それはヒミツ 1
円卓を囲み、エルフの女王ピコとその戦士、そして人間でありながら同席を許されたエルグとテスラが憂鬱そうにため息をつく。
「もっと早く、現状を知りたかったですね」
エルグは中央に置かれた水晶を見つめた。ピコの遠見の術によって、人間の国の様子が断片的に映し出される。
破壊された街、怯える人々、空には暗雲立ち込め不安と疑心が渦を巻く。これでは魔物に襲われるまでもなく、国は滅びるだろう。
神に祈るのはただ王と王妃のみ。それも、国と民の安寧ではなく、一人娘の無事を祈っているのだ。
「わざわざ芝居をしたり、幻影を見せたりする必要はなかったでしょう?」
「……なるべく、いらぬ心配をさせたくなかったのだ。エクサ姫はもちろん、おまえにもな」
「それで平和だと思い込んでいた自分に腹が立ちますね」
知らせてくれたテスラには感謝すべきか。知ったところで、なんの手立てもないのだが。
「しかし、いくら結界にほころびがあったとはいえ、あの化け猫が侵入できるほどではなかったと思うのですが」
ちらりとテスラの方を見ると、申し訳なさそうに首をすくめた。
「おそらく……」
ピコは言いにくそうに口ごもる。エルフの戦士たちも眉をひそめた。
「……もうずいぶんと昔に追放した、ダーク・エルフのせいではないかと」
「ダーク・エルフ?」
エルグとテスラは首をかしげる。二人が初めて訪れた時には、すでに国を追われていたのか。その存在を知らない。
がたん、と大きな音を立てて戦士の一人が立ち上がった。まだ幼い少年、メガだ。いつもの陽気さがない。
「まさか……ギガが……?」
ピコはうなずく。信じられないと、メガは首を振った。
「そんな、だって、ギガは病気でって……!」
「すまぬ。幼いおまえには言えなかった」
しばしば好戦的で悪に染まりやすいダーク・エルフ。同じ親から生まれながら、なぜか兄のギガだけが異質な肌色で生まれてしまったのだ。
「そんな、じゃあ、ギガはずっと一人で……!」
群れをなして暮らすエルフ族にとって、孤独とは死に等しい苦痛。生き別れた兄を想い、メガは涙をこぼした。
エルグはうんざりとため息をつく。
「魔を祓えば、救えますかね?」
一同は仰天した。まさかこの男、魔王封じの大役を担いながら、たかが一人の少年まで救おうというのか。
「嫌なんですよ、誰かを犠牲にするとかそういうの。邪気が消えれば、国に入れてあげてくださいね」
肌の色ごときで正邪を問うなど、まるで人間のようで馬鹿げている。
「エルグさん、ありがとう」
「お礼は成功してからにしてください」
たしかに勇者と呼ばれるのに相応しいと、みな感心した。