思わぬ副作用
「確かに、千年前の天才科学者、ペルナザが作り出した、生命核と生命組織を分離させてしまう兵器……パワン(生命分離機)は、ごく安全に、驚異的な勝利を、わたしたちにもたらしたかに見えました」
ミルジャという名前の昆虫人がどことなく沈痛な面持ちを浮かべて話はじめた。僕たちはミルジャという名前の昆虫人の顔を注視した。
「実際、パワンがなければ、今頃わたしたちの種は滅亡していたかもしれません。パワンにより、オーブの女王が死に、女王を失ったオーブ達はわたしたちの星域から撤退していきました。それによって首都星は陥落を免れ、オーブの撤退後、他の星々もかつての姿を取り戻しました……しかし」
と、そこでミルジャは言葉を区切って、僕たちの顔を見回すようにした。
「その後、予想外のことが起こったのです……」
「予想外のことって?」
田中唯が眉根を寄せて、ミルジャの顔を見つめた。ミルジャも田中唯の顔を見つめ返した。
「パワンが、予想外の副作用をもたらしたのです」
ミルジャは苦しそうな声で告げた。
「副作用?」
僕は繰り返した。ミルジャは僕の言葉に首肯すると、説明を続けた。
「パワンの使用後……わたしたちの世界に、ほとんど新しい命が誕生しなくなってしまったのです……つまり、子供が生まれてこなくなってしまったのです」
「我々の世界も人間と同じだ。交尾によって母親が妊娠し、やがて子供が生まれる」
バシャワが横から説明して言った。
「子供が生まれなくなってしまったために……いえ、全く、生まれなくなってしまったわけではないのですが、その数が著しく減少してしまったために、……少しずつ、わたしたちの世界は衰退していきました……わたしたちも決して手を拱いていたわけではありません……新しく生命を作るため、様々な方法を試しました……人工的に卵子と精子を受精させる等……しかし、それらのどの方法も有効ではありませんでした……細胞を培養などすれば、確かに、新しい昆虫人の生体組織を作ることは可能なのですが、しかし、先ほどホロからも説明があったように、そこに魂は宿らず、従って、それは生命として機能しないのです」
「……それは昆虫人に限ってのことなんだろうか?俺たちは、ほんの少し前に、地球と火星を見て来たんですが、そこでは普通に生命は誕生しているように思えました」
近藤が疑問に思ったことを口に出した。ミルジャはなるほどというように近藤の顔を見ると頷いた。
「あるいはパワンが使われてから長い歳月が経ち、今ではその副作用の効果も薄れて来ているのかもしれませんね……だとすれば、それはかなり喜ばしいことです……何しろ、パワンが使われた当初はありとあらゆる生命の出生率が激減してしまいましたから……なかでも特に、昆虫人に至ってはその傾向が顕著でした……恐らく、パワンの因子、生命核と生体組織を繋ぐ線を切断する効果が最も強く働いていたのが、昆虫人という種族だったのでしょう」
「……やがて、遂には、アルデバラン星域全体に散らばっていたはずの昆虫人は、首都星近隣に僅かに生存するだけにまで、その数を減らしてしまいました」
ホロがミルジャのあとに補足して言った。
「そこで、我々は決断を迫られることになった」
と、バシャワが堅い口調で言った。
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