コワイユメ 2
轟く雷鳴、足元を揺るがす地鳴り、吹き荒れる風には瘴気がはらみ、歓喜を狂気に変える。
《愚カナ人間ドモヨ、恐レ、怯エルガイイ。我ハ七年ノ時ヲ経テ蘇リ、再ビコノ世ヲ恐怖デ支配シテクレヨウ……》
やがて暗雲晴れ静けさを取り戻しても、人々の心は穏やかにならず。
王は青ざめ、王妃はめまいを起こして倒れ、大臣、貴族、衛兵たちはみな混乱に混乱を極めた。
「姫さまが、とり憑かれた……!」
「いや、違う、憑かれたのは勇者どの……?」
「姫さまを救え!」
「いや、しかし……」
まさに魔王の思惑どおり。疑心暗鬼の猜疑心、いったいどちらを守るべきか。
真実を知る女戦士だけが勇敢に立ち向かう。
「エルグ! 姫さんを離せ!」
黒い騎士はその剣をかわし、素早く描いた光の輪の中に飛び込んだ。
「待て、エルグ! ばかやろう! このままじゃ、おまえ……!」
案ずる戦友の声が遠ざかる。
たどり着いた先は、緑輝く聖なる森。エルフ族が静かに暮らす小さな国だ。
遠見の術ですでに承知の女王は、急な訪問にもかかわらず二人を迎え入れた。
「……すまん」
「いや、よい。魔王に復活されては、我らエルフ族もただでは済まぬからな。しかし、いかに我が国が神域に近いといえど、魔王の力を完全に封じるのは難しい」
「……」
ならばいっそ……いや、実体を持たぬ今、たとえ姫を無き者にしたところで器を変えて復活を目論むだろう。やはり、魔に汚されぬように守るしかない。
「剣を捨てる覚悟はあるか、エルグよ」
エルグはうなずく。魔王を仕留めることのできなかった剣などもはや不要。
「ならば神職に就き、その力の質を変えよ。ともにエクサ姫を守るのだ」
ああ……だからエルグは、勇者の力を捨てたのね……
「そんなのダメよ、エルグ!」
「何がです?」
「何がって……」
えっと……なんだっけ?
「夢でも見ましたか?」
「夢……?」
よく思い出せないけど、怖くて、悲しくて、すごくいやな夢だった気がする。
「そっか、夢か……よかった」
エルグはにっこり笑いながらカーテンを開ける。暖かい光。
「ね、エルグ。おはようのキスは?」
「ああ。では、もう悪い夢を見ないように」
そう言って、少し照れながら、優しくまぶたにキスしてくれた。今日も良い一日になりそう。