コワイユメ 1
こわいよ……こわいよ……
おおきなマモノたちが、たくさんいるの……
おとうさま、おかあさま、たすけて……
さみしいよ……こわいよ……
暗闇の中で小さな女の子が泣いている。
かわいいピンクのドレスは汚れて、ふわふわの金髪はリボンが解けてしまっている。涙で真っ赤に腫れた目、色白の、あれは……私?
泣かないで。大丈夫。もうすぐ……が助けにきてくれるから。
遠くに聞こえる恐ろしい断末魔の声。ほら、魔王をうち倒したわ。
ゆっくりと光が差し込む。あたりに、色が戻る。
「よくがんばったな」
頭上から降る低い声。
顔を上げた私は……彼が差し出す手に怯えた。
赤く染めるのは、魔物の血? それとも……
「おい、……。その仏頂面なんとかしろよ。姫さん、すっかり怖がってるじゃないか」
「無理言うな。ほら、おいで。城に帰ろう」
黒髪に黒い鎧の騎士さまと、炎のような赤い髪の美人な女戦士。二人とも、ひどい怪我……私のせいで……!
「もう、泣かなくていい」
騎士さまはぎゅっと私を抱きしめてくれた。温かくて、ホッとして、また涙があふれた。
女戦士は何度も何度も髪を撫でてくれた。くすぐったくて、嬉しくて、私はやっと少し笑えたの。
騎士さまは私を抱き上げて、宙空に魔法陣を描く。きらきらと光る輪の中をくぐると、そこはお城のすぐそばで。
みんなが、笑って手を振っている!
ああ、帰ってきたんだ!
「おとうさま! おかあさま!」
私もちぎれそうなくらい手を振ったら、騎士さまが、落ちる、落ちるって、またぎゅっとしてくれたの。
おとうさまも、おかあさまも、大臣たちも、国中のみんなが、私の無事を喜んでくれてる。
魔王はもういない。これで、みんなが幸せに暮らせるのね!
そう思った時だった。
青空は急に真っ暗に、がーんと耳が壊れそうなくらい大きな音がして、息ができなくなった。
禍々しい暗黒の空から落ちたいかづちは幼い姫を直撃し、その意識の奥深くに入り込む。
無機質な赤い瞳が騎士を捉え、その可愛らしいくちびるをいびつに歪めた。
「よけろ! エルグ!」
女戦士は叫ぶと同時に斬りかかる。それより先に、姫の爪が彼女のよく整った顔をえぐった。
「テスラ!」
かろうじて失明は免れたが、その傷は深い。しかし女戦士は気丈に剣を握り直し、騎士の腕の中で笑う姫を睨みつけた。