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4.嘘だらけの政権交代@2016.6.14 11:26

「味内閣がただいま! ただいま成立しました!」

 テレビは祭りの雰囲気でその事件を伝える。

 小峰前内閣のメンバーはただただそれを空しく見つめるだけだった。



 夜は原理党の言うとおり、何も起こらなかった。起こったのは朝である。

 国会の緊急招集、そして言い渡された政権交代。

 今の原理党に冗談も皮肉も通らないことを、小峰は実感せずにいられなかった。



 人間と言うのは武力にこれほどにも弱いのだろうか。

 まず交通封鎖は予想通りだった。国会はさらに想像を絶するひどさだった。出席者は原理党ばかりなのだが、東京に住居を構える民政党の議員数人はかろうじて出席することができた。だが原理党の行動に容赦は無かった。始まる前からNHKではすでに中継が行われていたが、それはそれはひどいものだった。来た議員に銃を向けて帰ることをうながすのだ。議事堂はまるでコロシアム、口論より武力、民主主義を忘れた議会だった。小峰だって政治の汚さの一面は知っている。だがここまであからさまに汚い現場を目にすることは無かったし、国民はなおさらだろう。衝撃のドラマが淡々と行われていた。

 議長が入ってきた。もちろん議長は民政党の議員である。来た議長を原理党議員が座らせ、自分達も座る。罵詈雑言で議長に向かって始めることを要求、首相指名が開始された。

 もちろん味の名前以外あがることはなかった。出席180人中180人満場一致の賛成と議長への武力による警告で、嘘だらけの政権交代が行われた。



「信じられませんな」

 閣議室の空気を唐山が切った。

「こんなことがあからさまに国民の皆さんに見せられるなんて……原理党め、我々の復活のあとにはただでおかんぞ」

「じいさん、そんなことを言っても無駄だ。当の小峰総理、いや小峰前総理が民主連合を仲間と思っていないんだ。ま、あんたは政党と無関係だからいい身分だけどな」

 早川はたっぷりの皮肉を唐山にぶつけた。早川は昨日の夜からこの不機嫌さだ。唐山は国会議員ではなく、警察庁の警視総監から引き抜かれた人間なのだ。よってこのゲームとは関係無いのは明らかだが、このゲームを何とも思わないからこそこのような重要役職に小峰は抜擢したのだろう。

「早川さん、そんなことを言ってはいかんよ。まだお前さんは若い。51で経済産業大臣なんてすごいことじゃぞ。たとえ大臣から外れても議員の身分はあるんだ。まだまだチャンスはある。次は大臣じゃなくて総理大臣かもしれん」

「じいさんあんた本気で言ってるのか!? 次の総理大臣はどうせ末崎さんだよ。小峰のお墨付きだからな! だいたい議員の身分なんてこの状況じゃ何の役も成さない! 新人事に漏れた上に小峰と一緒に死ぬのか……ふざけんなこの野郎!」

 早川はもはや小峰を呼び捨てにしている。

「お前さんは誰にいらついているんじゃ。小峰さんか? 原理党の連中か?」

「どっちもだよ!」

 早川は小峰を睨んだ。小峰は残念そうな顔をしたあと、目をそらす。偽善者の皮が、薄い人から剥がれていく。



 それから早川は小峰の顔を見ようともしなかった。小峰は唐山に近づく。

「まさか、こんな風になるとは思いませんでしたよ唐山さん。四方八方から『小峰の政治は御無難政治』と言われたので、人事を改造したらこのザマです。改造や改革をしなかったら叩かれる、したら他のメンバーから叩かれる。どうしたらいいんですかね」

「そんなことを聞かれても困る。総理大臣はそんなもんだ。お前さん政治家長いからわかるはずなのに、普通の政治家と違ってまっすぐだからな。良くも悪くもだ。左にも右にも敵がいるのは仕方が無い。だが、その敵の数を減らすのはあなたの仕事だ。でも0にはできんし、最初から0に挑むのは間違っておる」

「そうですか」

 そして小峰は窓からすっかり混乱した永田町を見て言った。

「私は総理大臣失格なんですかね。味さんのほうがチャンスを与えれば成功するかもしれませんね」

 いつしか自分を自分で皮肉る手しか小峰には残されていなかった。

「馬鹿者!」

 唐山は叫んだ。

「そんな弱音を今、この状況でどの口が吐けるんだ!」



「まったく、とんだサプライズを誕生日でも無いのに受ける羽目になってしまったな」

 尾崎は原理党本部に一番に帰り、誰もいない応接室で呟いた。

 昨日の尾崎は原理党選挙対策委員会委員長、今日の尾崎は国家治安維持委員会委員長。同じ委員長でも大違いだ。

「確かに、原理党を味さんと大勝に導いたのは事実だが」

 尾崎はダラダラとクーデターを伝えるテレビを一瞥した。

「ごほうびにしては、ちと大きすぎるな」



『ふっふっふ、哀れなる民政党諸君今を以って君たちは内閣のメンバーでは無くなったことはテレビを見て、深く思い知っただろう』

「じゃあ解放してくれ」

 小峰の要求はあっさり破棄された。

『それは出来ん。君たちはただの政治家だが、原理党にとっての要注意人物であり続けることは確かだ。もうしばらくご辛抱を願いたい。お詫びに新人事を君達にも教えてあげよう』

「そんなことはどうだっていい」

 その小峰の発言こそどうだっていいと言わんばかりに、アナウンスは新人事を言っていった。



 皆が思い思いの表情をして天の声を聞く。『内閣総理大臣 味幹夫』などは予想の範囲内だったし、他の閣僚も聞いたことのある名前だった。

『国家治安維持委員会委員長 尾崎公太』

「……!」

 皆が無言で、驚きを露にする。

『最後はちょっとサプライズだったかな? それではもうしばらくのご辛抱』

 そういって天の声は途切れた。



 尾崎は小峰や末崎が可愛がっていた、弟子政治家の一人である。他の弟子よりも大物になる素質を持っていたのは確かだった。

 彼は黒篠内閣の成立とともに厚生労働教育大臣に就任した。誰もが彼の大出世を望んでいたし、事実喜んだ。

 だが小峰内閣発足時、彼は閣僚の席にいなかった。

 それは前代の内閣が大敗により総辞職した事情から、30年ぶりの連立政権を組む事態が発生、民主連合を視野に入れた新人事は尾崎の席を用意出来なかった。

 それから小峰も末崎も尾崎を見ることは無かった。そして気が付けば、野党原理党が地方で結成され、衆議院議員補欠選挙の味の選挙活動の時に味の横に尾崎がいた。



「尾崎、か……」

 空しく小峰は天井を仰ぐ。原理党は痛いところを突くのが本当にうまかった。

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