昆虫人
船のなかに侵入してきた強化服らしきものを身に付けた生物は全部で五匹いた。彼等は腕の形を銃の形に変形させていた。そしてその銃口はもちろん僕たちに対して向けられていた。……万事休すか、と、僕は思った。
近藤が彼等に対抗しようとしてか、両方の腕を剣の形に変形させたけれど、相手側の数が多いのと、彼等の方が訓練を受けていて、なおかつ、強化服の扱い方も熟知していることを考えると、僕たちにまず勝ち目はなさそうだった。
「jejl;wl;q,vfl」
全部で五匹いる生物のうち、中央にいるひとりが、早口で何か言った。それは全く知らない言語で、僕にはさっぱり理解することができなかった。近藤と田中唯にしてもそれ同じことのようで黙っていた。
と、そのとき、強化服の頭部にジーの音声が流れて来た。
「みなさん、彼等はどうやら昆虫人……我々の遠い子孫のようです。彼等の言語からそれがわかりました。彼等はみなさんが何者かと非常に恐れている様子です」
「……ジー。彼等に、わたしたちが敵対的な種族ではないことを伝えてもらえない?」
田中唯が囁くような声で言った。
間もなくしてジーの音声が帰って来た。
「今やっています。彼等の強化服を通じでデータのやり取りをし、近藤さんたちの情報を彼等に伝えました……彼等はあなたたちの存在を知って……近藤さんたちがかつて地球上で栄えていた、人間という種族であるということを知って、かなり驚いているようです」
全部で五匹の昆虫人たちは我々に対する対応をとうするか、顔を見合わせると、協議している様子だった。重苦しい、息の詰まるような沈黙がしばらくのあいだ続いた。
そしてやがて、ジーによる説明が功を奏したのか、それまで船のなかに侵入してきた全員が僕たちに対して向けていた銃を下ろした。そして中央に進み出た昆虫人のひとりが僕たちを見回すと、言った。
「我々はきみたち種族を歓迎することにした。遠いところをようこそ」
強化服の頭部に、昆虫人の音声が聞こえて来た。強化服が昆虫人の言語を自動的に翻訳してくれているのだろうか、それは日本語で、しかも、老人を思わせるようなしわがれた声だった。
「は、はじめまして」
僕は緊張しながらそう言うと、一歩前に進み出て、声をかけてきた昆虫人と握手をしようとして右手を差し出した。すると、それが攻撃かもしれないと警戒したのか、周囲の強化服を身に纏った昆虫人(代表者らしき一匹はべつにして)が一斉に僕に向かってそれまで下ろしていた銃口を突きつけた。それを、昆虫人の代表者らしき人物は手を挙げて制すると、僕の手を握り返した。それを見て、周囲の昆虫人たちは安堵したのか、再び銃口を下した。続いて、近藤と田中唯も昆虫人の代表者らしき人物と握手を交わした。
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