復活 3
「だから言ったろ、バカだな……」
テスラはエルグから仔猫を預かり、そっと抱きしめる。抗うことさえできずに、温かい胸に身をゆだねた。
その間にも魔王は闇を練り上げ魔獣を造り、エルグ達にけしかける。
魔法を使う時間が稼げず、エルグは懐に隠していた小さなナイフで応戦した。
「大丈夫か、エルグ」
たかが魔獣ごとき、テスラにはたいした敵ではない。だが、数が多すぎる。わずかな手合わせで膝をついたエルグには、相当きついはずだ。
すでに息が上がり、苦しそうに顔をしかめている。
「守ると、決めたんだ……!」
死に場所を探していたあの頃とは違う。懸命に生きることを教えてくれた幼い姫を、慕ってくれる愛しい娘を、失うわけにはいかない。
しかし、意に反して腕は鉛のように重く、足は地に貼り付いたかと思うほど。ついにナイフが手から滑り落ちた。
「エルグ!」
間に合わない。
一匹がエルグの腕に食らいつき、それを合図に他の魔獣たちもいっせいに飛びかかった。
吹き上がる血しぶき。だがそれは赤ではなく、どす黒い闇の色。床を、壁を、汚すことなく霧散し消えた。
「エルグさん、ここはオレたちが!」
きらめく聖剣を構えるエルフの兄弟。妖猫が魔力を失い、支配が解けたのだ。
「助かりました、メガ。それから、君がギガですね? ありがとう」
「……オレたちが、魔物を連れ込んでしまったから」
誇り高きエルフの剣士は、失態を取り返そうと獣たちに斬りかかる。その瞳は森の泉のように澄み、エルグはほっと息をついた。
やがてテスラと兄弟の剣、そしてフェムトの光の魔法によって静寂と清浄な空気が戻る。
ふむ、と魔王はうなずき、しばし考え、また不気味に笑った。
「……エルグ」
か弱い少女の声。名を呼ばれただけで心が震える。
「エクサ……?」
これは魔王が仕組んだ罠だとわかっていても、応えてしまう。
「エクサ、しっかりしなさい」
「どうして……」
「エクサ!」
「どうして、私をだましたの? 女王様も、フェムトもメガも、みんなして……」
見つめるのは赤い瞳。聞いてはいけない、闇につけ入る隙を与えてはいけない。だが……
「どうして、好きにならないように暗示をかけてくれなかったの? エルグならできたでしょう?」
「それは……」
「本当は、好きになってほしかったんでしょう? だから、私の記憶を消して、都合のいいように暗示をかけたのね!」
「違う、俺は……!」
「エルグなんて大嫌い」
エクサはバルコニーの柵に立ち、右手を上げて黒いいかづちを呼んだ。