青く澄み渡った空の下 1
青く澄み渡った空の下、やわらかな草の上に寝転ぶ少年と少女。どれくらいの時間、こうしていただろう。ふと少年が身を起こしつぶやいた。
「あの、エクサさん? そろそろ戻りません?」
「んー」
むにゃむにゃと口の中で何かつぶやき、うふふと笑いながら寝返りをうつ。可愛らしいくちびるからは、再び規則正しい寝息。
日はすでに傾きはじめ、頬を撫でる風が冷たい。
「エクサさん、戻らないとエルグさんに叱られますよ」
すると少女は跳ねるように飛び起き、大きな瞳をますます大きく見開いて周囲を見回した。
「今、何時!」
「さっき、三時のラッパが鳴りました」
エクサの顔が一瞬にして青ざめる。やわらかな金髪とスカートに付いた草を払い落とし、足元に転がるカゴを拾い上げた。中には頼まれていた夕飯の食材。
「フェムトのバカ! なんでもっと早く起こしてくれないの!」
「だって、気持ち良さそうだったから……」
それに、寝顔に見惚れていたから、などとは口が裂けても言えない。エルフ族特有の尖った耳がひくひくと動く。
「急がなきゃ!」
駆け出すエクサの後を、フェムトはあわてて追いかけた。
なだらかな坂を下ると、大樹に手を加えたエルフの隠れ屋がぽつりぽつりと点在する。漂う虹色の霧は中心部に向けて濃くなり、彼らの女王が住まう城を外敵から完全に隠していた。
大陸のどこかに存在するという、エルフの国。普通の人間には決して見つけられず、入ることを許されないその国に、人間であるエクサは住んでいる。
風になびく金髪、透けるような白い肌は上気し、きゅっと眉をひそめた顔でさえ愛らしい。
エルフの国では異質な、れんが造りの小さな教会の前で立ち止まり、エクサは息を整えた。遅れてきたエルフの少年フェムトが落ち着くのを待ち、ゆっくりと扉を押す。
ぎぃっと重い音の向こうには、静かな怒気。
腕を組んで待ち構えていた青年の、穏やかな微笑にエクサとフェムトは震え上がった。
「……おかえり。ずいぶん、遅かったですね」
「あ、あの、フェムトが! おなか痛いって言い出してっ……!」
「エクサさん、ひどい!」
小賢しい嘘など通用するはずもなく、青年はにこやかにほほ笑んだままエクサの頬をつねる。
「あう。ごめんなひゃい……お昼寝ひてまひた……」
青年はふむとうなずき、手を離した。