赤い髪の女戦士 3
「で、姫さんは今どこに?」
「ピコのところです」
「エルフの女王か。懐かしいな」
テスラを無視してエルグは考える。
人間の国が危機的状況ならば、食材を届けてくれるドワーフ達はいったいどうして調達していたのだろう。今日の茶会でも、おそらく人間の国から取り寄せた菓子が出されるはずだ。ピコに確認しなければ。
「なあ。今からでも遅くない。姫さんを……」
「帰ってください」
テスラはどんとテーブルを叩いて立ち上がった。
「おまえ、おかしいぞ! 姫さん一人と、大陸全土の人間の命、どっちが大事なんだ!」
「どちらもです。魔王が欲しがるエクサの力は、良い方に使えば悪を滅ぼすことができる。その可能性があるのに、なぜ彼女だけが犠牲にならなければいけないのです?」
幼い頃に魔王にさらわれ、ようやく助け出された矢先に魔王にとり憑かれた。復活を恐れる人間たちはテスラの言うように、いっそエクサを無き者にとつけ狙うだろう。それではあまりに不憫だ。
「ここに来る前の記憶は封じています。くれぐれも、余計なことを言わないでくださいね」
「なんで、そうまでして……」
人間の国では、魔王にとり憑かれた勇者がエクサ姫を連れ去ったということになっている。
望まぬ力を持って生まれたエクサを気の毒には思うが、かつての戦友の名誉を回復してやりたい。なのにこの男は、頑なに一人で背負いこもうとする。
「おまえ……まさか誘惑の術に?」
「それはありません。もし術にかかっていたなら、ここには入れなかったでしょう」
テスラはくしゃくしゃと赤髪をかき、とうてい納得できぬまま座り直した。カップの底に残った茶を一気に飲み干す。
「ところで、テスラ」
エルグはそっとテスラの頬に触れ、その瞳の奥を覗き込んだ。
「本当のことを言え」
「う……あ……」
魔法とは違う、暗示の一種。強い視線に支配され、テスラはくちびるを震わせた。
「私の、通行証……狙って、国王軍、も魔王……軍も……奪われる、前に……」
「逃げ込んできたのか、結界に大穴を開けて」
「……」
エルグは舌打ちしてテスラを放す。
戸棚から聖書と聖水を取り出し、急いでテーブルに魔法陣を描いた。
「……はげたら責任とってくださいね」
わずかに残った神通力を注ぎ込み、結界の修復を試みる。