赤い髪の女戦士 2
女戦士テスラは腹をさすりながら起き上がる。そして、いつまでも動かないエルグを訝った。
「どうした、エルグ。運動不足か?」
「……まあ、そうですね」
エルグは内心、愕然としていた。これほどまでに体力が落ちていたとは。
もしこれが敵だったら?
最初の矢が命中していたら?
そしてそれは、実際に起こりうることだった。
「まさかおまえ、本当に転職したのか?」
「……冗談で、こんな服を着ると思いますか」
ようやく立ち上がり、ナイフを懐に収め、使い物にならなくなったほうきを拾ってため息をつく。
「私の力は魔物を寄せやすかったので、転職して力の性質を変えました。やっと中級の修道士です」
「そんな……おまえ、最上級の魔法剣士だったんだぞ!」
変わってしまったのは髪色と口調だけではなかったのか。かつて勇者と称えられた力はすでになく、彼女が本気を出せば一撃で死んでしまいそうなほど弱々しい。
「……立ち話もなんですから、どうぞ中へ」
清潔感のある白い壁、レースのカーテン、ステンドグラスから差す光がやわらかく心を落ち着かせる。花瓶にはつややかな花が活けられ、出された甘い茶と可愛らしいカップには戸惑ったが。
「それで、何しにきたんです?」
エルグはさも迷惑そうに眉をひそめた。
「つれないことを言うなよ。そろそろだと思って援護に来たんだ。まったく、来てよかったよ。おまえが戦えないなら、私がやるしかないだろ」
テスラは白い歯を見せて笑う。前髪が揺れ、右目から頬にかけて残るひどい傷跡が覗いた。恐ろしい傷跡だが、それさえも彼女の野生的な美しさを引き立てる道具にすぎない。
しかしエルグはふんと鼻を鳴らした。
「ご安心を。復活なんてさせません。さ、飲んだならさっさと帰ってください。あなたは私以上に邪気が強い」
「お、おい、待てよ。わかってるのか? 人間も魔物も、この聖域に気付きはじめてるぜ?」
「なんですって?」
テスラはやれやれと肩をすくめた。やはり、平和なエルフの国での暮らしに慣れて気付いていなかったか。
エルフの女王が張った魔除けの結界の外では、力を取り戻した魔物の軍勢がいくつかの都市を襲い壊滅させた。人々の恐怖心はさらに魔物たちに力を与え、もはや王都が陥ちるのも時間の問題。
国王軍は懸命に魔物たちに対抗しながら、行方不明の姫と勇者を探した。