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2.何か買ってきます@2016.6.13 18:12

 原理党の言うことを聞かないと殺される。

 どうやらこれは現実らしい。那流の死は皆への一番の証明になった。

 だが、一人ひとり脱落していく。

 次は誰が内閣から消えるのか?



 とはいえ皆、この現実を受け止めて閣議室で黙っている。テレビを見ているだけでも日本中が大変なことになっていることがわかる。ニュースに新しい情報が入った。

「国土交通省の主導権が原理党に移ってしまったようです。警察・国連軍が機能していない今、交通網までもが占領下におかれてしまいました。政府が完全に機能していません! 皆さん車での移動は控えるようにしてください!」

 リポーターの声がすごい。そして長島は唇を噛む。

「まったく、どうしてうちが」

「次に国民の動きを掌握しようとしているんだろうな」

 小峰にはそう映った。



 東京霞ヶ関は原理党の過激派武力勢力により一般道路も人払いがされている。JR線が近くに無い霞ヶ関付近で今生きている交通は都営地下鉄のみである。その都営地下鉄も近々原理党によって封鎖されるのだろう。原理党は国民の動きを止めて何をする気なのだろうか。ニュースは鉄道関連のニュースを流し始める。

「こちら都営地下鉄霞ヶ関駅です! 列車が3分ごとにひっきりなしに発車している今もホームは満杯です! 政府が機能していない今は電車のみが確実な交通網となっています!」

 リポーターの言うことは冗談でも誇張でもなんでもなく、本当にプラットホームは一杯でホームに降りる階段では駅員が規制をしている。



 次に手が伸びたのは、高速道路だった。ニュースのテロップに、

「首都高速封鎖される 各IC・PA・SAの締め切り、長蛇の渋滞」

 という文字が躍り出る。それは帰省ラッシュの程度ではなく、渋滞というよりは封鎖により閉じ込められた乗用車の列である。歩くほうが早い今次々に運転手は降りて、高速道路を歩き始める。商談の接待をしていたらしき会社員たちは途方にくれていることだろう。



 それから2時間が経った。午後5時、小峰は天井のスピーカーに向かって言う。

「お前らの目的は何だ」

 すると原理党はあっさりと即答した。

『小峰内閣の改造だ』

「では人事を君達に一任したら解放してくれるかね」

『それは不可能。原理党による小峰内閣の改造は小峰幸三も辞任させて、味内閣を発足させることだからだ』

「味……?」

 小峰にはどこかで聞き覚えのある名前だった。天の声は嘲笑しながら答える。

『知らないのか? われら原理党の代表、味幹夫様だ。彼こそが次期首相であり、彼の認めた人間以外が首相になるのはふさわしくない』

「だが日本にいる以上それは不可能だ。日本は間接民主制・国民主権の国だからな、衆議院が可決しないと味氏は首相になれない」

『まったくもってその通りだ。彼が首相になればこの日本は幸せだが、今のダメなシステムでは味様は首相になることが難しい。そこでこのような強行策を使って味政権をまず軌道に乗せようとしているのだ。導入段階は確かに乱暴だ。だが、味内閣は日本国民の幸福を絶対保証する』

「そう、国民に公約を宣言すればいい話だろう」

『お前ら民政党のせいで、それができないんだ。特に東北ブロックの田舎の選挙区の場合、民政党しか名前が知られていない。だからどんな公約を掲げても不利なのだ』

「絶対がつく公約なら負けないんじゃないか?」

 少し小峰は喧嘩腰になっていた。

『黙れ、自分の身分に気づいてから言うんだな。お前は捕虜の身、殺さなくても何ならお前らを拘束している間に味新政権を発足させることも可能だ』

「わかった、要求に従っていることとしよう」

 まだまだ戦いの終わりは遠そうだ。



 6時。閣僚たちはさすがに話すのに疲れてきて黙りこくっている。

 突然天の声がした。

『総裁室のロックナンバーを言え』

「無理だ」

『言え』

 原理党は有無を言わさぬ姿勢だ。

「断ったらこの部屋に押し入ってくるかもしれません。最悪の事態は避けないと。言いましょう」

 末崎が小峰にすすめる。小峰も仕方なしに納得して言う。

「4368だ」

『それでよろしい』

 そして天の声はしなくなった。



「お腹が減りました。少し何か買ってきます」

 長島が突然言い出した。

「何を言っているんです。殺されますよ。おとなしくしていましょう」

 菊名は普通に止めようとする。

「そうです。今は落ち着いてください」

 小峰までが言うと、長島は何かの糸が切れたように言った。

「偽善者面して、辛くないんですか?」



「何が偽善者ですか、今は皆の命が大切でしょう」

 小峰はそう言う。だが長島の反発は止まらなかった。

「それが偽善者なんですよ。だいたい言ってしまえばいいじゃないですか。このうちの誰が明日閣議に出られて、誰が出られないのか。そうすれば敵味方もはっきりするでしょう?」

「こんなときに敵も味方も無いでしょう」

 末崎が小峰のフォローに入る。

「あなたもそう、官房長官以上の座は確保されてますものね、小峰さんの言うことに従うはずですわ」

「何を言うんですか、そういう不謹慎なことを言わないでください」

 末崎は続ける。

「まだ改造内閣は発足していません。ということは僕らはまだみんなで内閣なんです。小峰内閣の閣僚なんです。改造内閣を原理党の手に渡す気ですか? あなたが改造内閣の閣僚である確率は低くありません。まだ分からない今は皆一丸となっているべきでしょう」

『おやおや、仲間割れか? これは内閣改造の必要が迫ってきましたな、小峰総理』

「大丈夫だ。なんとかなる」

「なんとかなるわけないわよ!」

 長島が叫んだ。

「はっきり言うけどね!」

「長島さん」

 静かに、嘉条が言うと不思議に長島は黙ってしまった。

 小峰はこの二人の間に何かがあり、それを隠しているように見えた。



 午後7時半、その秘密は自然にベールが剥がれてしまうのだった。

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