オンナの戦い 2
テスラを連れ出したエクサは、無言のまま森の中を歩く。エルグよりは勘の良いテスラは、ため息ばかりもらす彼女にどう話しかけようかと迷った。
「……懐かしいな、全然変わってない」
木々の隙間から差すやわらかな光に目を細める。蔦の絡まった大木、苔むす岩、清らかな小川のせせらぎ。人間よりも神に近いエルフ達が守る聖域は、空気さえも澄み渡る。テスラは深く息を吸い、吐いた。
「七年前、私もここに来たんだよ。で、その時に女王から通行証をもらった」
ベルトに通した革製の小物入れから、金貨を一枚取り出してエクサに渡す。ずしりと重みのある金貨には、人間の国のものとは違う、花のような図柄の刻印。エクサはてのひらのそれを、困惑しながらじっと見つめた。
「その……それを持っているせいで、魔物たちに狙われるから、奪われる前に逃げてきたんだ。あ、もちろん、エルグと一緒にあんたを守るよ」
「テスラさんは……」
言いかけて、やめる。聞きたいけれど、聞くのが怖い。
テスラは適当な木の幹に座り、続きを待った。
「その、あ……あの、エルグの、恋人なの……?」
言葉にした途端、胸がずきりと痛む。息ができないほど苦しい。耳の奥で自分の鼓動がやけに大きく響く。
テスラは白い歯を見せて、にっこり笑った。
「私は、エルグに女扱いされたことがないよ」
そう言われても、にわかには信じがたい。大きな傷跡があっても眩しい笑顔、露わになった肌はみずみずしく、引き締まった身体は思わず照れるほど色っぽい。
まだ幼く貧相な自分を見て、またため息をついた。
「エルグは、私みたいながさつな女は嫌いなんだ。あんたはかわいいし、素直だし、大丈夫だよ。自信持ちな」
「べ、べつに……」
素直だと誉めたところなのに素直でない。テスラはやれやれと肩をすくめた。
「私がそばにいるのが嫌なら、女王のところにでも行こうか」
「や、その、そんなんじゃないです……っ!」
気を使わせるのは申し訳ない。だが、自分の知らないエルグを知っている彼女に嫉妬していることは確かだ。
そう、これは初めて感じる『嫉妬』なのだ。
心が、ふと闇色に染まる。
「もっと……」
つぶやくエクサの横顔を見て、テスラは息を呑んだ。虚ろに宙を見つめる瞳が、赤い。
もっと、醜い傷を残せばよかった……
無意識に、柄に手をかける。