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これからのことについて

まだ試し書きの段階です。ちゃんと物語が終了するかどうかも未定なので、ご注意ください。


 翌日、僕は友人の近藤学に連絡を取った。もし可能であればこれから会えないだろうか、と。実は昨日、未来人と会ってきたのだが、そこで大きな進展があったのだ、と。ついては相談に乗ってもらいたいことがある、と。


 例によって忙しいからと断れると思っていたのだが、でも、予想に反して近藤はふたつ返事で承諾してくれた。彼も昨日の僕の話を聞いてほんとうに信じたわけではないにせよ、興味を持っていたのだろう。夕方過ぎからであれば時間を作ることができるということだったので、僕は十六時頃に田中唯と新宿駅で待ち合わせて(田中唯も一緒にいた方が何かと都合が良いと思ったので昨日別れ際にもしかしたら駄目になるかもしれないけれど、恐らく近藤の協力を得ることができると思うので明日も会おうと約束をしていた)、近藤のいる大学まで一緒に電車で向かった。


 田中唯は現在新宿近くのホテルに宿泊しているようだった。お金はどうしているのかと僕が気になって訊ねてみると、いざというときのために金をいくらか持ってきていたのだと田中唯は教えてくれた。持ってきた金を円に変えてこちらでの滞在費?をやりくりしているようだった。その話聞いて僕はなるほどなと思った。僕もいざというときのために少ない貯金を今のうちに金に変えておいて方が良いかもしれない。


 僕たちは直接近藤の研究室に向かった。近藤の研究室には過去に何度か訪れたことがあった。研究室のドアをノックすると、

「どうぞ」

 と、なかから近藤の声がした。


 僕がドアをあると、入り口から少し離れた席で近藤が僕たちに背を向ける格好でパソコンを使って何か作業をしていた。近藤は振り返ると、

「ようこそ我が研究室へ」

 と、おどけて言った。


 他の生徒や関係者は既に帰ったあとなのか、研究室には近藤ひとりしかいなかった。あるいは話題が話題なので近藤が気をつかって他の人間に今日は早く帰るようにと指示を出してくれたのかもしれなかった。もしそうしてくれたのだとしたらそれは大変ありがたいことだった。未来人とか、火星文明がどうとかこうとかという話をはじめたら、きっと周囲のひとに奇異な目で見られることになるだろうし、僕らとしてもなかなか話しづらい。


 研究室は高校の教室ふたつぶんくらいの広さで、そこにはところ狭しと僕にはよくわらかない観測機や実験器具が並んでいる。


 何が我が研究室へだよと僕は突っ込みを入れながら、田中唯をともなって近藤の座っている席の近くまで歩いていった。近藤の姿を見た瞬間、田中唯の顔が一瞬赤らんだような気がした。僕はそれを見て少し傷ついた寂しい気持ちになった。誰だって女性は近藤の容姿に見とれてしまうのだ。


「こちらが、昨日話していた未来人の田中唯さんだよ」

 と、僕は近藤に田中唯を紹介した。

「はじめまして」

 と、田中唯も頭をさげた。


「確か昨日の話だと、男だって聞いたような気がするけど」

 と、近藤は説明を求めるように僕の顔を見た。


「すいません。ちょっと用心のために性別を偽ってたんです」

 と、僕が説明をするよりもさきに田中唯が口を開いて言った。出会い目的のために近づいてくる男性を遠ざけるためにあえて男性の名前を使用していたこと。ちょっとした悪ふざけの気持ちもあって男性の名前を使用していたこと。


「田中雄二っていうのはわたしの兄の名前なんです」

「なるほどね」

 近藤は田中唯の説明に特にこれといった感想は持たなかったようだった。


「で、俺に相談したいことっていうのは?」

 近藤は改まった口調で言った。


「ちょっと長い話になるよ」

 と、僕はまず断りをいれた。それから僕はそのへんにあった椅子に腰を下ろした。田中さんも座ればと僕が促すと、田中唯はちょっと迷うような素振りを見せてからおずおずといった感じで近くの椅子に腰を下ろした。


「それから結構信じられない話の内容になると思う」

 僕は更に注意を促した。


 近藤は僕の顔を見ると、構わないというふうに顎を縦に動かした。僕はその近藤の仕草を確認してから話はじめた。昨日田中唯から聞いたタイムとラベルの話、火星での発見、そしてその研究過程でのトラブルについて。


 近藤は僕の話を聞き終えると、

「よくもまあそんなくだらない冗談を思いついたなと言いたいところだけど」

 と、言葉を区切って、

「でも、ほんとうのことなんだろ?」

 と、僕の顔を見ると、真剣な表情で言った。


 僕は近藤がまさかそんなにすんなりと僕の話を受け入れてくれるとは思っていなかったのでいささか拍子抜けしたけれど、そうだとうように頷いてみせた。


「それでなんとかこの時代にたどり着くことはできたのはいいものの、タイムマシンが故障してしまったらしいんだ。で、今は未来にも過去にもいくことができないらしい」

 僕は続けて言った。


 近藤は僕の説明に小さく頷くと、

「故障って?」

 と、説明を求めるように田中唯の顔を見つめた。


「タイムマシンの推進システムの一部の故障です」

 と、田中唯は言った。


 それから、田中唯はそれまで床に置いていた、細長くて四角い形をした、黒い金属でできた箱状のものをいくらか重そうに持ちあげて机のうえにおいた。僕はそれまで田中唯が何か黒い箱のようなものを持ち歩いていることには気がついたけれど、まさかそれがタイムマシンの動力にあたるものだとは思いもよらなかった。


「何しろ古い機械だからもともと調子が悪かったのもあると思うんですけど、前回タイムトラベルを強行した際に回路の一部が破損したようで・・・」

 田中唯は困った表情をして言った。


 近藤はそれまで座っていた椅子から立ち上がると、田中唯が先ほど机のうえにおいた黒い物体を興味深そうに眺めた。


「信じられないな。こんな小さな機械でブラックホールを作り出すことができるなんて」

 近藤は黒い物体に目を落としたまま小さな声で呟くように言った。

「なかを見せてもらってもいいかい?」

 と、近藤はそれまでタイムマシンの動力に落としていた視線を田中唯の顔に向けると確認した。田中唯は黙って頷いた。


 近藤は黒い箱の蓋を開けた。僕も気になって立ち上がってなかを覗いてみた。素人の僕には何がなんだかさっぱりわからなかったけれど、いくつかのケーブルやダイヤルのようなものが確認できた。僕としてはもっと大掛かりで複雑な装置を想像していたのだけれど、実際に見た印象は比較的シンプルな構造になっているように思えた。


「回路の一部が壊れただけだと思うので、専門的な機械や部品が入手できれば直せると思うんですけど・・・」

 田中唯が遠慮がちな声で言った。


「どうだい?」

 僕は黙って機械の内部を見つめている近藤に声をかけた。


「どうだろうな」

 と、近藤は僕の言葉に首を捻った。

「ぱっと見ただけだからなんともいえないけど、もし、田中さんの言う通り、電力系統の故障だけなら、うちの大学にある機械や部品を使えばなんとかなるかもな」

 近藤は顎に手を当てて思案している表情で言った。


「やっぱり近藤に相談して正解だったよ」

 僕は驚きと嬉しい気持ちから言った。田中唯のお兄さんが過去に取り残されているという深刻な状況なのに申し訳ないとは思ったが、正直僕はこれからもしかしたら自分が時間旅行を経験できかもしれないと思ってかなり興奮してしまっていた。


「実際にやってみないことにはわからないけどな」

 と、近藤は僕を諫めるように続けた。それから、近藤は田中唯の顔を見ると、

「でも、もしタイムマシンを直すことができたとして、どうするんだ?」

 と、訊ねた。

「過去に戻って、お兄さんを助けにいくのかい?」


「・・・そうしたいところですけど」

 と、田中唯は近藤の問いに思い悩むような声で言った。


「エネルギーの問題で、兄のいる過去の世界にここから戻ることは難しいと思います。だから、とりあえず、自分の居た未来の世界に戻ろうと思います。八十年くらいのタイムスリップだったらなんとかなると思うから。それでとりあえず未来に戻って、応援を頼むなり、あるいはエネルギーの問題を解決して自分ひとりで過去の世界に戻ろうかと思ってます」


「なるほど」

 近藤は田中唯の説明に腕組みして難しい表情で頷いた。


「でも、疑問なんだけど」

 僕は言った。


「過去の世界で暴動があったことは、当然未来の世界の人間にもわかるわけでしょ?つまり田中さんのいた西暦二千百年の世界のひとたちは、帰ってくるはずのひとたちが過去に行ったきり帰ってこないわけだから不審に思うはずだよね?何かがあったんじゃないかって。そうすると、今頃未来からその原因をつきとめるために未来から過去の世界にひとが送られて、反乱も鎮圧されて、お兄さんも助けられて全てはまるく収まってるってことはないのかな?」


「・・・もしかしたら、そういうこともあるのかもしれません」

 田中唯は僕の言葉に残念そうな表情で言った。


「でも、たぶんそれは難しいと思います。というのは、昨日もお話した通り、わたしたちの世界のテクノロジーまだ完全じゃないんです。タイムスリップをしたとしても、いつもそこにはズレが生じることになります。自分では全く同じ過去に戻ることができたつもりでも、それはよく似たべつの世界なんです。


 だから、もし未来の人間が過去でトラブルがあったことに気がついて過去に戻ったとしても、そのトラブルがあった過去にピンポイントで戻れるわけではないんです。その戻った過去はそもそも暴動なんて起こっていない世界の可能性もあります。あるいは確かに暴動は起こっているけれど、わたしたちがいた世界とは少しバージョンの違う過去の可能性もあります。


 つまり根本的な意味で暴動を未然に防ぐことや、暴動が起こってしまったあとの世界を救うことは難しいということになります。既に起こってしまったことは起こってしまったことということになってしまうんです。もしそれを変える方法があるとすれば、光の速度を超えて全く同じ世界線の過去に戻る必要があります」


「・・・そうなんだ」

 僕は田中唯の説明にすっかり打ちのめされて言った。


「じゃあ、こういうのはどうだろう?」

 と、それまで黙って話を聞いていた近藤が口を開いて言った。僕と田中唯は近藤の顔に視線を向けた。


「つまり、もっと先の未来へタイムトラベルして、光の早さを超えて、あるいは違う何らかの方法で全く同じ世界線へ戻る技術が確率された未来の世界へ行って、そこから暴動が起こった五十万年前の世界へ戻るっていうのはどうだろう?」


 田中唯は近藤の提案に悲しげに首を振った。

「それも難しいと思います」

 と、田中唯は俯き加減に言った。


「断言することはできませんけど、光の早さを超えることはできないと思います。それにそもそも未来への時間旅行は過去への時間旅行に比べてリスクが大きいんです。ほんの少し先の未来へならともかく、遠い未来になると、とんでもない世界へたどり着いてしまう可能性が高くなります」


「でも、昨日技術革新があったって言ってなかったけ?」

 僕は昨日田中唯が話していたことを思い出して訊ねてみた。


「わたしの説明に語弊があったみたいでごめんなさい」 

 田中唯は僕の顔を見ると、弱ったような笑みを口元に浮かべて言った。


「確かに技術革新のおかげて遠い過去へは行けるようになったんですけど、未来は難しいんです。というのは、未来というのは、まだ確定していない世界ですから、過去に比べて非常に不安定なんです。未来への時間旅行もできなくなはないけど、かなりのリスクを伴います」


「そうか」

 僕は田中唯の説明に唸った。


「一番現実的なのは」

 と、田中唯は言った。


「未来へ戻ってエネルギーの問題を解決して、再び過去へ戻ることですね。もちろん、さっきも話した通り、全く同じ世界線へ戻れるわけじゃないですけど、でも、データは残っているので、全く同じ世界線ではないにしても、かなり似通った、つまり、兄が過去に取り残された世界のいくつかのバージョンのうちのひとつの世界へは行くことが可能だと思います」


「つまりそうすれば、お兄さんが過去の世界に取り残されたままの世界もあれば、それはとはべつにお兄さんが助かった世界も新たに作ることができると」

 近藤の言葉に、田中唯はいくらか強ばった表情で短く頷いた。


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