オンナの戦い 1
エクサは怒っていた。かわいらしい顔はにこやかにほほ笑んでいるが、幼い頃から一緒に暮らすフェムトにはわかる。言葉の端々に厭味が込められ、無駄に物音を立てる時は、怒っているのだ。
エルフの女王ピコの茶会に招かれ、贈り物のドレスに心躍らせ、さて、エルグはどんな反応をするだろうと期待と不安を胸に帰宅したのだが。
「おかえり。おや、かわいい。よく似合っていますよ」
言葉を詰まらせるどころか、彼は見た瞬間にそう言った。
そしてまずいことに、奥のテーブルでなんとあの女戦士が、呑気に紅茶をすすっていた。燃えるような赤い髪、きりりとした瞳、その下にある大きな傷跡さえ美しい女戦士。申しわけ程度に甲冑で胸と腰を覆う以外は、惜しみなく肌を晒している。
「へえ、この子があのエクサか。美人になったなあ」
美人に美人と言われるほど皮肉なことはない。そして記憶を封じられているエクサには、彼女がいったい何者かわからなかった。
ぷんと頬をふくらませ、教会が傾きそうなほど勢いよくドアを閉めたきり、その日は自室から出てこなかった。
それから数日が過ぎたが、女戦士は帰る気配もなく、どうやら当分居座る気でいるらしい。
エクサは朝食の片付けをしながら、ふと思い立ったように言った。
「ねえ、エルグ。丘に行ってもいい?」
「だめです。最近、魔物たちの力が強くなっていて、結界が安定しないのです。なるべく、中心にいてください」
むむっとくちびるを尖らせ、食器をがしゃがしゃと積み上げる。怒っているのだ。
「ぼ、僕がついていきますから……」
「テスラさんがいい」
「へ?」
不意に名を呼ばれ、テスラは間の抜けた声を出して顔を上げた。逆にフェムトはがっくりうなだれる。
「テスラさんとお話したいの。ね、エルグ、いいでしょ?」
「ふむ」
話ならば部屋ですればいいものを。しかしエクサも年頃、同じ人間の女性に何か相談事でもあるのだろうか。
ちらりとテスラの方を見ると、豪快に笑って愛用の剣を掴んだ。
「わかりました。では、昼までには帰ってきてくださいね」
何かあれば、すぐに呼ぶように約束させて、二人を見送った。
「大丈夫でしょうか?」
「まあ、テスラなら、たいていの魔物と互角に戦えますから」
「いえ、そうではなくて……」
なぜこうも鈍感なのだろうと、フェムトは頭を抱えた。