ココロガコワレル
恋をすると不思議ね、なんだってできるような気がするの。苦手な料理も、裁縫も、大好きなひとのためならがんばっちゃう。
きちんと髪をとかして、きれいに洗った服を着て、にっこり笑うの。お行儀よくして、お菓子の取り合いなんてしない。少しでも早く大人になりたくて。
ねえ、エルグ、大人になったらお嫁さんにしてくれる?
そんなことを考える夜は眠れなくて、胸が苦しくて。
でも、怖い夢を見たって平気。朝になれば、エルグがおまじないのキスをしてくれるから。
ねえ、エルグ、私、こんなにエルグのことが好きなのよ?
どうして恋しちゃいけないなんて言うの? どうして、忘れろなんて言うの?
私、エルグのお嫁さんにはなれないの?
こんなにがんばったのに。嫌なこと、たくさん我慢したのに。
どうして私だけ……
ああ、ダメね、恨んだり、憎んだりしちゃダメ。エルグがいつも言ってるじゃない、魔につけ入る隙を与えちゃダメだって。
ほら、また怖い夢を見てる。
真っ暗な空、焼け焦げた大地、エルフの女王様やフェムト達が倒れてる。
エルグはどこ?
ねえ、怖いよ。夢なら早くさめて。
ああ、エルグがこちらを見てる。何か言ってる。
聞こえないよ?
ねえ、どうしたの? 初めて会った時みたいに、怖い目……
怒ってるの? 私が、ワガママを言ったから。
ごめんなさい。もうワガママ言わないから。
ね、いつもみたいに笑って? 優しく髪を撫でて?
聞こえないよ。
何か言ってるのに、聞こえない。
私の声は聞こえてる?
お願い、エルグ。そんな顔しないで。いいコにしてるから。
でも、エルグは大切な十字架を地面に叩きつけた。真ん中の飾りの宝石が割れて、眩しい光が溢れ出す。
光の中に現れたのは、一振りの剣。かつて黒い騎士さまが使っていた……
エルグはそれを掴んで、じっと私を見てる。何か言ってる。
冷たい目。
私を斬るの? いやだ、死にたくない。私はただ、エルグと一緒にいたかっただけ。エルグのことが好きなだけなのに!
黒いいかづちがエルグ達を襲う。やめて、これ以上、傷つけないで!
エルグを苦しめるくらいなら、いっそ……
エルグは剣を振りかぶり、そして何かつぶやいて、剣を逆手に持ち替えた。
「いやあああああああっ!」
ココロガ、コワレル……