それはヒミツ 2
「ところで、エルグ」
女王ピコは重苦しい空気を打破しようと、茶菓子を用意させ一息つく。
「先日、エクサ姫にドレスを着せてやったのだが……どうだった?」
「ああ、かわいかったですね。よく似合っていました」
照れるところをからかってやろうと目論んでいたピコは、思いがけない言葉に顔を引きつらせた。
「意外だよな、おまえがそんなこと平然と言うなんて」
ばりばりと焼き菓子をかじりながら、テスラが豪快に笑う。
「そうですか?」
「昔のおまえなら、絶対に言わなかった」
たった七年で、ひとはこうも変わるのか。他者を寄せ付けなかった孤高の剣士が、穏やかにほほ笑み、一人の少女を慈しみ育てたのだから。何がどうなるかわからない。
「その、おまえは、エクサ姫をどう思っておる?」
ピコは身を乗り出し、鼻息荒く問うた。
「愛しておるのか?」
エルグは飲みかけた茶を吹き出す。エルフの戦士たちは興味津々に、尖った耳をひくひくと動かした。
「……なんですか、いきなり」
「どうなのだ?」
「秘密です」
気を取り直して、ゆっくりと茶を味わう。ピコはむむっと頬をふくらませた。
「もし、おまえが姫を愛しているのではなく、義務や義理で守っているなら……」
「お断りします」
「最後まで言わせろ。そうだとしたら、その、姫の記憶を封じるのをやめたらどうだ」
いかにエルグが強い力を持っていても、所詮は人間の身。護りの結界を張りながら、記憶封じの術まで使うのは負担が大きすぎる。
「……お断りします。彼女に真実を告げるつもりはありません」
「なぜだ? おまえが自分を犠牲にすることもあるまい」
テスラも大きくうなずく。エルグはどう説明しようかと、白くなった頭をかいた。
「エクサがいずれ王位を継ぐ時に、魔王にとり憑かれていたなどと世間に知れればまずいでしょう? その点、私はただの貧乏貴族の三男坊ですから」
家督を長男が継ぎ、狭い領地を次男が継ぐ。三男など穀潰しでしかなく、剣と魔法の資質があるとわかるや否や士官学校に放り込まれた。国のために果てれば名誉くらいに思われていたのだろう。
「ですから、魔王にとり憑かれたのは私でいいんです。無事に終われば、エクサは全て忘れて城に帰るのですから」
「そんなのいやっ!」
隣室に寝かせていたエクサが、いつの間にか目を覚ましていたのだ。扉に隠れるようにして、青ざめた表情で震えている。
エルグは立ち上がり、いつものようにほほ笑んだ。
「こ れ は 夢 で す」
「……」
強い語気。得意の暗示だ。