魔だった。
私の意識が地に落ちる。肉体を乖離するように、自らの理性が、認めてはならないと野獣の如く暴れる。
私の小さな体は、対した抵抗も出来ず、私の心身は凌辱された。これが……快感か、と。
▽
私の意識が覚醒したのは、少女の膝の上だった。私を助けてくれた少女だった。はて、なぜ少女の膝の上で眠っていたのだろう。
強烈な快感に身を震わす夢を見ていた気がするが、気のせいだろう。そうだ、気のせいだ。
私が助けた(助けたのは少女と、少女の両親の力だろうが)白い衣装の女はいなかった。それと、なぜかこの少女の心身を気にしている私がいる。
そういえば、私を助けてくれた少女に聞きたいことがあったのだ。ごたごたして忘れていたが、私と、あの女をどうやって川岸に引き上げたのか。
「やぁ、さっきの質問ですがどうやって私を助けてくれたのです?」
と、少女に問いかけてみる。少女は私が目を覚ましたのを見ると、破顔した。
そしてやはり、川岸にあるレバーを指差す。
すると一人の老婆がレバーに近付くのが見えた。老婆はレバーに体重を軽く乗せ、中立していたレバーが倒れる。見れば、私が溺れた川の水が緩やかになっていくのだ。
この川は三つの流れがあり、市街地まで続く大きな流れを主体に、森の方へ続く流れ、そして人々が洗濯する為の網目状の流れがある。私が溺れている女を見つけることができたのは、結構低い確率だった。
老婆が倒したレバーで、洗濯する為の川の流れが、緩やかになり、両方の川岸に繋がっているロープが見えた。老婆は川の中へとロープを掴んで進み、川の中場に設置されている籠を手に取っていた。
「なるほど、川の水を緩めてから、ロープに引っ掛かった私たちを引きずってくれたんだね?」
私が問いかけると、少女は何度も首を縦に振った。
「そうよ、頑張ったんだからね」
私が納得して、もう一度川に目を向けると、老婆は籠を川岸に持って帰ってきていた。
(結構な年寄りでも安全な装置になっているのか、はたまた、日常的に行っているから慣れているのか……)
そう私が思案していると。
「ケイリー、そろそろ帰るぞ!」
少女の父親だろう、大きな声が聞こえる。少女は私を見て困ったような顔をした。
「ねぇ、あなた良かったら家に来ない?」
私を掴むケイリーの手は一緒に来ないかというものだった。
それに対し私は少し微笑み、
「ケイリーと言うんだね、私は大丈夫ですから、お父さんと、お母さんの所へ行ってあげて下さい。またどこかで会えたら良いですね」
私は少女、ケイリーの手を離れ私の居るべき所へと走っていく。両親にしっかりと育てられた、健気で勇敢な少女には、私のような醜く汚い社会いの一端を見るべきではないのだ。
そう、彼女が私を家へ来ないかという誘いは、私の惨めな姿を可哀想に思っただけだろう。
私は生きる為に盗みを働く、他人が汗水流して働いた商品を、何の代価も無く盗み、奪い、血肉にする。そんな、みじめったらしい姿で人を救おうとした私は、何を考えていたのだろう。ついに自分の考えさえも理解できなくなっているのか。
綺麗な心の一端を見てしまった私は、意味も無く全力で走っていた。薄暗い煉瓦できた建物の合間を走り抜ける。
最早、意味なんてどこにも無く、醜く自分の体に染み込んでいる汚水を、必死で汗として発散させるため、走っているのかと錯覚してしまった。
私の体力も尽き疲れ果て、今更ながらあの白い衣装の女に掴まれていた方の足が、痛んでいるのに気付いた。
(あの女しっかり足を挫いてくれたな、まぁそんな足で走っていた私も私だが……)
と、自分の行為に呆れて果てていたその時、
「おい、あいつ泥棒のウィルじゃねぇか?」
「あぁ、間違いねぇ。汚く伸ばしたあの毛むくじゃらは、ウィルだ」
私をなじる声が聞こえた、声の主は私のよく知る者達だった。
「なんの用だ、ロイド、ザカリー。私を警察へ引き回すのか?やめてくれ、今日は厄日なんだ。おちおち休憩もできやしない。やっと休めるかと思ったら、泥棒行為を嫌うロイド様に、自分の毛並みを誇るザカリー様にからかわれちゃあ、気分は底辺だ」
私が皮肉を言い、用は無いと暗に告げると、
「最近物騒になってきたよなぁザカリー?」
「あぁ全くだぁ、ストレスは毛を痛めてしまうなぁ。悩みの種は早々に無くすに限るよなぁロイド?」
睨みつけるように私を見てくる両名に対し、
「言いたい事があるならハッキリ言ったらどうかな!ロイド、ザカリー!私は正直に言うよ、今君たちの顔を見るのはご免だね!家があり、主人に仕えることのできる君たちの顔を見ていると、そう、殴りたくなる」
私が語気をあげると、
「俺達は番犬を務めているわけだ、ウィル」
ロイドが軽薄な雰囲気を殺し、厳かに言う。
ロイドの言葉に、ザカリーが続く。
「今お前が座り込んでいる土地は、私達主様の土地だぁ」
「つまりウィル、俺達が言いたいのは、昔の馴染みではあるが物騒な事になる前に、自分の足で出ていけと言いたいのだよ、すでにお前の姿がご主人様に見られている」
ロイドの言う通りだった。私は挫いた足を休ませる為に、他人の土地へ不当に侵入してしまっていたのだ。
ロイドとザカリーは、主の命令で私を追い出しに来たというのに、私は両名に悪態を付いた挙句、暴力も辞さないと宣言してしまっていた。だというのに、両名は私に危害を加えてこない。
(あぁ……。あぁ……‼なんと恥ずべき生き物なんだ私は!)
羞恥のあまり、「出ていくよ」と言ったつもりだが、言葉に出ていたかどうか、私には分からない。
トボトボと足を引き摺る私に、ロイドとザカリーは何も言わなかった。
先の言葉通り、言いたい事があるなら言ったらどうかと思ったが、何も言わないでいてくれた両名の優しさが辛かった。
▽
そんな私が呆然とロイドとザカリーの主の土地では無い場所で座り込んでいたら、果物屋の主人に見つかってしまったのだ。
私が根っからの泥棒であることを自覚してしまった先程のやり取りで、果物屋の主人の前から逃げ出そうという気は起きなかった。
果物屋の主人が私を縄で縛った後、名案でも思い付いたように、縄で縛った私を連れていく。
(どこに連れていかれるのだろう)
恐怖がよぎる、連れていかれるのは私にお似合いの地獄かも知れないと不安が募る。一旦は逃げ出すことを投げ出していたのに今更、生への執着心が湧き上がる。
(あぁ、神様。こんな私でも人を助けようとしたことはあるのですよ。ついさっきの出来事ですが、どうか私に生きるべき道を示して下さい)
私が連れて来られたのは、私がよく盗みに入っていた肉屋だった。
私は人より鼻がいい、肉の臭いも十分に鼻に付き、生臭い血の鉄の匂い。私達が口にする大半は、処理された後の肉だから、現実感は薄いが、私が連れてこられた肉屋の中で、私の前にいるのはまだ生きている羊だった。羊毛は刈られふっくらとしたイメージからはかけ離れたやせっぽち姿で、寂しい面持ちで死刑執行を待ち受ける様だった。
怖いと感じた、タイミング的にも最悪だった、私もこうなるのかと。
果物屋の主人が言う。
「ルーカス、丁度良かった。こいつにも見せてやれ、お前もこうなるってな」
果物屋の主人の言葉に肉屋の店員が驚く、
「モハメッドさん!そんな汚い奴を作業場に連れて来ないでくださいよ!内に連れて来られるのは、お客様に頂くための子達なんだから、そんなのと一緒にしないで下さい!」
肉屋の店員が私を罵倒する、私は殺される価値も無く存在自体が無価値だと、ハッキリそう告げられたのだ。そんな言葉に私の怒りが生まれなかった訳ではないが、同時に身も知れぬ寂寥感が無かったでも無いからだ。
「こいつはすまねぇぜ!そうだよな悪かった、こいつは倉庫にでも詰めてくるわ」
果物屋の主人は心底申し訳なさそうに謝罪を述べる。
「モハメッドさん?そいつはいつもの泥棒でしょう、どうなさるおつもりで?」
「決まってらぁ、いつも懇意になっている法の番人に献上するんだよ!」
法の番人、私はその言葉に酷く恐怖抱いた。私のような生活をしている知り合いが、法の番人の手によって命を償わされたのだ。私の友もその中に含まれる。
「ねぇ、モハメッドさん。もしよろしければ、法の番人の所へ連れていく前に、私達で少し裁いてもいいんじゃ無いでしょうか?」
肉屋の店員は日頃、接客に見せる笑顔を忘れてしまったかのように、歪んだ表情を浮かべる。
さらにそれに、呼応して肉屋の主人も、
「いい案だろう?だから連れて来たんだ!いつも苦汁を舐めさせられたからな!」
私はその少し裁くという、ニュアンスに恐怖し、体を捩り肉屋の主人の拘束から逃れた、縄で縛られてはいるが、何とか走ることには成功した、
「あ、おい待ちやがれ!」
しかし、少ししたら扉の段差で躓いてしまった。
(クソ!普段ならこんなの段差とも思わないのに!)
倒れた私の首根っこをガッと掴まれる。
「ついに捕まえたぞ!この泥棒が!」
「いつまでも逃げられると思うなよ!」
私は恐怖と絶望を味わった。
生まれてすぐは施設におり、成長と共に施設も経営が困難となり廃れた。その後はそこそこ成長していたので、町行く人々に食べられる物を貰い育っていた。
しかし、何年か前に大きな戦争が起こった。幸いにも戦地からは距離があったので、重大な被害こそ受けなかったが、その際に多くの食料や資源、兵士として若い男たちは戦地に送られた。
その影響があり、貧困者達に食べ物を譲るような余裕が無くなり、私達のような生活をしていたものの多くは、衰弱していった。
私は何とかこの状況を抜け出そうと画策していたが、結局私にできたのは、誰かの成果を奪うことだった。
今この二人、ルーカスと、モハメッドに追い詰められている状況は、私が生きる為に画策した結果なのだと、後悔した。
(ロイド、ザカリー、君達はあの絶望をどう乗り切ったんだ。私には選択肢が他にもあったというのか?……私のこの状況を死んだ友はどう思っているだろう。最後に私を助けくれたあの少女のような人たちには、こんな最後を向かえて欲しくないと思うのは、偽善なのだろか、神様、私に相応しい罰とは何なのだろう?どうか、いるのであればどうか、どんな罰なのか教えてくれ!)
私の問いかけは霧散するのだろう。悪魔のような表情の二人が手を伸ばす。
執行人の手は私を掴む。その時、
チリリンッ、チリン……。とベルの音が聞こえた。
「お客様だ」
肉屋の店員、ルーカスが言う。
「モハメッドさん、少し待ってて下さいね」
私の死刑執行は、どうやら伸びたようだ。
「逃げようなんて思うなよ、今お前をどうしてやるか考えてるところだ」
果物屋の主人モハメッドは、私の口を覆いながらにやにやと、厭らしい笑いを浮かべる。
早く逃げなくてはと、思う私の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
「よぉ、ルーカス。今日は鶏の胸肉を買いたいんだが、俺の家内がご機嫌でな、大盤振る舞いだ。」
私が溺れているのを助けてくれた、少女の父親の声である。
「いつもありがとうございます。ゾーィさん、鶏の胸肉ですね、今日は卵も多く入荷してるんですよ。良かったらそちらもどうですか?」
ちゃんとした店員らしく、しっかりと他の商品を進めてくる。先程私に対して話してきた声とはまるで別人である。
「いいわね、今日は奮発しちゃいましょうよ、気分もすこぶるいいわ、私」
どうやら妻もいるようだ、気分がいいのはあの変態とのキスのせいでは無いか?(私は何を言っている?)と、つくづく思うが、両親がいるのであれば、勿論あの少女もいるのか。
私は希望では無く、切実にあの少女にはいないで欲しいと思った。こんな所を見せられるはずも無い。いないのであれば、私は今すぐあの両親に助けを求めるが!
「イザベラさん、良いことがあったんですねぇ。良かったらその幸せを少し、このルーカスに落としていっちゃあくれませんかね?なにせこの最近嬉しいことが少なくてねぇ」
「えぇそうね。じゃあルーカスが喜ぶように卵も五つ程頂こうかしら」
「イザベラ、良いことというのはまさか、あの白衣の女だったか?今日はケイリーの誕生日だからじゃあないのか?」
「もちろんケイリーの誕生日よ!でもあの科学者さんの熱いキスも良いことの一つよ!」
「……キスですか?ゾーィさん、女の人に奥さん取られちゃったんですか?」
不審そうにゾーィの方を伺っているのだろう、ゾーィは、
「な、何を馬鹿なことを、こいつはこんなにも俺のことを愛しているというのに!」
と、必死な声が聞こえてくる。
(そんな雑談で良い!何とかカウンター側の様子を把握できれば道はある。あの少女がいるなら私は別の手段を講じるし、いないのであれば、私は今すぐこいつの手に噛みつき大声で助けを求めてやる!)
私はここぞとばかりに、体を動かす。そんな私の様子を見て、果物屋の主人モハメッドが私の口を躍起になって抑える。
「こいつめ、大人しくしろ!」
私の口と体が締め付けられる。思うように体の自由も聞かなくなってきた。
「あなた、ケイリーを外で待たせてるし、早く買っていきましょう?あ、ルーカス?卵だけじゃなく牛脂も頂くわね」
イザベラ、少女の母親の言葉に私は決断を決めた。
「あぁ、そうだな。ルーカス、いくらになる?」
「はい、六ポンド……」「ギャッ!」
ルーカスの言葉に被さるように、モハメッドの小さな悲鳴が、静かな店内に響き渡る。私がガブッ、と私の口を覆う右手に噛みついたのだ。ようやくまともな空気を吸い込み、
「助けて下さい!殺されてします、こっちへ来てください!」
私は全力で叫んだ。
「おいおい!なんだぁ、さっきのは?ルーカス、店の奥に入るぞ」
「あ、ちょっ……、ゾーィさん!お待ち下さいよ!」
そんな静止もなんのその、私の救世主がモハメッドに捕まっている私を見下ろす。私は縄で縛られていることを、全身を使って猛アピールする。
「なんだこれは、モハメッド」
「あ……、ゾーィさん。これは、これは……、いやそのですね……。そう盗みを働いたこいつに、ちょっとした……そう、躾をですね……。」
ゾーィの言及に対し、モハメッドはしどろもどろに弁解の意を示す。そう、ここで困るのはゾーィが彼らと同類ならば、私はここでお終いだということを失念していたのだ。
あのような少女に育てた親なら、私のことを助けてくれる筈だと決めつけてしまっていた。
(どうだ、神様。私はここで罰を受けるのか、それとも報いるチャンスをくれるのか?)
「……そうか、躾か」
ゾーィは私を見た瞬間は驚いた表情をしていたが、今は平静そのものだ。その言葉を受けたモハメッドは、自分の説明が通じたのかと判断したのか、
「そうなんですよ!いつも悪さばっかりしやがるもんでね、ここらで身の振り方を教えてやろうってぇ話になったんですよ。なぁ、ルーカス?」
「へ?あ、いや、そうですね……。私は何とも……。」
モハメッドはルーカスに賛同を持ち掛けたが、ルーカスは曖昧に言い淀むだけだった。そんな二人を見てもゾーィは顔色を変えず。
「……。」と何かを思案する素振りを見せる。
(チッ……、選択肢があるのならば、私はどうにも外ればかりを選んでいるようだな。ここらで諦めるしかないのか……。)
私が希望を捨てると、状況が変わらないのにウンザリしたのか、終始言葉を発さなかったイザベラが言った、
「ケイリーを連れてきましょうか。あの子なら、この子の言いたいことも分かるでしょし。」
「え?お嬢さんをですかぃ?」
イザベラの台詞に疑問を呈したモハメッドに、
「えぇ、そうよ。あの子なら私たちが分からない言葉も通じるでしょうからね」
「……分かった。ルーカス、モハメッド。その子を外に連れて行かせてくれ。ケイリーは肉屋に入れないからな」
ゾーィと、イザベラのお蔭で私は、拘束されたままの状態ではあるが、もう一度太陽の光を目にすることができたのだ。あの少女の両親が入ってきた肉屋の玄関を開き、外へと出る。
そして私が太陽の光と共に視界に入れたのは、深緑色の長い髪を鮮やかなエメラルドグリーンに輝かせた、少女の姿を目に焼き付けたのだった。
少女が振り向く。両親と、肉屋の店員、果物屋の主人に目をやり怪訝な顔をしたのち、拘束された私を見つめ、美しい瞳を大きく見開く。
「あの時溺れていた子ね⁉どうしてそんな風に縛っているの!離してあげてよ、痛そうじゃない!」
少女が大きな声で私の身を案じてくれた。途轍もない感動を覚えてしまった。
だが、同時に私のこんな無様で下品な姿を、彼女に見られてしまったのが何より、ショックだった。出来ることなら、少女には私のような汚い存在を見ていて欲しくは無かったのだ。
「あぁ、落ち着けケイリー。お前にこの子の言葉を聞いてもらいたいんだよ。私達では分からないからな」
ゾーィがケイリーの肩を掴み、落ち着くように促す。
「何?どういう事、その子が何か悪いことでもしたの?」
ケイリーは眉を顰めて私を見る。
(あぁ、私をそんな目で見ないでくれ……。)
私は恥ずかしさのあまり、彼女から目を背けてしまう。
「事情は分からないけど、その子の言葉を聞けばいいのね?いいわよ。その子が悪いことをしたというなら……、どうするの?」
「勿論モハメッドとルーカスに託すさ、躾をするようだから」
ケイリーの疑問にゾーィは感情を殺したように言い捨てる。
その言葉を聞き、眉間に皺を寄せたが、自分の父親の顔を見ると納得したように一度頷く。
そして決心した少女は、私の目の前まで悠然と歩いてくる。少女の体が影となり、私を照らす太陽が隠れる。
少女は縛られたままの私の顔に、その白く人形のような両の手で私の顔を包む。
「あなたは、どうして縛られているの?どうして私に助けを求めないの?どうしてこんなことになっているのか、私に教えてくれる?」
少女は私の瞳を真っ直ぐと捉え、嘘をついてはいけないとその眼が語ってくる。私は時間がゆっくりと過ぎるかのような錯覚を覚えた。
震える口を引き締め、少女に私の言葉を伝える。本当に伝わるのであれば、私の罪をいっそのこと、この少女に裁いて欲しかった。
狂気を宿したあの果物屋の主人と肉屋の店員ではなく、潔白な少女の言葉で心を突き刺して欲しく思った私は、この少女に懺悔をしたいと思った。
「私は生きる為に自らの手で食べるものを盗みました。
私には自分で食べ物を得ようと行動したことはありませんでした。
私は自分一人の利益の為に、誰かが不幸な目に遭うことをしました。
私には誰かと利益を共有できたはずなのです。それを怠りました。
私は亡くなった友の教えを守らず、自らの選択肢を自分で切り捨てていました。
私には多くの選択肢があったはずです。
誰かを守るために行動をすれば良かったのです。
私は意地汚くも、もっと生きていたいと思いました。
私のこれまでの行いを鑑みると、それは傲慢というものです。
そう、私は自分で自分を追い詰めていたのです。こんな無様な姿を君に晒していますが、これは然るべき罰なのだと理解しています。しかし、出来うることならもう一度、自分の生き方に誇りを持っていたかったです。誰かを守り、誰かを助け、誰かに信頼を託して欲しかった!今更、虫の良い話だとは分かっています。でも、私はまだ生きていたい!」
「…………。」
少女は私の懺悔の言葉を、真剣な面持ちで聞いてくれた。
例え少女の判断が、私を悪だと断じても。私はそれを受け入れよう。言いたい事はまだあるが、話している内、私の本心に私が気付いた。
(何だ、私はまだ生きていたいのか……。生きて何をするのだろう?)
私は、自分の気持ちを整理できていなかったのだ。毎日生きていく為に、見張りの目を盗み店頭の食べ物を奪取し、自らの糧としていた毎日は、いつも崖っぷちで綱渡りをしている状況だったのだろう。
それが今、私の顔を暖かく包んでくれているのは、私が少しばかり『良いこと』をしようと行動をとった後に、出会えた命の恩人だ。
そんな少女に私は、不安定な心のバランスを支えられたのだろう。
私を見つめる澄んだ空色の瞳は、嘘や欺瞞、疑心を忘れさせる程透き通っており、風に靡く深緑色の長い髪は、私の心を穏やかな気持ちにさせる。まるで空と森に包まれているかのようだ。
暫くすると、少女は「うん」と軽く頷き、
「お父さん?この子は確かに悪いことをしたみたい。人の物を盗んだり、自分の為に周囲が困っているのを見て見ぬ振りをしてきたそうよ。」
少女ケイリーが、私の顔から両手を離し、父の方を振り返る。そして、私の言葉を代弁する。
(本当に言葉が分かるのか、私がこの少女に出会えたのは神の思し召しなのかもしれないな……。)
私が少女に対して感動していると、
「そうでしょう!そうでしょう⁉その泥棒には然るべき躾をするべきなのですよ!」
今まで黙り込んでいた果物屋の主人、モハメッドが勝ち誇ったように声を張り上げる。
「ですが……。」
と、モハメッドの声を止める為か幾分大きな声で、ケイリーが言う。
「この子は、自分が間違った選択をしていたのを私に伝えていたわ」
毅然と、ケイリーはモハメッドに対して、私の気持ちを伝える。
「いやぁ、ケイリーちゃん。今まで私達飲食店は、この泥棒に苦汁を舐めさせられてましてね?ここいらで、ケジメをつけなくちゃぁならんのよ。分かっておくれよ?」
モハメッドは額に脂汗を浮かべながら、お客であるケイリーに対し、物腰柔らかに説得する。
それに対して、一切妥協は無いと言わんばかりに、ケイリーは、
「分かっています。いけないことは、いけない。悪いことは、裁かれるのも知っています。でも!この子は自分の間違いを認めて真実を話してくれたわ、小さい頃から生きる為に食べ物を盗むことが彼にとっての限界だったのよ。それは確かに間違っています。でもね?この子はほんの少し前に、自分とは全然関係のない人を助けたの。それも自分よりも遥かに大きな人をね。川に真っ先に飛び込むのを私は見ていたわ。助けなきゃ!と私も思っていたけど、川に飛びこむ勇気は私には無かった。」
私はその言葉に疑問を抱いた。
(え?彼女は確かに私を川に入って助けてくれた筈だが……?)
その疑問に答えるかのように、少女は続ける。
「この子が必死に女の人を川岸に押していくのを見て、私もようやくハッとしたわ。人の命が目の前で失われそうになっているなら、自分に出来る行動をするべきだって。この子が、川岸のロープが張っている付近まで押してくれたから、私も行動できたわ」
少女は私を見て、微笑む。
その微笑みを私に向けてくれたから、私はあの時溺れていた白衣の女に感謝した。
(この子は自分に勇気が無いといったが、私にはそうは思えないな。人を助けるために行動を起こすのは簡単な事じゃあないだろう。ん?私は自分を褒めた訳では無いよな?)
私が少女に対して自信を持って貰いたいのだが、どうしても私も行動したつもりなので、自画自賛になってしまう。少々自己嫌悪にかかってしまう。
「この子は勇気を持っているわ、物を盗んだり、迷惑をかけたのは悪いことだけど、人の助けになれることを評価してあげて欲しいの」
ケイリーは、モハメッドとルーカスの二人を見て懇願する。私の為になぜそこまでしてくれるのか、私は酷く心配してしまった。
(私のことを誤解しているのか?私は決して良い奴ではない。君が庇ってくれるのは嬉しいが、君を見る他人の目が変わってしまう)
そうだ、私はこの少女が周りから疎まれ、迫害される可能性を恐れたのだ。
しかしそんな私の心配も通じず、
「だからね、モハメッドさんこの子のお仕置きは見逃して欲しいの。私からこの子に言って聞かせるから」
モハメッドがケイリーの言葉に、目を瞑り唸る。
そんな様子を見ていたケイリーの両親、ゾーィとイザベラが、
「モハメッド、ここは一つ娘の頼みを聞いてやってはくれないか?何だったら私が君達の被害額分を負担しよう」
「フフッ、そうよね、そういってこそのあなたよ。やっぱり惚れ直しちゃうわ」
ゾーィとイザベラは、あろうことか私の犯した過ちを負担するというのだ。その二人の言葉を聞いたケイリーは、
「お父さん、お母さん⁉いいわよ?私が働いて返すよ!」
「何言ってんだ。まだまだお前を独り立ちさせる訳にはいかんからな。そうだ、俺が仕事で疲れた時に家に居てくれないと、やる気が無くなるからな」
「あらあら、ケイリー?あなたには、私達のご飯を作って貰わないと、お父さんお腹ペコペコになって、倒れちゃうじゃない。すっごく、食べるんだから頑張ってね?」
ニコニコとケイリーの両親は、ケイリーを見る。両親に微笑まれるケイリーは少女らしく顔を夕焼けのように真っ赤に染める。
そんな家族に押し負けたのか、モハメッドは、
「ゾーィさんにそう言われちゃあなぁ……。分かりました。こいつは離しておきますよ」
「良いんですか?モハメッドさん、折角捕まえたのに……?」
ルーカスが驚いた様子でモハメッドに問いかける。確かに私を捕まえたのは彼らにとって、悩みの種を減らせるからだ。それをすんなりと引き渡そうとしたのが、意外なのだろう。
「ルーカス、考えてもみろ。ゾーィさんが娘さんの為なら何でもするのを忘れたのか?どうせ俺もケイリーお譲さんには頭があがらねぇしなぁ……。」
「……。まぁ、確かにそうですが……。」
モハメッドは、しょうがないとばかりに髪の量が寂しくなっている頭を掻く。ルーカスは反対したいが、納得するべきと判断したのだろう、こちらを薄目で睨みながら不承不承に首を竦める。
「ありがとう!二人とも!感謝します!」
ケイリーは花のような笑顔を浮かべる。彼女の笑顔は満開の向日葵のような眩しさを連想させる。
自分のことのように喜んでくれる少女を、私はこの小さな体で守りたいと思った。
そんな私の考えを読み取ったのか、ゾーィが、
「いつも悪いな、二人とも。今度うちの店の商品を差し入れるから、それでもこの子が盗んだ額に足らんようなら言ってくれ。すぐに返金するから。……で、だ。」
ゾーィはそこで一旦言葉を区切り、私を見下ろす。
「この子には家でしっかりと働いてもらうとするぞ?丁度小物持ちと、家の番をしてくれる奴が欲しかったんだ。ケイリー、この子の名前を聞いてくれ」
「うん!分かった、ねぇねぇやっぱり家にくることになったね!今度は、名前を教えてよ?あ、自己紹介まだだったね。私はケイリー、あなたの名前は?」
ケイリーは私の体を縛っている縄を解きながら、私の名前を聞く。私は、
「私の名前はウィルです。ケイリー、あなたの名前は、私を助けてくれた時から忘れたことはありませんよ。私の言葉を理解してくれて、本当にありがとう。貴女達は私の命を二度も救ってくれましたね。こんな小さな体ですが、貴女達家族を守らせて下さい。今までそんなまともな真似はしたことがありませんが……。」
私は、縄を解かれ自由な体になったが、いまだに私の心は何か、罪悪感にでも縛られているかのようだ。ケイリーは、そんな私を慰めるように頭をなでる。
「フフッ、ありがとう。良いのよ、頑張って私達を守ってね、ウィル」
「へぇ、ウィルね。『勇敢な守護者』か。ピッタリじゃあないか、家の番犬に相応しいな!な、イザベラ?」
「えぇ、そうね。しっかり守ってくれそう。これから家族になるんだもの、よろしくね?ウィル。」
私の危機を救ってくれたのは、ゾーィだ。
私を二度も助けてくれたのは、その娘のケイリー。
私を家族として迎えてくれたのは、二人が愛している妻、イザベラ。
私はこの日を忘れない。暖かい家族に迎え入れてくれた、私が守るべき主人達。
私のことを家族だと言ってくれた彼らを、この身に変えても守ってみせると。
「はい……。はいっ!どうぞよろしくお願いします。背一杯頑張りますので!お傍に居させて下さい。
▲
そんな、私の転機をふと、主人のゾーィの後を追いながら思い出す。
思わず頬がにやける。
この家族に加えてもらって変わったことが、私の毛色だ。
しっかりと洗うことが無かった私の体毛は、ケイリーのおかげで、輝かんばかりに艶のあるブラウンへと変化した。
元々長かった私の毛は、ケイリーのブラッシュアップでフワフワとした直毛へと変化した。私の体を抱きしめるのが、ケイリーの趣味になっている。
こんな幸せを与えてくれた神様に、感謝しなければならない。
(あ、あと白衣の女にもだなぁ)
もう一度、決意しよう。私は彼らの守護者だ。
だからこの身に変えてでも、彼らに危機が迫った時は、私が救う番だ。
家族と言ってくれた彼らの命を助けるのも私の役目だ。
私は、勇敢ではないだろう。
しかしそれでも、私は家族の守護者でいる。
彼らの前では小さな心を奮い立たせ、向かってくる危険から守っていこう。
泥棒と呼ばれた頃からは考えられないが、私は番犬だ。
ロイドとザカリーのように、主人の為に尽くすことを至高とする考え方が私にも出来た。
彼らにもまた、挨拶へ行こう。この前の非礼を詫びねばならない。
迷惑をかけた食品屋にも謝罪に行かねば。
どうやら、今日もケイリーがゾーィと私の帰りを待ってくれているようだ。森の中を通っている川の橋の向こうに、私達の帰る『家』がある。家の玄関からこちらへ手を振るケイリーの姿が見える。
ゾーィが手を振る、私は彼女に届くような大声で叫ぶ。
「ただいま帰りました!」
ケイリーは、家に着いた私達に満面の笑みで返してくれる。
「お帰りなさい、お父さん、ウィル。美味しいご飯ができているわよ!」
私はこの幸せな暮らしを守っていきたいと、何度も心に誓う。
種族が違えども、私を家族と呼んでくれる彼らに、心から感謝と忠誠を捧げよう。
【戸梶良識】処女作です。
『救うものは救われる』という作品を思い付いたのは、『名犬ラッシー』を見てふと思い立ちました。名作の話とは全然違いますが、ラフコリーの目線で世界を描くことが出来れば面白いなと思い、『小説家になろう』に投稿させて頂きました。
ラフコリーの特徴は、神経質だが自尊心が強く。家族に対して従順で優しいという性格がとても大好きです。
なんだが繊細な一面がとても魅力的です。
私にとって、犬とは忠犬で、ヤンチャもので、寂しがりやで、頼りになる存在です。戌年の私がこのイメージを推進させます。
さて、この作品ですが。
盗みを働きながらも、必死に生き延びようとする崖っぷちな状態でも、人を見捨てることはしなかった。という主人公を描きたいと思いました。
犬の声が聞こえる少女がいるということで、この世界観は『すこし不思議』な感じです。
主人公が、一度は命を諦めますが、生きることを切望して欲しいと思い、少女に懺悔するシーンを思い浮かべました。
私の文章力の問題で、誤字脱字、理解できない文章があると思います。
このようなあとがきを書く時点で、立派な『小説』とは言えないのかも知れませんが、『小説家になろう』に投稿させて頂くことで、文章力が上がればと思います。
今後も作品を投稿致しますので、もしご覧頂きました方がおられましたら、
今後とも、どうぞよろしくお願い致します。
最後に、生きるということは常に全力だと思っています。
私たち人間の体は恐ろしいほど、無意識の内に計算し、体を機能させているのですから。眠って意識が無かろうとも、私達は全力で生きています。
人間ってとても凄いと思いませんか?