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死闘 1

 巨大な黒い剣を持ったムークが鎧竜に似た恐竜共、再び突進してきた。僕に向かって剣が振り下ろされる。僕は後ろに跳躍してその攻撃を回避した。


 そして今度はレーザービームを黒い鎧のムークの騎士に対してではなく、ムークの跨がっている恐竜めがけて発射した。


 すると、見事にそのレーザービームは恐竜に命中した。かと思うと、さきほど同様爆発が起こり、周囲の空間に爆発四散した大型恐竜の肉片が降った。もちろん、その恐竜に跨がっていたムークも無傷ではいられず、地面に投げ出された。


 鎧のようなものを身に纏っていたおかげで死ぬことはなかったようだけれど、それでもある程度のダメージを受けたようで、その場から動かなかった。僕は今度はレーザービームをそのムークに向かって発射した。再び、爆発が起こり、黒い鎧を纏ったムークの身体は黒い灰と化した。




 僕が黒い鎧のムークを屠ったことによって、状況は一変した。まだまだ後方に控えていた無数のムークはそれぞれ僕に背を向けると散り散りになって逃げ始めた。黒い鎧を身にまとい、恐竜に跨った、指揮官に相当すると思われるムークが、「逃げるな、留まれ」と命令を出しているようだったけれど、みんな一向に命令に従う様子はなかった。


 よし、今度こそチャンスだ、と、僕は思った。もともと僕たちの目的はムークを倒すことにあるのではない。昆虫人の都市の内部にある、中央の人工知能を動かすことにあるのだ。


 僕は跳躍するように走り出した。僕が走り出すと、まだ逃げ遅れていたムークたちは面白いように僕に対して道を譲った。まだまだ遥か遠くに思えていた、緑色に塗装されたムークの城と思われる建物までもうあともうちょっとというところまで僕は一気に近づくことができた。


 ふと気になって田中唯や、近藤の方へ眼を向けてみると、ふたりも僕と同じようにムークの集団に進行を妨げられることなく、ムークの城と思われる建物に近づきつつあるようだった。


 僕たち三人は、五重塔にアステカ文明の趣を加えたような巨大な建物の前で合流した。さすがに間近で見ると、建物はかなり巨大に感じられた。もともとムークの身体の大きさに合わせて作られているので、その大きさは僕たち人間からすると、ピラミッド等の巨大建築物を見ているかのような威圧的な迫力があった。そしてその背後に、かつて昆虫人が築いたと思われる、薄黄色の、卵を垂直に引き伸ばしたような形をした、更にムークの城よりも巨大な建物が聳えたっていた。


 見たところ、ムークが築いた城のような建物と昆虫人の都市は連結されているようで、今、堅く閉ざされているムークの城の扉を越えていかなければ、その背後にある昆虫人の都市の内部へと侵入することは不可能なようだった。


 さて、どうしたものかと、僕たち三人は顔を見合わせた。黒色の鉄のような物質でできた、城の門扉をレーザービームで破壊することができるだろうか?僕がそう思っていると、マスク内で警告音が鳴った。その直後に熱反応とディスプレイには表示された。


 僕が身構えていると、それまで閉ざれていた門扉を打ち破って、緑色の光線がこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。僕たちは咄嗟にジャブして後ろに後退した。と、その直後、さっきまで僕たちがいた箇所にその緑の光線は着弾し、赤黒い炎が広がった。


 一体、何が起こっているんだ、と、僕は混乱した。さっきの攻撃は明らかにレーザービームか、またはそれに類するものよるものだと思われた。まさかムークは既にレーザー兵器のような、高度な科学力を必要とする武器を作ることができる段階にまで文明が進んでいるのだろうかと僕は慄然とした。


 そして僕がそう思っていると、ライオンの咆哮を何十倍にも増幅したような恐ろしい叫び声のようなものが聞こえてきた。その声はさきほどのレーザー光線のようなものが飛来してきた場所から聞こえてくるようだった。僕たちが緊張して身構えていると、やがてそいつは先ほどのレーザー光線を受けて溶け残った門扉を派手に蹴り飛ばして姿を現した。



 驚いたことに、それは昆虫人だった。いや、そうではなく、それはムークだった。ムークが僕たちが今身に纏っているのと同じ、強化服を身に纏っているのだ。


 銀色の液体金属に包まれた、巨大なムークの姿は不気味に感じられた。強化服を身に纏って現れたムークが一匹だけだったのはまだせめてもの救いだった。これがもし複数だったら、とても僕たちだけでは太刀打ちできなかっただろう。何しろ僕たちには圧倒的な体格差があるのだから。そして更に言えば、腕力にも相当な違いがある。僕たちの三人の力を合わせて、やっとなんとか、ひとりの強化服を身に着けたムークと対等に渡り合えるかどうかといったところだろう。


「ジー、どうしてムークが強化服なんか持っているんだ?」

 近藤が抗議するように言った。


「……恐らく、昆虫人の都市の内部で偶然、それを見つけたのでしょう」

 ジーが心苦しそうな口調で答えた。


「……わたしたちはあいつに勝てるのかしら?」


「……わかりません」

 田中唯の問いに、ジーはなんとも心もとない返答を返した。


 と、そんなやりとりを交わしているあいだにも、強化服を身につけたムークが僕たちの方に向かって突撃してきた。当然強化服を身につけたムークの動きはかなり早く、これまでのように難なく交わすというわけにはいかなかった。風のような速さで迫ってくるムークを僕たちはぎりぎりのところで交わした。でも、交わした直後に、レーザー光線がこちらに向かって飛来してくる。僕は慌てて後ろに跳躍してレーザー光線を交わした。着弾したレーザー光線が爆炎をあげ、熱風が伝わってきた。


「原田、大丈夫か!?」

 と、マスク内に近藤の声が響いた。

「な、なんとか」

 僕はしどろもどろになりながら返事を返した。


 近藤がムークに向かってレーザー光線を打ち返した。ムークはその攻撃を僕たち同様後ろに跳躍して回避した。回避したところを、今度は田中唯が突進した。一体どうするつもりなのだろうと思っていると、田中唯は腕の組織を槍のような形に変形させていた。恐らく、それでムークを串刺しにするつもりなのだろうと思われた。


 しかし、その攻撃はムークの足蹴りで一瞬して交わされてしまった。ムークの方がそのリーチが長いので、接近戦はかえって僕たちの方が不利なように思えた。蹴り飛ばされた田中唯は軽く五メール近くははね飛ばれて、地面に激しく叩きつけられた。


「田中さん!!」

 と、僕は叫んだけれど、田中唯の反応はなく、かわりに、「ぐっ」という苦しそうな呻き声が聞こえてきた。


 田中唯は大丈夫なんだろうかと思っていると、「原田!」という近藤の警告するような叫び声が聞こえてきた。


 慌てて正面に顔を向けると、もうすぐ側にムークが迫っていた。ムークの腕の組織は、さっきの田中唯と同様に槍のような形で変形していた。僕は焦って跳躍したけれど、一瞬遅く、右太もものあたりに焼けるような痛みが走った。辛うじて貫通は避けられたものの、僕の右太ももはさきほどのムークの攻撃によって大きく切り裂かれていた。着地すると、激痛が走った。着地したところに、止めをさそうとしたムークが迫ってくる。


 もう、だめか、と、思ったところで、爆発が起こった。近藤が自分に背を向けたムークにレーザー光線を放ったのだ。爆発が起こり、ムークの巨体はその爆発によってなぎ倒された。


 仕留めることができたか、と、僕はほっとしかけたけれど、意外なことにムークはすぐさまに立ち上がり、地面を蹴って高く跳躍した。そして百メートルくらい浮上したところで、そこからレーザー光線を放ってきた。


 しまった!と僕は思ったけれど、足が痛んで動くことができなかった。僕は観念して瞳を閉じた。僕はここで死んでしまうのだと思った。僕は爆発の衝撃がやってくるのを歯を食いしばって待っていた。


 しかし、しばらく待ってもそれはやってこなかった。不思議に思って瞳を開いてみると、いつの間にか僕の目の前に田中唯が立っていた。田中唯が以前と同じように両腕の組織を盾の形に変形させて、僕をレーザービームによる攻撃から守ってくれたようだった。


「大丈夫ですか!?」

 田中唯は僕の方を一瞥すると言った。

「……な、なんとか……ありがとう」

 僕は答えた。


 田中唯は僕の無事を確認すると、

「近藤さん、原田さん」

 と、マスクを通して呼びかけた。


「わたしたちひとりひとり個別に戦っていたのでは、とてもあのムークには敵わないと思います。みんなで力を合わせる必要があります」


 田中唯がそう言っているあいだに、虚空に高く飛び上がっていたムークは地面に着地した。着地した瞬間ひどく重たいものが地面に激突する大きな音が聞こえた。さきほど近藤からレーザービームによる攻撃を受けたというのに、ムークは少しもダメージを受けている様子がなかった。


「……わたしが、できる限りムークをひきつけます。その背後から原田さんはレーザービームでムークを攻撃してください。そして最後に、近藤さんがムークに止めを刺してください」

 つまり、田中唯が言っていることは、自分がおとりになるということだった。


「いや、おとりになるのは俺がやる」

 女性に危険な真似をさせることはできないと思ったのだろう、近藤が険しい口調で言った。


「いや、僕がやるよ」

 僕も近藤と同じことを思ったので言った。

「足をやられたけど、まだなんとか動ける」


 田中唯は僕たちの言葉に首を振った。

「いえ、おとりになるのはわたしがやります」

 田中唯は決然とした口調で言った。


「原田さんのその足じゃ、すくやられてしまうと思うし、近藤さんよりもわたしの方が多少俊敏に動けると思います……さき程は不覚をとりましたが、防御に関してはそこそこ自信があるつもりです。ですので、原田さんがわたしを援護して、近藤さんがムークに止めをさしてください。お願いします」


 田中唯はそれだけ有無を言わせない口調で告げると、ムークに向かって突撃して行った。



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