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call  作者: 水居
序章:Mr.Unknown
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ゆめのはなし

 

 おれの手はとても小さくて、たくさんのものは掴めない。

 少しばかりのかわいい嘘と花とを手に。

 きみを待つ。

 きみの手を、待ち望む。

 きみにあげるよ。


(呼んでいる)


「――……」


(呼んでいる、あのひとが)


 天に近づくほど蒼穹の青みは薄れ、空気は清く冷たい。

 日の当たりが遅いのだろう、草陰の蕾はまだ朝露に震えている。

 春から秋までひと飛びに巻き込んで訪れる、短い短い夏。

 木々のさざめきと鳥のささやきとに紛れ響く、声。

 細くたおやかなる木霊。


「――……?」


 隠れているつもりはないんだ。

 おれの手は小さくて、たくさんのものは掴めない。

 すみれ、れんげ、野菊に芙蓉。

 「な忘れそ」なんて重すぎるから、勿忘草は摘まずにおくよ。

 きみにあげる。


(ここにいるよ)


「――、你在哪里?」


(ねえ、ここにいるよ)


 隠れているつもりはないのだけれど。

 さがしてもらいたいのも、本当。

 少しばかりのかわいい嘘と花とを手に。

 なんでもない振りで顔を出すから、わらってよ。

 ねえ、わらって。


「你在哪里?」

「我在这里!」


 こども染みた仕草で姿を現したりしてね。

 お望み通り、かわいらしく微笑んであげる。

 ささやかなすべてを後ろ手に隠して。

 そうしたら、ああ、そうだな、きっとこうだ。

 きっと、きみはわらうんだろう。


「哎、我一直在寻找你」


(ほらね)


 そうやって、ひどくきれいに。


「――」


(呼んで。ねえ、呼んで。もっと)


 きみに呼ばれるのでなければ、おれの名なんて、なにひとつ、意味はないから。

 この(なり)ばかり大きく育った矮小な手でもって、掴めるだけのすべてを。

 きみにあげる。

 きみにあげるよ。

 だから、ねえ、わらって、わらって、


(おれを呼んで)

 

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