ファミレスで
まだ試し書きの段階です。物語がちゃんと終了するかどうも未定なので、ご注意ください。
「わたしが乗ってきたタイムマシンは車を改造したものなんです」
と、田中唯は言った。
今、僕と近藤と田中唯の三人はファミリーレストランにいる。大学の研究室を出たあと、僕たち三人は近藤が大学まで乗ってきた車に乗って、その田中さんがタイムマシンを置いているという都内の駐車場まで向かうことになったのだけれど、その途中で近藤が腹が減ったので何か食べていくかと言い出したのだ。僕は家を出るときにちょっと菓子パンを食べてきただけでかなり空腹だったので、近藤の意見には大賛成だった。田中唯も特に反対はしなかった。
僕たちはファミリーレストランに入ると、各々に注文した。近藤と僕はハンバーグとライスのセットで、田中唯はマグロ丼を注文した。注文した料理はすぐ運ばれてきて、ひどく空腹だった僕たちはほとんど無言で料理を口に運んだ。
そして僕は料理を食べ終えると、田中唯に説明を求めた。田中唯が乗ってきたというタイムマシンは一体どういう形状をしているのか。そもそもタイムマシンを駐車場に放置しておいたりなんかして問題はないのか、と。そしてその僕の問いに対して帰ってきた答えが、さっきの田中唯の科白だ。
「タイムマシンが車を改造したものだなんてなんか意外だな」
僕は田中唯の科白に軽く驚いて言った。
「もうちょっと大がかりなものを想像してたんだけど」
近藤は既に田中唯からタイムマシンの全容について説明を受けたあとなのか、軽く腕組みして黙っていた。
「わたしが乗ってきたタイムマシンは五十万年前の世界を観察するために飛ばしたプロトタイプなので、ごく単純な構造をしているんです」
と、田中唯は言った。
「でも、車型のタイムマシンといったら、あれだよね」
と、僕は軽く微笑して言った。
「バックトゥザフューチャーを思い出すよね」
僕の科白に、田中唯は怪訝そうな表情を浮かべた。
「あれ?知らない?デロリアンっていう車型のタイムマシンが出てくる映画で、すごく有名なんだけどな」
僕は呟くように言ってから、
「あっ、でも、田中さんは未来人だから、昔の映画過ぎて知らないのか」
と、独り言ちた。
「どうなんでしょう」
田中唯は僕の言葉に軽く首を傾げて考え込んでいる表情で言った。
「わたし、わりと映画が好きで色々見てるつもりなんですけどね…結構昔の映画も・・・それこそSF映画は大好きだから、もしそんな映画があれば見落としているはずはないんですけど・・・」
「きっとあれだよ」
と、近藤が言った。
「田中さんが暮らしていた世界線ではその映画は存在しないんだよ」
僕がどういうことだというように近藤の顔を見つめると、
「ほら、田中さんの説明にあっただろ?パラレルワールド。俺たちがいる世界と田中さんがいた世界では微妙に起こったことが違ってるんだ。きっと田中さんがいた世界ではその映画は作られなかったんだ」
「なるほど」
僕は近藤の説明に納得して頷いた。
「あっ、気が付きませんでした」
と、田中唯も近藤の言葉に苦笑して言った。
「もしかしたらわたしが見落としているだけかもしれませんけど、その可能性はありますね」
「でも、とにかく、その車型のタイムマシンは今、駐車場に置いてあるんだ」
と、僕は話を進めた。
「そういえば、エネルギーの問題があるって言ってたけど、あれは大丈夫なの?田中さんがこっちの世界にタイムスリップしてくるときに既にエネルギーを使い果たしてしまっていたとしたら、これから駐車場にいってもどうしようもないということになるし」
「それかなら多分問題ないと思います」
と、田中唯は言った。
「わたしがこの世界に来てから既に一週間くらいが経ってるから、いくらなんでも六十年か、八十年くらいはタイムスリップできるだけのエネルギーは充電できてると思います」
「その、エネルギーっていうのはどういうものなんだい?」
と、近藤は田中唯の顔に視線を向けると、真剣な表情で訊ねた。物理学者なのでそういう技術的なことに感心があるのだろう。
「正直、今でもまだ半信半疑なところはあるんだ。もし仮に人工的にブラックホールを作ることができたとしても、それにはとてつもないエネルギーが必要になるはずだし」
「近藤さんの質問は最もだと思います」
と、田中唯は言ってから、さっきドリンクバーで汲んできたばかりのコーラを少し飲んだ。
「わたしもテクノロジーの開発者じゃないので詳しいところはわからないんですけど、タイムマシンのエルネギーは宇宙にあるフリーエネルギーを利用しているんです。宇宙には目には見えない、いわば空気のような感じで無限にそれらのエネルギーがあって、タイムマシンに搭載されているエネルギーパックはそれらのエルネギーを吸収して駆動力に変えています。聞いたところによると、その宇宙にあるフリーエネルギーというのはものすごいエネルギー量で、ほんの一分たらずの充電で、地球全体の電気を灯すことができるくらいだとか」
「すごいね」
僕は感心して言った。
「でも、逆に言えば、タイムマシンを動かすには相当なエネルギーが必要だというわけだ」
僕は続けて感想を述べた。
田中唯は僕の科白に頷いた。
「宇宙にあるフリーエルネギーを取り出す技術が確立されなければ、とても時間旅行なんてできなかったでしょうし、ましてや五十万万年前なんていう途方もない過去への移動は不可能だったと思います」
「今、田中さんが乗ってきたタイムマシンは充電中っていうことだったけど、もし、五十万年前の世界に今からタイムスリップしようとしたら、それだけのエネルギーを得るのにどれくらいの時間が必要になるんだろう?」
近藤が興味を惹かれたように口を開いて言った。
「さあ・・・でも、おそらく、十年近い時間がかかると思います」
と、田中唯は近藤の問いに軽く首を傾げて困惑したような表情で答えた。
「なにしろ、わたしが乗ってきたタイムマシンにはエネルギーバックがひとつしか搭載されていませんし、しかも、その充電方法も普通に自然に存在するものをそのまま充電しているだけですから」
「じゃあ、違う方法もあるの?もっと短時間でたくさんのエネルギーを充電する方法も?」
僕は気になって訊ねてみた。
田中唯はまたコーラを一口飲んでから頷いた。
「五十万年とか、一億年とか、それくらいの時間を移動する際には、もっと大がかりな装置を使って急速充電を行います。発電所くらいの大きな施設を使って効率よくフリーエルネギーを集めて、なおかつその集めたエネルギーを人口的に増幅させるわけです。それでも、五十万年という途方もない歳月になると、一年近い時間がかかりますけど」
「だから、昨日、田中さんはそんなに気軽には未来と五十万年前の世界を行ったり来たりすることはできないって言ってたんだ」
僕は納得して言った。
「そういうことですね」
田中唯は僕の顔を見ると、口元で弱く微笑んで言った。
「なるほど」
近藤は顎に右手を当てて思案している表情で呟くように言った。
「タイムマシンも何かと色んな制約があって好きなようにタイムトラベルすることはできないんだな」
「ドラえもんの漫画に出で来るタイムマシンみたいに自分の好きなようにタイムトラベルするにはまだまだ技術の進歩を待たないと無理みたいですね」
田中唯は難しい顔をしている近藤の顔を見ると、微苦笑して言った。僕は田中唯の科白に耳を傾けながら、田中唯のいた世界でもドラえもんの漫画は存在しているんだ、と、どうでも良いことだけれど、つい嬉しくなってしまった。そして、それまで飲んでいたアイスコーヒーがなくなってしまったので、ドリンクバーに飲み物を組みにいくために席を立った。