惹かれ合う魂
刺激の強い香辛料が鼻の奥をくすぐる。そういえば朝食を摂ったきり何も食べていない。いったい今は何時だろう、ずいぶん腹が減っている。
ついに食欲に負けて、フェムトは起き上がった。身体が重い。
「あ、起きたのかー」
まさにスープに手をつけようとしていたメガが、あわててスプーンを置いた。ぼんやり見つめるフェムトの膝の上に皿を運んでやる。
「……僕のスープ……食べようとしましたね」
「あ、いやさ、起きないから。冷めるなーと思って」
「……」
たしかに少し冷めているが、疲れた身体のすみずみまでしみ込んでいくような気がした。無言のまま半分ほど食べ、ようやく一息つく。
「エルグさんが、無理させてごめんって」
「いえ、僕の力がお役に立ったなら……」
フェムトは知らない。テスラやメガのように剣で戦うことはできないが、彼の魔法の援護がどれほど有能か。エルグだけでなく、女王も仲間たちもみな感謝し称賛していた。
「そうだ! エクサさんは!」
「ん、今はなんとかエルグさんが眠らせてる。でも、もう暗示は効かないかもって」
「そんな……」
あの可憐な少女が、過酷な運命に苦しむのかと思うと胸が痛んだ。
「女王とエルグさんが、何か別の方法考えるって。だからさ、フェムトもしっかり食って元気になれよー」
きれいに切りそろえた髪をくしゃくしゃと撫で、白い歯を見せてにっこり笑う。自分にも神通力があれば、わけてやるのに。
「……メガさん、何かいいことありました?」
フェムトは照れくさそうに髪を治す。メガは大きくうなずいた。
「ギガが、生きてたんだ」
「え?」
「エルグさんが邪気を祓ってくれたら、また一緒に暮らせるんだー」
無邪気に喜ぶメガだが、フェムトは不安になる。
まだ幼い頃、メガと一緒によく遊んでもらった。強く優しく、他のエルフと何ら変わりなかったのに。ただ肌の色が違うというだけで、国を追われてしまった。
恨んでいるのではないか。魔に誘われてはいないか。邪気を祓うということは……
「早く会いたいなー」
勘の良いフェムトは、ぞくりと背筋が震えるのを感じた。
「だめです……メガさん、呼んじゃだめだ……!」
低い雷鳴が轟き、風もないのにカーテンが揺れる。
メガの背後に、黒い影。