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赤い髪の女戦士 1

 エクサとフェムトが出かけると、エルグは手際よく朝食の片付けを済ませ、掃除にとりかかった。家具の埃を落とし、床を掃き、窓を磨く。汚れた部屋には邪気が集まりやすいと聞き、エクサを守るために少しでも効果があるのならと毎日欠かさず続けているのだ。

 窓の外にはやわらかな木漏れ日があふれ、虹色の霧がきらめく。とても魔王の復活が迫っているとは思えないほど、平和な日々。

 (ですが、油断は禁物。庭の手入れもしておきましょうかね)

 紅茶を淹れてひと心地つき、再びほうきを手にして表に出た。

 邪念の多い人間は立ち入ることが許されないが、清らかに、無欲に生きる動物たちは聖なる森を自由に遊ぶ。鳥は唄い、リスやサルは木の実を見つけて喜んだ。

 彼らを、そしてエルフ達を巻き込んでしまったことを申し訳なく思う。

 (なんとしても守りぬかなければ……)

 ほうきを握る手に力がこもった。

 うっかり考え事をしていたせいで、背後の藪が揺れるのに気づかない。振り返ると同時に何かが頬をかすめた。

 「……っ!」

 全身に緊張が走る。視線だけでそれを追い、矢であることを確認して息を呑んだ。エルフの戦士が使う矢ではない。人間のものだ。

 「……久しぶりだね、エルグ。まさか、こんなところに隠れていたなんて」

 炎のように赤い髪、均整のとれた身体に飾り程度の甲冑を付けたその女戦士は、おもむろに剣を抜いた。

 「テスラ、なぜ!」

 持っていたほうきを無意識に構えるエルグを見て、女戦士は蠱惑的に口の端を上げる。やはり炎の色をした瞳を嬉々とさせ、剣を振り払った。

 木製のほうきは一撃で叩き折られ、エルグは舌打ちしてそれを捨てる。懐に忍ばせたナイフで繰り返される剣撃をいなしながら、じりじりと後退した。

 「ち……」

 動きにくい修道服では次第に遅れ、剣先がそここことかすめる。

 ついに壁際に追い詰められ、エルグはきっと女戦士を睨めつけた。

 勝ちを確信した女戦士は、とどめを刺さんと上段に構える。その隙に、エルグはありったけの力を込めて彼女のみぞおちを蹴飛ばした。

 ぐうっとうめき声を漏らし、女戦士は地に転がる。落とした剣を拾い、その喉元に突きつけた。

 「ま、まいった。ちくしょう、相変わらず、女にも容赦ないな」

 「……」

 エルグは答えることもできず、何度か肩で息をしたあとその場に膝をついた。


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