全てはわからないまま。そして新たな脅威
結局、結論は出ず、僕たちは更にもう少し船のなかを探索してみることにした。
我々は更に奥の空間に向かって進んでいった。我々が通ってきたのと同じような通路が半ば永遠と思えるような感じで続き、通路にはポツンポツンといった間隔でオーブの死体が倒れていた。確認してみたところ、それらの死体は最初に発見したオーブ同様、何か原因不明の理由によって、突然、死んでしまったのだろうと推測された。外傷もなく、特に苦しんで死んだような様子もなかった。まるでスイッチがオフになったみたいに、オーブたちはあっさりと死んでしまったように思えた。
そして更に通路を進み続けると、やがて大きな両開きのドアが我々の前に現れた。黒色の、重厚そうな感じのする金属の扉は、船の電力源が絶たれてしまっているせいなのか、我々がドアの前に立っても自動で開く様子はなかった。試しに手で開こうとしたけれど、ロックがかかっているらしく、ビクともしかなかった。やむを終えず、我々は強化服のヘッドビームを使って、船の隔壁を強引に破壊して、先に進むことにした。ヘッドビームを使うことによって、もしかすると、船の自動防御システムのようなものが作動したり、あるいは奥の通路に控えていたオーブが駆けつけてきたりするのではないかと恐れていたのだけれど、幸いなことに、そのようなことは起こらなかった。
近藤が火星のときと同じように、ヘッドビームの出力を器用に押さえながら、目の前の扉を我々三人が通り抜けることができるくらいの大きさに切り取った。我々はその切り取った隔壁の穴をくぐり抜けて、扉の向こう側の空間に出た。そしてその次の瞬間、我々は目の前に現れた光景に息を飲んだ。
目の前に現れたのは、広大な空間だった。東京ドームが横に十個は並んで収まりそうな程の広大な空間だった。そしてその空間のなかには黒色の、卵形をした小型の宇宙船と思われるものが無数に並んでいた。きっと恐らくそれは、オーブの小型戦闘機に類するものだと思われた。そして更にその広大な空間には、おびただしい数のオーブの死骸が床に横たわっていた。ざっと見た感じでも、千匹以上の死体があると思われた。鮮やかなオレンジ色の体色をしたオーブの骸が床に一面に横たわっていて、遠くから見ていると、それはまるでオレンジ色の絨毯を敷き詰めたようにも見えた。我々はゆっくりと目の前の空間に向かって歩みを進めていった。
近藤は少し歩みを進めたところで立ち止まると、足下の床に転がっているオーブの死骸をかがみ込んで確認した。見たところ、今近藤が確認しているオーブの死体も、最初のオーブの死体同様、外傷はなく、突然、生命を失ってしまったように見えた。
近藤は立ち上がって、僕と田中唯の方を振り返ると、
「……これではっきりしたな」
と、近藤は呟くような声で言った。
「恐らく、俺たちのいる宇宙領域に散らばっている宇宙船のなかにいたオーブはみんなこんなふうになっているんだろう……何があったのかはわからないが、突然、全員死滅してしまったようだ……今後、この宇宙領域に散らばっているオーブの宇宙艦隊から攻撃を受けることはないと考えても良さそうだ……ここまで問題なく船のなかに侵入できたところを考えても、船の機能も、長い歳月のあいだに完全に停止してしまっていると見て、間違いないだろう……」
近藤の話に、田中唯はどことなく難しい表情を浮かべて首肯した。そして気味悪そうに周囲の空間を見回した。
「……一体何があったんでしょうね?」
田中唯は小さな声で言った。
「……やっぱり、致死性の宇宙線のようなものに晒されたのが原因なんでしょうか……」
田中唯はそう言葉を続けてから、はっとしたように僕と近藤の方に眼差しを向けた。
「わたしたちは大丈夫でしょうか?……オーブたちがこんなふうになってしまったのだとしたら、わたしたちの身体にも何か影響があるかも……」
田中唯は脅えたような声で言った。
僕も田中唯の言葉を聞いて恐ろしくなった。僕がイメージしたのは放射能のような、目に見えない、人体に有害な物質のことだった。いくら強化服を身につけているとは言っても、これだけのオーブが一度に死んでしまったということを考えると、強化服の機能を持ってしても、カーバーしきれないのではないかと僕は不安になった。
「恐らく、その心配はありません」
ジーが僕たちを安心させるように言った。
「周囲の空間に、今のところ、正体不明の粒子や、未知の物質は確認できませんから。それにもしそんなものがあったとしたら……今頃はみなさんもかなり前の段階で、この宇宙船に横たわっているオーブと同じようになっていたことでしょう。見たところ、オーブは一瞬にして、生命を失ってしまったようです。オーブを襲ったそれは、進行性の、時間をかけて命を奪うタイプのものではないと思われます」
僕はジーの説明を聞いていくらかほっとしたものの、それでもまだ完全に安心しきれたわけではなかった。
近藤はジーの言葉に思案顔で頷いた。
「結論から言うと、俺たちは助かったらしいな。上手い具合に、オーブは原因不明の未知の宇宙線のようなものによって死滅し、そのオーブを死滅させた未知の脅威のようなものは長い時間のあいだ沈静化……その機能を失ってくれたらしい……」
「……まあ、なんとか、めでたし。めでたし。というわけだね」
僕はぎこちない笑顔で言った。
と、そのとき、ジーが緊縛した声で言った。
「みなさん大変です。小型の宇宙船が我々の方に高速で接近してきます。大至急、船のなかに戻ってください!」




