ギルド
拙い文ですが、コメントなど頂けると、とても励みになります。
よろしくお願いいたします。
「ただいま。」
挨拶もそこそこに、大きなディスプレイの前へ座る。
家に人がいるわけでもないが、一種の癖のようにただいまと言う。シンとした一人の室内で、PCを起動すると、デスクトップにあるショートカットをクリックする。その名前は「セルラカオンライン」。登録ユーザー数が日本最多のオンラインゲームだ。PC、スマホ、携帯など、様々な端末からのアクセスが可能なため、広い世代が利用している。
そして、このゲームの最大の特徴は、自分自身がゲームの世界に入り込むことが可能なことだ。これは、PCからのプレイヤーのみの機能ではあるが、コントローラーを必要とせず、思ったままに動くことができ、コミュニケーションもとりやすいことから大人気だ。アバターも凝っているので、自分の容姿を通常プレイよりずっと楽しめる。他のオンラインゲームにも、ある機能ではあるが、「セルラカオンライン」は段違いに優秀だ。
早速、専用のヘッドホンを頭に取り付け、ログインする。
『実体験モードにしますか?』
というメッセージが表示され、カーソルを『yes』に合わせる。
画面にメーターが現れ、数秒間待つ。
一気に視界が暗くなった。
沢山の人の声が響く。
そして、「ああ、確か前回は王都でログアウトしたっけ」と思い出す。
左手首にある腕輪に、もう片手で触れる。通称、「メニューリング」。「メニュー」と呟くと、僅かに透けたウインドウが現れ、幾つかの項目が表示される。
「コミュニティー…、ギルド。」
その言葉に合わせて、ギルドのメンバーがリストアップされる。メンバーのレベルと、ログイン状態。どうやら、今はギルドメンバーが全員揃っているようだった。珍しい。
「メイ・サイ!」
私を呼ぶ声がした。
「だからメイで良いですって、」
私のハンドルネームは「メイ・サイ」だ。感覚的に、メイが名前で、サイが名字という名前。しかし、この人は私のことをメイ・サイと呼ぶ。
「トウマさん。」
「いいじゃん。メイって名前も好きだけど、サイって名前も捨てがたいんだよ。」
そう言い、少し不貞腐れた顔をするイケメン、トウマは、私の所属するギルドのメンバーの一人だ。アバターはいくらでもイケメンにできるので、現実はどうなのか知らない。
「そうですか。…まあ、もう慣れた頃だし…はあ。」
「うんうん。あ、それと、みんながもう待ってるから、おいで!メイ・サイ!」
どうやら、今日はギルドで活動するようだ。みんな待っているなどと言われると、悪いことでもしたような気分になってしまう。急いでトウマについていく。
そして、ふと気づく。
今日はいつもよりも人が多い。多少多い日なら、いくらでもあるのだが、今日はその比ではない程だ。『王都』というフィールドの隅々まで、人が詰まっているような人口。時間を見ると、表示される日付と時刻は、水曜日の午後6時17分。いつもなら、人数が少ない時間のはずだ。時間や人口から発せられる、猛烈な違和感。
「……あの、トウマさん。人数多すぎませんか?…流石に。」
「…んー。まあ、この時間帯にしては多いかなぁ。……ま、こういう日もあるって。…たまには。」
「そう、です…ね。たまにはあるんですね。ありがとうございました。」
偶然かもしれない。トウマの言葉も最もだ。なんとなく納得し、先を急ぐ。
「メイ!」
「トウマ、おっそい」
「だいぶ待っちまったよ…」
『あっ!』
みんなが声をあげる。一部しか聞き取れなかったが、みんな怒っているわけではなさそうだ。
『メイさん、待ってました!嬉しい!』
ほんの一部、声を出さずに、自分の頭上に文字をだしている人がいる。恐らく、「実体験モード」ではないのだろう。
「すみません。遅れてしまいました」
「いや、いいってぇー!ほら、ウサぴょんも良いって言ってるし!…ってうわっ、やめて!?」
「……トウマ…、次ウサぴょんって言うと殺るぞ…!」
「ひぃっ!」
トウマさんが、「ウサぴょん」もとい、「トマル」さんに脅される。ウサぴょ…トマルさんは、ギルドの創設者でリーダーだ。トマルさんは漢字で「兎丸」と書いてトマルと読む名前だ。そのため、数人のギルドメンバーにウサぴょんと呼ばれている。…因みに黒髪好きだ。
「メイは主力だしな。お前なしでギルド活動は無理だ。」
「え?いや!私、レベル低いですし!」
セルラカオンラインは、まだlevel50までしか解放されていないため、最高レベルが50だ。私は、今、レベル30。まだまだ低い。レベル50のトマルに主力などいわれるような力はない。
「レベルのことは関係ない。メイは強い。事実、お前がいると、レベルが上がるメンバーも多い。」
「いや、でも」
「とりあえず、行こうか。」
強引に流されてしまった。ただ、そう言われると、このゲームの有力プレイヤーランクでば全国22位をとっているため、あながち間違ってもいないか。
「あ、はい。…どこへいくんですか?」
「ああ、セイドムビーチだ。」
たしか、あそこは海のフィールドだった筈だ。
お楽しみ頂けましたでしょうか?
差し支えなければ、コメントなど頂けると幸いです。
第1話は、中途半端なところで終わりになりましたが、これからもこの連載を頑張りたいので、よろしくお願いいたします。