オンナの戦い 3
急激に周囲の温度が下がったような気がした。
(まいったな、いきなりボスのお出ましかよ……)
テスラはぐっと重心を下げ、全身に力を込める。物理攻撃ならばかわせるか。しかし、魔法や呪詛の類となると……
「テスラ!」
聞き覚えのある声にほっとする。
眼前に現れた光の輪。エルグの空間魔法だ。
「何かあれば呼ぶように言ったでしょう」
「助けて、エルグ」
つまらない冗談を鼻で笑い、エルグは聖水を振りまいた。気休め程度に邪気を祓い、エクサを抱きしめる。一瞬、抗うような素振りを見せたが、やがて意識を失いエルグにその身を預けた。
「エルグさん、早く!」
新しい光の輪を描いたフェムトが叫ぶ。エルグは輪の向こうで待ち構えるエルフの女王ピコとその侍女にエクサを預け、輪を閉じるように言った。フェムトは自分も移動し、言われたとおりにする。
「へえ、あいつ空間魔法なんて使えるのか」
「七年もありましたからね、いろいろ教えました」
教えたところで簡単に使えるようなものではない。護衛にしては頼りないと思っていたが、そんな能力に特化していたとは。
「おしゃべりをしている余裕はありません。来ますよ」
エルグの睨みつける先で木の枝が揺れる。不穏な風が吹き荒れ、暗雲が日の光をさえぎった。
「やっと会えた……」
恍惚な表情で歩み寄るのは、人間の少女のような姿に獣の耳と尻尾を生やした妖猫。
「おまえ、あの時のチビ猫!」
「チビって言うな!」
確かにしなやかな肢体は魅惑的で、テスラと同じかそれ以上か。
すでに一触即発、互いに間合いを計る。
「このヘクト、魔王様が復活なさった時に花嫁にしていただくために、強くなったんだから!」
「何が花嫁だ! どうせ妖力食われていいようにされるだけだろ!」
「なんですって!」
相手が妖猫ならと安堵したテスラは、余裕の表情でからかい時間を稼ぐ。その隙にエルグは地面に魔法陣を描き、結界の強化を試みた。
「にゃ! 何をなさるのですか、魔王様!」
エルグは思わず手を止め、眉間にしわを寄せた。
「……誰が魔王ですって?」
「にゃー?」
「にゃーじゃないですよ、このバカ猫。魔界へ帰りなさい!」
放つ力に怒気が混ざり、爆発的に威力が増す。周囲が強い光で白くなり、良からぬものは消え去った。
「……すごいな、おまえ」
なるほど、力の性質が違えば、魔王と呼ばれてもおかしくないなとテスラは肩をすくめた。