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タイムトラベル

まだ試し書きの段階です。物語がちゃんと終了するかどうかも未定なのでご注意ください。

 虹色の光が渦巻く空間のなかを車はゆっくりと下降しているようだった。いや、実際にはどうなっているのかはわからなかったけれど、少なくとも体感的にはそんなふうに感じられた。エレベーターに乗って下の階に降りていくときの感覚に似ている。


「もしかしてこれがタイムトラベル?」

 少しのあいだ僕は何がなんだかわからなくて口を開くことができなかったけれど、しばらくしてから運転席にいる田中唯に恐る恐る声をかけてみた。


「・・・すいません」

 田中唯は僕の問いには答えずにおびえたような声で謝った。


「巻き込んでしまって」

 田中唯はひどく気落ちした声で言った。よくわからなかったけれど、田中唯は自分のことを責めている様子だった。


「なにがどうなってるんだ?」

 と、近藤が僕のとなりで口を開いた。それは田中唯に質問しているというよりも、自分の置かれた状況を理解しようとしてとりあえず口にされた言葉のように聞こえた。


「さっき・・・銃を打ってきたの、彼らです。わたしがもともといた五十万年前の世界で反乱を起こしたグループのひとりだと思います」

 田中唯は一呼吸ぶんくらい間をあけてから言った。


「遠目だったからわからないけど、でも、たぶん、間違いないと思います。どうやったのかはわからないけど、わたしがこの世界にいることを突き止めて、抹殺しにきたんだと思います」


 抹殺という、穏やかではない言葉に僕も近藤も少しのあいだ何も反応することができなかった。でも、確かに、何かが、この車に向かって発砲されたのは間違いなかった。恐らく、田中唯の言う通り、車に向かって発砲してきた人物は、田中唯を、僕たちをこの世界から消してしまおうとしていたと考えて間違いなさそうだった。


「・・つまり、五十万年前の犯人グループのひとりが、わざわざこの時代までタイムスリップしてきてきみを消しにきたということなのか?」

 近藤が信じられないというように言った。


「・・・恐らく、わたしが未来に戻って、彼らの反乱を鎮圧するために戻ってくるのを恐れたんだと思います」


「でも、研究室で話したとき、田中さんはそういうことは技術的に難しいって言ってじゃないか?タイムスリップをするたびに限りなく似たような世界、パラレルワールドに移動することになるって・・・だから、わざわざその可能性を恐れて田中さんを殺しにくるとは考えにくいと思うんだ。たとえ田中さんを殺したとしても、未来の世界の人間にはいずれ反乱が起こったことは露見するだろうし、そうなれば田中さんを殺したとしても結果は同じということになる」


「わかりません」

 田中唯は心底混乱している様子で言った。


「念には念を入れて自分たちの存在を脅かすような存在は排除しておきたいと考えたのかもしれませんし・・・あるいは何らかの理由でわたしの存在が彼らにとって脅威となりうるとわかった、判明したのかもしれません・・・いずれにしても、五十万年前の世界の人間がわたしを殺しにきたのは間違いないです」


 僕は田中唯の話した深刻な自体にどんふうなにコメントしたら良いのかわからなかった。近藤も何か考え込んでいる様子で黙っていた。車の窓の世界には相変わらず七色の光が渦巻き、車が下降していくような感覚は続いていた。


「・・・でも、たがらこそ、田中さんは、未来の規則を破って僕たちをこのタイムマシンに乗せてくれたんだね」

 と、僕はしばらくしてから沈黙が気になって明るい口調を装って言った。


「銃弾は正直怖かったけど、でも、嬉しいよ。タイムマシンに乗ってみたいってずっと思ってたから」


「巻き込んじゃってすいません・・もしかしたら未来の世界にいったら、原田さんたちにも何か迷惑がかかるかもしれませんけど・・でも、あの場に原田さんたちを置いてきたら、原田さんたちの命が危なかったから」


「いや、べつに構わないよ。死ぬよりはマシだからね」

 僕は微笑して言った。


「でも、迷惑がかかるって?」

 と、僕は田中唯が言ったことがちょっとだけ気になって訊ねてみた。


「勝手に過去の人間を連れてきたりしたら、当然処罰の対象になるだろうし、俺たちは向こう側の人間に監視、監禁されることになるだろうな」

 田中唯が答えるよりもさきに近藤が口を開いて言った。


 ほんとうなのというように運転席に座っている田中唯の方に視線を向けると、いくらかの沈黙のあとで、

「・・・あるいはそういうこともあるかもしれません」

 と、田中唯は言いにくそうに言った。


「でも、正直、どうなるかはわからないんです。こういのうって前例がないことだから。でも、ちゃんと事情は説明しますし、原田さんたちが危険な目に合うことはないはずです」

 田中唯は僕たちを心配させないようにとしてか、いくら早口に付け加えるように言った。


 僕は自分がテレビ等で見たことのある、檻のついた妙に白っぽくて無機質な感じのする部屋に近藤とふたりで閉じ込められているところを想像した。


「大丈夫です。原田さんたちのことはちゃんとわたしが責任をもってなんとかしますから」

 田中唯は僕が不安に思っていると、励ますようにいった。


「・・・うん、そうだよね」

 僕は若干の不安を感じつつも、とりあえずという感じで頷いた。


 しばらくの沈黙があった。


「だげと、あれだね。タイムトラベルって思ったよりも時間がかかるんだね」

 僕はいくらか深刻になってしまった雰囲気を変えようとして明るい口調を装って言った。

「タイムトラベルってもっと短時間で、一瞬で終わるのかと思ってたけど」


「八十年の時間を飛ぶのに、だいたい四十分くらいかかります。このタイムマシンの充電状態だと」

 田中唯は窓の外の世界に目を向けながら答えた。


「四十分か」

 と、僕は田中唯の答えを復唱しながら、たった八十年の移動だけでそれくらいの時間がかかるのなら、田中唯のいた五十万年前の世界だといったいどれくらいの時間がかかるんだろうと思った。そんな僕の疑問を察したように、


「充電の状態や、機械の新旧によっても違ってきますけど、五十万年だと、フル充電の状態でも、半日以上かかります。だから、初期の宇宙旅行のときのように簡易トイレとか、簡単な飲食類は必要になってきますね。特にこういった単純にタイムスリップするためだけの機能しかつんでないものは」

 と、田中唯が教えてくれた。


「違うタイプのものもあるの?」

 と、僕が気になって訊ねてみると、


「わたしたちが最初に五十万年前の世界に飛んだときは、それこそ巨大な研究機関ごとタイムトラベルしました。研究機関ごとタイムトラベルするので、トイレとか飲食の心配はいらないですね。タイムトラベル中もその研究施設のなかで普通に日常生活を送ることができますから」


「研究機関ごと?」

 僕がびっくりして言った。


「わたしたちの世界にあるものは、この車もそうですけど、タイムマシンではないんです。あくまでわかりやすいようにそう呼んでるだけで、実際には重力歪曲装置を積んでるだけなんです。重力歪曲装置、つまりタイムトラベルを可能にする装置ですね、それで自分たちが乗っている乗り物周囲の空間に穴をあけて、時空を歪ませてタイムトラベルしてるんです。だから、極端な話、乗り物はなんでもいいんですよ。船だって。家だって。ただし、タイムトラベルをする際に時空間に出ますから、その自分が乗っている乗り物がある程度の強度を持っている必要はありますけど」


「ちょっと待ってくれ」

 と、それまで黙っていた近藤が異議を唱えるように口を開いて言った。


「さっき研究機関ごとタイムトラベルしたって言ってたけど、そんな巨大なものごとタイムトラベルすることがほんとうに可能なのか?」


「ええ。もちろん、タイムマシンが完成した当初は不可能でしたけど、技術の開発が進むにつれてどんどん大きな物体ごと移動できるようになりました・・・というより、五十万年前の世界を研究するためにはどうしても研究施設ごとタイムトラベルする必要があったんです。何しろタイムトラベルした先の世界には現代文明は何もない状態ですからね。そこには施設を作るための機材はもちろん、重機も何もない状態です。いちから全てを作らなくちゃなりません。あるいはタイムマシンでこまめに機材を五十万年前の世界に送るということも不可能ではないんですけど、でも、それだと効率が悪いですし、エネルギーの問題もあって費用がかかりすぎます。ということで、現代の世界で研究施設をそもそも作って、その施設ごとタイムトラベルする方法が取られました。あと、この方法だと、毎回若干バージョンの違う五十万年前の世界にタイムトラベルしたとしても困りません。人間だけがタイムトラベルする方法だと、最悪その世界には研究施設がない場合もあり得ますからね」


「その研究施設ってどれくらいの大きさなの?形とかは?」

 僕は気になって訊ねてみた。


「大きさは結構大きいですよ。何しろ五十万年という途方もない時間を移動するだけのエネルギーを作るための施設も含まれていますから、巨大なクルーズ船みたいなものを想像してもらえばいいと思います。というより、研究施設でありながら、移動能力も備えています」


「船みたいに海上を移動するの?」

「それも可能です」

 と、田中唯は僕の問いに答えて言った。


「でも、それ以外にも空を飛行することも可能です」


「空も飛行?」

 近藤が信じられないというように言った。


「でも、それは一体どうなってるんだ。巨体なクルーズ船みたいなものを空に飛ばすのは到底不可能とまではいかないにしても、かなり難しいと思う」


「空を飛ぶ際は、というより、時間移動する際もこの技術を応用してるんですけど、重力制御装置を使用しています」


「重力制御装置!?」

 そう言った僕と近藤の声は綺麗に重なっていた。


「そんなものをほんとうに作ることが可能なのか」

 近藤は目を見開いて言った。


「確か反重力装置の初歩的な研究はもう二千年のはじめごろにされていたはずだと思いますけど」

 田中唯はなんでもなさそうに言った。


「確か、スイスかどこかの研究機関で偶然その現象が確認されたのがはじまりだったと思います。電子を研究する機械の前をある日、その職員の人間がタバコを吸いながら通りすぎたところ、そのタバコの煙がその機械の垂直方向に昇っていくのが確認されたそうです。通常タバコの煙は垂直方向ではなく横に拡散していきますけど、そうではない現象が起こったんです。それでそのタバコの煙が垂直に昇っていくのがただの偶然なのかどうか詳しく実験してみたところ、偶然ではないことがわかったみたいです。その機械の前ではどうしてからはわからないけど、僅かに物質の重さが軽くなる現象が確認できたみたいです。そしてそれらの現象を詳しく解析し、発展させたものが、今のわたしたちの世界にある反重力装置です」


「二千年のはじめってことは、もう今現在にそんなシステムの研究が始まってたのか・・」

 僕が呟くように言うと、


「いや、そんな話は聞いたことがあるが、まさかほんとうだったとは」

 と、近藤は顎に手を当てて打ちのめされたように言った。


「・・・あとついでにひとつ聞いておきたいことがあるんだ」

 と、近藤は少し間をあけてから言った。

 僕は近藤の言葉の続きを待って黙っていた。田中唯も黙っていた。


「タイムスリップしたあとの状況なんだが、今のこの時空間ってやつから抜け出して、通常の空間に出現した際、何らかの障害物があったらどうなるんだ?過去に行くにしても未来に行くにしても、タイムトラベルした先は現在とは状況が違っているはずだ。新しく建物が建てられていたり、遠い過去だと今現在とは地形が全然違っている可能性が高い。運悪くそこが岩かなんかだったりした場合、俺たちが埋もれてしまうということは?」


「タイムトラベルが可能になったばかりの当初は不幸にしてそういうこともあったみたいですね」

 と、田中唯は近藤の質問に簡単に答えて言った。

 えっ?と僕は聞いてないよと若干焦った。


「もちろん、過去においてもタイムトラベルする際は、出現する場所がどんな場所なのか綿密にシュミレート操作してから行っていたんですげと、ただ技術的に不完全だったんです。だから、ときどきそういう事故は起こっていたみたいですね」


 田中唯の科白に耳を傾けながら僕が思い出していたのは、何十万年も前の岩石から発見されたという現生人類の化石のことだった。オーパーツ。あれはもしかすると、そういった事故が原因で作られたものなのかと思った。


「でも、その後技術革新が行われました」

 と、田中唯は続けた。

「それはプラズマを利用する方法です」


「フプラズマ?」

 と、僕は気になって言った。


 田中唯は僕の問いに軽く頷いた。

「プラズマには物質をすり抜けることができる性質があるんですが・・・たとえば壁を通り抜けて向かう側の部屋に行くとか・・・その性質を利用して、つまり、そのプラズマで…正確にはプラズマに似た性質を持った、人工的に作った光のエネルギーになるんですけど、それでタイムマシン全体を包んでしまう方法が考案されました。これであれば万が一出現した場所に障害物があった場合でも、タイムトラベラーがその障害物に埋まってしまうということを防ぐことができます」


「そんなことが可能だとはとても思えないな」

 近藤は難しい顔つきをして唸るように言った。

「ただ」

 と、田中唯は更に続けた。


「その擬似プラズマも万全じゃなくて、そんなに長時間タイムマシンを覆っていることはできないんです。長くてせいぜい十分程度。しかも、その擬似プラズマの作成の仕方も、タイムトラベル後に通常空間に再出現する際のエルネギーを利用しているので、タイムトラベル前にタイムマシンを覆うということはできないんです。逆にこれが利用できれば、さっきみたいな場合に、銃で撃たれたりしたときなどに一時的なバリヤーとして使うことができたんですけど」

 田中唯は残念そうな口調で続けた。


「いずれにしても、タイムトラベル後に通常空間に出現するのは危険を伴うので、基本的には空からタイムトラベルを行います。過去へのタイムトラベルではよほどのことがない限り空に障害物があるということはあり得ないですから」


「・・・でも、さっき僕たちは地上からタイムトラベルしたよね?」

 僕は不安になって訊ねてみた。


「ええ。ほんとうはこの車を改造したタイムマシンにも反重力装置が付いていて、空からのタイムトラベルも可能なはずなんですけど、ただ、今はいかんせん壊れてしまっています」

 僕が田中唯の言葉に不安になって言葉を失っていると、


「でも、安心してください」

 と、田中唯は自信に満ちた口調で言った。


「今回は未来に戻るわけで、その未来の時空間情報はちゃんとコンピューターに残っていますから、何か障害物があるような場所に出現するということはないはずです。それに万が一の場合でも擬似プラズマにより、危機回避を行うことができます」


「・・・そうか」

 と、僕がいまひとつ心細い気持ちで頷いたところで、また目の前で光が眩しく炸裂した。


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