表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

7話

 とうとう、その時がやってきた。


 彼はいつものように私のお墓に花束を供えて、物悲しげな瞳でじっと花束を見つめていた。


 今、彼は何を思ってるんだろう・・・


 その心には、どれほど深い後悔を抱えているんだろう・・・

 きっとそれは、底なし沼みたいに深くて、死んでる私には計りきれないのかもしれない。

 でも、あの時決意したこと。


 彼から後悔を取り除いてあげたい。


 それは、本当の気持ちだから。


 私は、彼と向かい合ったんだ。



 供えられた花束を見つめる彼。を見つめる私。


 側で幽霊さんが優しく見守ってくれていた。それがすごく私の力になって、背中を押してくれてるのがわかる。

 本当に幽霊さんは良い人だって思う。こんなに私を支えてくれてる。幽霊さんと親友になれて私はきっと幸せ者だ。

 だから、幽霊さんの期待にも答えたい。


 お墓の前で祈る彼の前に立って、そっと胸に手を当てた。


 通り抜けていく手のひらで、彼の心にそっと触れて。


 その心は、ひんやりと冷たく感じた。


 ・・・苦しかったんだね。


 苦しいくらい、私を想ってくれていたんだよね。


 私も、きっと一緒だよ。


 生きてるときも、死んだ後も、彼と同じくらい彼のことを想ってる。


 だから、全部。正直に。


 今から、私の気持ちを伝えるよ。


「お願いだよ。自分を責めないで」


 聞こえないだろうけど、私は夢中で彼に語りかける。


 精一杯の想いで。


 生死の壁を越えて、彼に届くように。


「私は、あなたと会えて良かったんだよ」


 それが、私の気持ちだよ。


「あなたと過ごせて本当に良かった」


「最期にあなたと一緒で、嬉しかった」


 確かに、2人で駆け落ちしたことで、私は死んじゃったかもしれない。彼と愛し合わなければ、長生きできたのかもしれない。


 でも、私は幸せだったんだよ。


 彼と一緒になれたことが。彼の隣で眠れたことが。

 私はこの結末に満足してたし、嬉しかったし、幸福を感じていたんだ。

 絶対。100%。疑う余地も無く。それは、彼自身にだって否定させないよ。


 後悔なんて微塵も無い。


 もし後悔してたなら、私は今頃悪霊になっちゃってる。


「私は、あなたが大好きだよ」


 口に出した途端、私は苦笑してしまう。

 どれだけ思い悩んだって、どれだけ多く言葉を口にしたって。

 結局、私が伝えたい言葉は『それ』だけなんだ。


「大好きだよ。大好きだよ」


 私は『それ』を繰り返し口にする。『大好き』の上に『大好き』を重ねて。


 そしたら。


 「・・・・・・僕も、大好きでした」


 えっ・・・


 伝わっ、た・・・


 少しずつ、彼の瞳が潤っていく。やがて溢れて、頬にスーッと線が光って。

 ぽたぽたって、大粒の涙が零れる。


「大好きでした。あなたのことが、大好きでした・・・」


 私みたいに、『大好き』を繰り返す彼。

 子供みたいに鼻を赤くして、止まらない涙を拭おうともせずに。

 

 伝わった、んだ・・・彼に。


 私の気持ちが・・・


 私も、涙が零れてる。彼みたいに、全然止まらない。


 あれっ、おかしいって・・・っ。私、死んでるんだよ。目なんかないんだよ・・・


「本当に、よかったです・・・」


 ふと横を見ると、幽霊さんが優しい笑みで私たちを見守ってくれている。

 私たちのことを、心底喜んでくれてる。

 ちょっ、幽霊さんにこんな恥ずかしい所見られたくないのに・・・!


 でも、もう私の気持ちは止まらなくなって、思わず彼に抱きついた。


 身体をすり抜けて、その心をぎゅっと抱きしめる。


 冷たい心が、少しずつ溶けていくのがわかる。


 熱を帯びていくのを感じる。


 本当に良かった・・・


 彼を救うことができたんだ・・・


 私は大きな幸福感に包まれながら。


 それから、2人で延々と泣き続けたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ