オーブの船のなかへ
「つまりそれは」
と、ジーは説明を続けた。
「この船を直接侵入したい船の真横に横付けして、原始的な方法ながら、相手側の船の隔壁に穴をあけて、船から船へ直接侵入するという方法です」
「そんなことができるのか!」
と、近藤がジーの説明に驚きと興奮が入り交じったような声を出した。
「……ただし、問題がないわけではありません」
と、ジーは近藤の反応に、心苦しそうな様子で続けた。
「まず我々の船が目的の船に近づいていくあいだ、周囲のオーブの船から全く攻撃を受けないということが前提条件になります。そして更に付け加えて言うと、目的の船が我々が揚陸することに対して、全くの無抵抗でいてくれる必要があります……ですので、この手法はかなりの危険を伴います。たとえもし仮に、この宇宙領域に漂っている宇宙船内部のオーブが全て死滅していたとしても、オーブの船に、何らかの自動防衛システムのようなものがあって……近づいてきた我々の船を攻撃しないとも限りません……」
ジーの述べた深刻な事態に、重苦しい沈黙が降りた。そこまで危険を冒すくらいなら、そんな無理はせずとも、さっさと昆虫人の首都星を目指した方がマシなんじゃないのかと僕は単純に思った。でも、それから、いや、待てよ、と、僕は思い直した。結局は同じことだと僕は気がついた。僕たちがこの周辺の宇宙領域に漂っている宇宙艦隊を無視して先に進もうとしたところを、背後から狙い撃ちにされる可能性はまだ以前としてあったし、もし仮に、無事に攻撃を受けず上手く昆虫人の首都星方面へ進むことができたとしても、今度はさっき近藤が述べていたような、これから進もうとしている先の空間に、何か未知の、致死性の粒子か何かがあって、命を落とすことになる危険性があった。……というより、だからこそ、今周囲の宇宙艦隊は活動を停止してしまっているんじゃないのか、と、そんな気もした。ということは、多少危険を冒してでも、オーブの宇宙艦隊に何があったのか調べてみた方がいいのかもしれないと僕は最初と同じ結論に達した。少なくとも、僕たちが何の抵抗も受けずにオーブの船のなかに侵入することができるのであれば、それはすなわち、今後、オーブ側からの攻撃に身構えている必要性はなくなることを意味するんじゃないかと思った。
「……恐らく、その可能性は少ないと見ていいだろう」
いくらか長く感じられる沈黙のあとで、近藤が口を開いて言った。
「もし、さっきジーが言っていたような自動防衛システムのようなものがあるのなら、とっくの昔に俺たちの船は攻撃を受けて殲滅されているだろうし……今のところ、そのようなことがないということは、大丈夫なはずだ」
近藤は半ば自分自身に言い聞かせるように続けた。
「……そうですね」
と、田中唯も堅い表情で近藤の発言に頷いた。
「わたしもたぶん、大丈夫だと思います」
そして、結局、オーブの船のなかを直接探査することで話は纏まった。ひとまず残りの朝食を食べ終えると、僕と近藤と田中唯の三人は再び強化服を身に纏い、オーブの船のなかに侵入する準備を整えた。我々が侵入することに決めたのは、一番近くにある、比較的大型の戦艦だった。大きさは最大クラスとはいかないまでも、かなり大きく、たとえば、ひとつの都道府県がすっぽりとそのままそのなかに収まってしまいそうな程の大きさがあった。
我々を乗せた船は、その黒色をした、滑らかな流線型をした巨大な宇宙船に向かってゆっくりと近づいていった。いつ、攻撃を受けるかと思うと、まるで生きた心地がしかなかったけれど、幸いなことに、我々の船が大型戦艦からレーザー兵器等による攻撃を受けることはなかった。
そして間もなく、我々を乗せた船は、その巨大戦艦の中央部あたりに横付けされた。
「これから、船と船を強制的に接続します」
と、ジーのホログラムがどこか堅い表情を浮かべて告げた。僕たち三人は黙ってジーの言葉に首肯した。その直後、僕たち三人が立っている空間の反対側にある船の空間が何か熱を発しているような赤い光を放ち、その後しばらくしたあと、僕たちから見て反対側にある船の隔壁から外へと通じる空間が新たに広がったのが確認できた。宇宙船の反対側の空間に、オーブの船の船内と思われる、暗闇が目視できた。
「無事、進入路は開通しました」
と、ジーが僕たちを見ると言った。
「じゃあ、行くとするか」
近藤は僕と田中唯の緊張をほぐそうとしているのか、何でもなさそうな口調で言って、最初に歩き出した。
「……なんか緊張するな」
僕は正直言ってビビりながら、近藤のあとに続いた。その僕のあとに田中唯も続いた。
侵入したオーブの船のなかは、電気が通じていないのか、あるいはオーブという種族は暗闇のなかでも目が見えるのか、真っ暗だった。しかし、間もなく、強化服が視界を自動調整してくれて、暗闇のなかにいても、電気を点けているのと全く変わらない状態になった。
どうやら我々が侵入した箇所は船の通路のような場所らしかった。細長い(といっても、オーブという種族は身体が大きいのか、人間の大人三人が楽に横に並べる)通路が真っ直ぐに続いていた。前方、後方共に、百メートル以上の通路が続き、その通路の、我々から見て左側面には、固くて重たそうな金属の扉が等間隔で並んでいた。船内は船外同様、黒い滑らかな金属でできていた。ジーの宇宙船内と同じように人工的に重力が作り出されているのか、我々の身体が浮き上がるというようなことはなかった。今は強化服を着ているのでわからなかったけれど、もしかすると、呼吸できる空気があったりするのかもしれなかった。今のところ、船内のオーブたちが、侵入者を捕らえようと駆けつけてくる様子はなかった。船内はしんと静まりかえっている。ほんの微かに、エンジン音なのか、ブーンという機械の駆動音のようなものが聞こえるだけだった。
「どうする?手分けして探索する?」
僕は近藤の方を見ると、訊ねてみた。近藤は僕の問いに、いや、というように軽く首を振った。
「もし、オーブに襲われたりしたときに、バラバラでいるよりも、まだ三人の方が対処のしようもあるだろう」
近藤は考えながら話すようにゆっくりとした口調で言った。
「……そうだね」
僕は頷いた。
僕は船内の様子がどうなっているのかと確認しようと意識を集中させてみたけれど、船に使われている金属が強化服の探査システムを妨害するらしく、強化服のディスプレイは沈黙を守ったままだった。どうやら直接自分たちの目で確認するしか方法はないようだった。
我々はとりあえずという感じで、先頭に近藤、その次に僕が、最後尾を田中唯がといった順番で、前方方向に向かって歩き出した。通路は横幅だけでなく、天井もそれなりに高くなっていたけれど、さすがにオーブはムーク程巨体ではないのか、高いといってもそれはせいぜい五メートル程度のものだった。ということは、オーブの身長は平均して三メートルくらいだろうかと僕は凡その検討をつけた。
そしてそのまま我々は通路を百メール程、何の妨害も受けることなく進むことに成功した。突き当たりに出ると、今度は右に曲がる通路が現れ、我々は更に通路を奥へと進もうとした。
と、その瞬間、近藤がびっくりとしたように立ち止まった。歩き続けていた僕は勢い、近藤の背中にぶつかりそうになった。僕も慌てて足を止めた。どうしたのだろうと思って前方を近藤の背中の隙間から確認してみると、少し先の通路に何かが、三つから五つ、倒れているのがわかった。
「……もしかして、オーブ?」
僕は小声で問いかけた。
「……その可能性が高い。みんな注意してくれ」
近藤が警戒を促した。と、同時に、近藤は強化服を身につけた自分の手を、オーブによる襲撃に備えてか、剣の形に変形させた。僕は頭のあたりに意識を集中させて、万が一の場合、いつでもヘッドビームが打てる準備を整えた。田中唯は自分の腕を盾の形に変形させた。
我々は恐る恐る、その通路に倒れているものに向かって近づいて行った。
「……これは……」
一番最初に、通路に倒れているものを確認した近藤が絶句するように呟くのが聞こえた。




