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嵐の前の 2

 「……怖い」

 かすれる涙声は、エクサのものだ。エルグは内心ほっとする。

 「もう、泣かなくていいと言ったでしょう」

 緊張を解き、ほほ笑んだ。なんとか片腕だけでも抜ければ、頭を撫でてやるのに。

 静かな部屋に、エクサのすすり泣きと遠い雷鳴がくり返される。

 「エルグのこと、忘れたくない」

 「……困りましたね」

 これほど誰かに想われたことがないため、どうすればいいのかわからない。心が騒ぐ。

 「私のこと、きらい?」

 「まさか。誰より、何より大切に思っていますよ」

 しかし彼女は一国の姫。無事に魔王を消滅させ、城に帰した後は近寄ることさえできない。ならば全て忘れて、幸せになってほしいのだが。

 どうやらひとの心はそれほど単純ではないらしい。

 「じゃあ……好き?」

 潤んだ瞳がいつもよりきれいで、決心が揺らぎそうになる。

 エルグは一度目を閉じ、深く息を吸って、吐いた。

 「……恋をすると欲が出て、魔につけ入る隙を与えてしまいます。あと少し、私を信じて待ってくれませんか」

 答えてやれないのがもどかしい。どうせ記憶を消すのなら、つかの間の恋愛ごっこで納得させるか。いや、それでは自身が許せない。

 「私が、とり憑かれてるから、好きになってくれないの? こんな、気味の悪い力を持っているから……ッ!」

 「違います!」

 つい、声が高くなる。別室で休むテスラやエルフ達に気付かれはしなかったか。エルグは息を呑み、様子をうかがう。聞こえるのは、激しい雨と風が窓を打つ音のみ。

 エルグは全身に力を込め、体勢を変えた。ぐるりと景色が回り、上下が入れ替わる。驚くエクサの細い手をとり、自分の胸に当てた。

 「……わかりますか? これでも、抑えようとしているのです」

 伝わる鼓動……速い。

 「おかしいでしょう。いい年をして、君みたいな子供にときめくなんて。自分でもどうかしてると思います」

 「こ、子供じゃないもん」

 「子供ですよ。こんなに泣いて」

 すっかり腫れたまぶたにくちづける。エクサはぴくりと体を震わせた。

 「そうですね、全て終わったら、一緒にいられる方法を考えてみます。だから」

 耳元でささやく声はエクサに届いただろうか。

 闇夜を裂くいかずち、地を揺るがす轟音、窓をつき破り吹き込む風には瘴気がはらむ。


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