復活 2
「悪しきものよ、エクサ姫から出ていきなさい」
宙空に描くのは魔除けのまじないを応用した破邪の術。人並み外れた魔法の才能があったからこそ成せるわざ。性質を変えてもその力は衰えず、光の魔法陣を中心に邪気が消える。
「ふっふーん、そんな子供騙しが通用するもんですか!」
鋭い爪を光らせて、妖猫が躍り出た。すでに反応していたテスラが剣を抜き、重心を低くして構える。妖猫は絶好の獲物を得たと瞳を輝かせた。
「魔王様が復活なさって、ヘクトももっと強くなったのよ!」
「いいから、来いよ」
美女二人が睨み合い、互いの武器を振りかぶる。岩をも砕く剣撃を素手で受け止め、鉄を貫く爪が甲冑の隙を貫いた。しかしそれは幻影、半歩下がったところから次の一撃が振り下ろされる。猫のしなやかさでそれをかわし、その勢いで顔面めがけて蹴り上げた。
まるで舞うように華麗な攻防が続く。わずかにテスラの方が優勢か。魅惑的なくちびるには余裕の笑み。
「むー。ちょっと、ぼーっと立ってないで手伝いなさいよ!」
命令に従い鈍色の瞳の少年たちがゆらりと動く。彼らの剣技など取るに足らぬが、三方向からの攻撃はさすがに厳しい。何より、メガとギガは傷付けたくなかった。
「ぼ、僕が引き受けます……!」
エルグを真似てフェムトが光の魔法陣を描く。その速さはエルグをしのぎ、瞬く間に兄弟を捉えた。
これでエルグは心置きなくエクサと向き合える。
「エクサ、戻りなさい。聞こえているでしょう? 魔になんて負けてはいけません」
虚ろな赤い瞳に何が映っているのだろう。消えた森、失われた命、嘆く人々を見ているだろうか。
一筋の涙がこぼれる。
心の中で、彼女も戦っているのだ。
エルグは一刻も早く救おうと、陣に込める力を強めた。
《……小賢シイ》
可愛いくちびるから吐き出されたのは、この世の全てを呪う声。いびつに口の端を上げ、そっと手を振った。
深い闇が光の魔法を飲み込み、その場にいる全員を押しつぶす。
「にゃ、にゃわわ! 魔王様、ひどいです! ヘクトは魔王様の花嫁ですよ!」
ふと、力が緩む。エクサの顔で魔王は楽しげに笑った。
『我ガ花嫁……』
手を差し伸べ、妖猫を抱き寄せる。頬を撫で、おもむろにくちづけた。
「いけない!」
エルグは爆発的に力を高め、闇をふり払う。妖猫の腕を掴んでエクサから引き離した。
『花嫁ヨ、オマエノ愛ハ受ケ取ッタ……』
さらに強くなる憎悪の気配。
姿を保てなくなったヘクトは、エルグの手の中で弱々しく鳴き声をあげた。