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権利サイト。  作者:
2/3

第一話

続けて投稿してます。

久しぶりの投稿でテンションが上がっているので、次話は割とすぐに投稿できるかと。

俺は喰われていた。


そして、俺は喰っていた(・・・・・)。


『俺』が『俺』を喰い、『俺』が『俺』を喰われ、『俺』が『俺』を貪り、『俺』が『俺』を…


単純な現実を見るならば、俺の身体は腰から下がなくなっていた。

間もなく腕も、胸も、頭すらも目の前の『存在』に喰われるのだろう。

だが、同時にもう一つの視点が俺の中にあった。

上半身のみになった俺が路地裏の壁によりかかり、赤い血を花火のように咲かせている。

喰っているのも俺なのだ。理解せずに把握した。


ふと、意識がピントをずらす。

それはあまりにも常識から乖離した現実への恐怖からか。

あるいは完全な死から逃れられぬ事を察しての諦念からか。


薄暗い路地裏だった。

地方都市の一画にある大通り、その大通りから路地に入り、その路地から更に細い道に入った場所。

雑貨ビルと何かのビル、ふだんここまでは来ないから詳しくは知らない場所、その奥で俺は横たわっていた。

壁と壁の間から見える空はいつものようにただ青く、時に白い雲や鳩やカラスが通る。

ふと、路地の入り口に座り尽くす赤いピーコートを着た少女に視線が移る。

少女の引きつった顔が見えた。

そこには恐怖、屈辱、絶望、憤怒、悲哀があった。


でも。


どこかで狂ってしまった俺にはそれがまた綺麗に思えてしまった。


意識がくるりくるりと回り続け、永劫終わらないのではないかと思う程の、頭を喰われるほんの刹那。


先輩は今日も綺麗ですね。


そんな言葉が口から出た気がした。






第一話 





鈍痛がした。

鈍い痛みが頭を走っていた。

ふと、気がつけば俺は歩いていた。

唐突に目が覚めたような感覚がして立ち止まって辺りを見渡す。

見知った通学路だった。

辺りには俺と同じ学生達が歩いている。

いつもと変わらない日常の光景だった。

時計を見れば時間は朝の8時。

服装は学生服だった。

どうやら通学途中でうたた寝でもしていたのかもしれない。

朝の通学路ということで車の往来は少ないものの、寝ぼけながら歩いて人や車にぶつからなくて良かったと俺が安堵していると、声をかけてきた者がいた。


「高岸、こんな道の真ん中でぼけっと突っ立ってると邪魔になるぜ」


声は高一の平均身長くらいはある俺の頭の遥か上から聞こえて来た。

振り返ると、白い壁があった。

いや、正確には男子高校生のシャツだ。

シャツの持ち主があまりにも背が高いために白い壁と錯覚してしまったのだ。

高校一年生になったばかりとはいえ、平均身長くらいはある俺ですら、そばにくると見上げることでやっと見える位置に顔があるのだから、目の前の男子生徒はそうとうの身長はあるはずだ。

そしてそんな知り合いは俺には一人しかいない。

花山太はなやま とおる、全国の高校生の平均身長を一人で上げている。

そう言っても疑問に思われないほどの身長とガタイの良さを持っている男で一応友人だ。


「花山か。なんか寝不足みたいでな。ちょっとぼうっとしてた」


「へぇ、生真面目の代名詞さんが夜更かしなんて珍しいな」


生真面目の代名詞、中学の頃に気がつけばついてたアダ名のようなものだ。

他の生徒たちの邪魔にならないように俺は花山と一緒に歩き始めた。


「そこまで真面目くんのつもりはないんだがな…」


「いやいや、漫画もゲームも、ましてやラノベすら読まない、勉強にしか興味のない人間が生真面目以外のなんだってんだよ」


中学時の最初のホームルームのとき自己紹介で先頭のクラスメイトが好きなゲームと漫画について話し始めたのがきっかけで何故か全員がそれを答える流れになったのだ。

俺は親の方針からゲームもしたことがなかったし、漫画も読んだことがなかったので、その旨を答えたら、こんな感じになっていた。


「単に興味がないだけだ。花山も一年くらい漫画やゲームから離れてみたらどうだ? なくても気にならないぞ」


「うへぇ、オレには理解できねぇな。そんな人生」


苦い顔をする花山に、俺は苦笑する。

花山とは中学からの友人でいつも他愛ない話をすることが多い。

花山はその2m前後の身長にガタイの良い体に反して中身はゲームや漫画、そして女子のことしかないのではと思うくらいチャラいタイプの人間だ。

だが勉強以外に興味のない俺に何が楽しいのか花山はいつも学校の女子の話やゲーム、漫画の話などを語ってくる。

高校になってもそれは変わらないのか、今日も高校での女子の人気ランキングや最近話題のうわさ話などを語っていた。


「最近のうわさ話といえば、ダントツの一位はこれだな。『権利サイト。』」


「けんりさいとまる? インターネットか?」


「あぁ。機械音痴のお前に言うなら、あれだ。ネット上の幻の掲示板みたいなもんだ」


「そんなもんが何になるんだ? 法律でも勉強するのか?」


「出たよ、勉強厨。ワロスワロス」


「俺でもさすがにその言葉の意味が俺を馬鹿にしてるのはそろそろわかってきたぞ」


散々中学の頃からよくわからない言葉を使われていたが、徐々にその意味がわかってきたのだ。

ワロスとはたぶん笑えるの意味のはずだ。


「まぁ、冗談は置いといてだ。現れたり消えたりするそのサイトに運良く辿り着けると、権利がもらえるんだとよ」


「権利? 株とかの?」


「いや、そういうんじゃなくて、超能力とかそういう類だな」


「そんなものをもらっても勉強はできないだろう」


「そりゃそうだろうけどよ。うーん、なんつうかな。超能力使えるオレSUGEEEEE的な?」


「まぁ、宴会芸には困らないな」


「あぁ、本当にお前の脳内変換すげえわ」


「どうした?」


首を傾げる俺に花山は苦笑いされた。

なぜだ。


その後もどうでも良い話をしていると、ちょうど校門まで数mのところに差し掛かったところで花山は通学路から外れて脇道に入っていこうとした。


「どこに行くんだ?」


「ん? あー、あれだ。俺は今日は裏門から行くんだ」


「裏門? わざわざここからか?」


裏門はその名の通りちょうど校門から校舎をぐるりと回って半周したところにある門である。

普段はそこは閉まっているのだが、花山は先日からそこから入る方法を見つけたとのことだ。

だが、それも遅刻している時に使う裏ワザと言っていたはず、今日はまだ時間もあるし、この位置からなら正門の方が近いはずだ。

そういう意味で問いただすと、花山は目を泳がせながら、


「ちょっと用事があってな」


そう言ってその巨体を丸めて隠れるように行ってしまった。

友人の行為に首を傾げつつも俺は正門に向かうことにした。







すぐに俺は花山の行動の意味を理解した。


「そこの君、ガタイ良いね! 柔道部に入らない!」

「いいや、君は野球部に!」「バスケットも新入生を募集してるよ~!」

「漫研に入って画力アップを図りましょう~!」

「フォークソング部、歌います!」


校門に入ってすぐ、そこでは新入生を取り合う先輩方の姿があった。

俺が通う高校では勉強も部活動も力を入れており、更には人数が多いマンモス校であることから部活動についてはある程度自由が与えられている。

今日はそんな部活動の新入生の勧誘が解禁される日だった。

一週間前くらいからその話は担任からあったものの、俺は中学の時も帰宅部で興味がないのもあって失念していた。

確か、花山も帰宅部だったはずだ。だから逃げ出したのだろう。

俺の目の前で学校の敷地内に入った一年生が、勧誘の先輩達にもみくちゃにされながら中に入っていく。

その光景はどこか蛇に丸呑みにされる蛙の図を思い起こさせて、俺は正門から中へ進むのに躊躇する。

そうしている間もまた一人、また一人と新入生えさ先輩方へびに飲み込まれていく。

呆然としている俺の耳に鐘の音が聞こえてきた。

時間を見れば8時20分。

予鈴が鳴り始めたのだろう。

背後から生徒たちの悲鳴が聞こえてくる。

「やべ、始まっちゃう!」

「急がないと!」「走らないと間に合わないよ!」

同時に何十人もの人間が駆ける足音が聞こえてくる。


前には勧誘の先輩達、後ろには走る新入生達。

そして俺は正門の前で呆然と立っている。

状況を理解した俺は逃げる間もなく、駆け入る新入生達に学校の敷地内へと押し込まれていた。







俺は流されるままになっていた。

校舎の方向に進もうとする新入生達の波に、それを引き留めようとする勧誘の先輩達の壁のような勧誘、どちらもめちゃくちゃな方向を向いていて、しかも一人一人が我先にと動くので混沌としていたその場は余計に混乱した。

まぁ、詰まるところ俺がどうなったか、と言うと。


女子生徒を押し倒していた。


いや、誤解を生みそうなので言い方を変えよう。


先ほどの混乱に巻き込まれた俺は気がついたら転んでいて、校庭に両手をついて起き上がろうとすると、俺の両手の間には女子生徒の顔があった。

目の前の女子生徒はどこかの部活のビラと見られる紙の束をもっているので先輩であると思うのだが、体格は小さく、両耳の上でまとめられたツインテールも相まって幼く見えた。

顔は整っていて、俗に言うならばきれい、いやかわいいの部類だろう。

瑞々しい唇はピンク色をしていて、甘い吐息が俺の顔にかかる。

この状況に驚いているのだろう、目は見開いており、徐々に羞恥によってか頬が赤くなっていく。


いやもう、言い訳はすまい。俺は女子生徒を押し倒していた。


「あ、あの…」


とりあえず言い訳をしようと考えた俺は口ごもるが、何も言葉にならない。


「そ、その、どいてもらえるかな?」


見た目に反してハスキーな声が聞こえてくる。

俺は混乱していたようだ。言われて初めて当たり前の行動を思い出した。


「す、すみません」


慌てて体を起こすと、周りの状況が目に入る。

幸い、みんな先ほどの混乱で転んだり倒れていたりしたようで、こちらに注意を払っている生徒は少ない。


「大丈夫ですか?」


倒れていた目の前の女子生徒に手を差し出す。

怪我はないだろうか。


「大丈夫、怪我はないよ」


女子生徒の言葉に安堵しつつ差し出した手に捕まってもらって起こした。

体格はやはり小さく、俺の肩より下に頭があった。


「い、いやぁ、びっくりしたね。みんな色々必死だから」


「そ、そうですね。すみませんでした」


やはりギャップを感じるハスキー声に俺は同意しつつ、先輩と思しき女子生徒が落としたのであろう白い紙のビラを拾い上げる。


「友達にこの髪型をしろって言われてね、私はハスキー声だから似合わないって言ったのに…」


「そうですか」


先ほどの状況が状況だったためか思ったように頭が回らず言葉が出てこない。

とりあえず、言っている内容からこの女子生徒が先輩であることはわかった。

端から誰かが聞けばこの先輩もよくわからないことを呟いているのは同じなのだが、混乱している俺は気がつかない。

しかも俺も頭の中で、これはこれでかわいいと思う、という思考が巡っていたりするのでどっこいどっこいだ。

見れば、先輩は耳まで赤くしている、俺もたぶん耳まで赤くなっているのだろう。


「っ!? ってきゃあ!?」


唐突に先輩が両耳を両手で押さえた。そのせいで彼女の両手にあったビラはばら撒かれる。

先輩も俺も慌ててそのビラを拾い始めた。

周りの人もそれを見て、手伝ってくれて、全部拾い終わる頃には俺は落ち着きを取り戻していた。


「うぅ、すみません。ありがとうございます。ありがとうございます」


しょぼくれながら周りの人に謝っている先輩に、ビラを返すのと一緒に謝罪の一言を改めて伝えようと思ったが、またも鐘が鳴った。


「やば、朝礼始まっちゃう!?」

「総員、退避ー!」「急げー!」


周りが動き始め、気がつけば俺はその先輩を見失っていた。

手には数枚のビラが残っていた。

俺も急いで教室へと走っていった。








「よぉ、ぎりぎりだったな」


朝礼が終わり、ニヤニヤと笑みを浮かべた花山が自分の席から俺の横まで来ていた。


「花山…知ってたんなら言ってくれ…」


力尽きるように机に突っ伏した俺に、花山はケラケラ笑う。


「だって、あの場で言ったら他の奴らも裏門に来ちまうだろ? それにできれば裏門はオレ専用にしときたいしさ」


「色々と大変だったんだぞ…」


そう、色々と、何がとは言わないでおくが。

机に突っ伏していると、花山が俺の手にあったビラに興味を持ったのか一枚をさっと取り上げた。


「んー? 何々? 『超常現象研究同好会』? 珍しいもん持ってんな」


俺も詳しく見ていなかったので、改めて手元にあったビラのうちの一枚を読んでみる。


『来たれ! 若人よ! 超常現象が君を待っている!』

そんな歌い文句が大仰な演出で書かれた紙だった。

手書きを思わせる文章と絵、その下には同好会の名前と活動日、活動内容が書かれていた。


「『私達と一緒に世の中の不思議を発見しましょう!』ってさ。まさか高岸、こういうのに興味があんのか?」


「いや、ねえな。これっぽっちも」


「だよなぁ、お前こういうの興味ねえもんな」


「それを配ってた先輩が落としたのを拾ったんだ。後で返しに行かねえと」


先ほどの謝罪もあったので、そう言うと花山は受け取ろうとした俺の手から逃れて紙を高く持ち上げた。


「おい」


「いや、俺は興味あるからもらっとくぜ。というかせっかくだし俺がその先輩とやらにそれを返しに行っとくよ」


「…どういう風の吹き回しだ?」


面倒くさがりで、ゲームやら漫画やらにしか興味がないこの男がいくら超常現象研究同好会とかいう怪しい同好会であろうと、興味を持つとは思えない。


「オレだって、たまには人助けをな」


「お前がわざわざそんなことを言う時は大概何かしら企んでる時だろう?」


「おいおい、オレってば善意の塊だぜ?」


顔を上げると案の定、俺の頭の遥か上にニヤニヤ顔があった。

花山のニヤついた顔に俺は一つの想像に至る。


「……見たのか」


「あぁ、ばっちりと早朝の情事を」


サムズアップする花山に俺は再度突っ伏した。

あの先輩を押し倒したのを誰かに、しかもこの友人に見られていたことに俺は屈辱を感じた。


「見てたならわかってんだろ、あれは事故だ」


「まぁな。だが考えてみろ。一番低い位置にある3階の高1の教室からでも見えたんだぜ?」


花山の言うとおり、それぞれの学年の教室は校舎の3階から5階までに割り振られており、1年が3階、2年が4階、3年が5階になっている。

そしてその3階の花山が見えていたということは、それより上の階にいる4階、5階からも校庭の俺たちの様子は見えていた可能性がある。

あの時俺は周りの生徒の様子は確認したが、校舎の方は確認していなかった。

ましてや、あの場所でさえ、俺達の様子に気がついた生徒もいるだろう。


「………………」


そうか、そういう意味・・か。

顔が再度羞恥によって熱を持つ。


「当然他の学年でも噂されてるだろうな」


「…わかった。お前の意図はよくわかった。でもまだしっかり謝罪してないから俺が返す」


幸いビラにある活動場所を見ると、校舎の横に残っている旧校舎らしいし、同好会であれば来る人数もそんなに多くないだろう。


「くくっ。やっぱり高岸は真面目くんだよ」


「うるせえ」


ニヤニヤと笑っているだろう花山に俺は悪態を吐いておく。

7/18 誤字や内容を修正

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