復活 1
美しい森は破壊され、焼き尽くされ、戦う術を持たぬ鳥や獣やドワーフ達はただ逃げ惑う。
「エクサ姫はどこだ!」
「ええい、邪魔するな、エルフども!」
「魔に堕ちた姫と勇者を討て!」
武器を手に人間たちは狂気を叫ぶ。迎え討つエルフの戦士は哀しみ、憐れみ、破魔の矢を放ち聖剣を振るった。
個々の能力はエルフの方が高いが、数にものを言わせる人間の猛攻に圧されはじめる。
「まったく、人間とはどうしてこれほど弱いのか。簡単に惑わされおって」
もはや役に立たない護りの結界を解き、エルフの女王ピコは本来の力と姿を取り戻した。陣頭に立ち、神に通ずる力で仲間を守護し、人間から邪気を祓う。
それを嘲るように、頭上では邪竜が黒い炎を吐き、草木の魔物は毒の胞子を飛ばし、力の強い魔獣たちは容赦なく彼らをねじ伏せ屠った。
いったい誰が敵で誰が味方か。斬ったつもりが幻影で、影かと思えば牙をむく。
混沌と絶望の中、突然、全てが動きを止めた。
背後に現れた強大な闇。
なんという威圧感。息をすることさえ忘れるほどに。
やがて最初に声を発したのは、魔物の軍勢だった。
『我らが王が復活なされた!』
勝利の雄叫びは人間とエルフの戦意を喪失させる。彼らは剣を落とし、冷たい土に膝をついた。嘆きの雨が頬を打つ。
「エルグは何をしておる!」
女王ピコは歯がみし、闇の中心である城の方を振り仰いだ。
バルコニーに揺れる人影。暗がりでさえ輝きを失わぬ金髪の愛らしい少女……エクサだ。背後には獣の耳を生やした妖猫と、白と黒のハーフ・エルフ。
「……メガも堕ちたか」
予感はあった。守ってやれなかったことを悔やむ。ピコは苦しそうに眉をひそめた。
「そんな、あの少年は……」
「なぜエクサ姫と一緒にいる?」
ようやく騙されたと気付いた人間たちは、もはや立ち上がることさえできない。
凍てつく闇をまとい、エクサはそっと手を振った。それだけで、森の半分が消失する。
「く……よくも我らの森を……!」
圧倒的な強さ。このまま、なす術なく闇に支配されるのか。
「やめなさい、エクサ!」
まだだ。希望の光が輪を描く。飛び出したのは力を取り戻したエルグと勇猛な女戦士テスラ、魔法に長けたフェムトもいる。エルフ達はもう一度勇気をふりしぼった。
「まさか、あれが勇者エルグ……?」
「剣はどうしたんだ?」
魔王と対峙するのは、鎧ではなく質素な修道服を着た頼りない青年。修道士としては中級程度か。
しかしエルグは瞳に強い意志を宿し、聖水を振りまき十字架を掲げた。