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0.今思えば@2016.6.13 15:00

 内閣総理大臣・民政党総裁の小峰幸三こみねこうぞうは昼休み、25になる娘と電話をしていた。もちろん独り立ちはしているようだが、娘から電話をされて嫌がる父親はいない。小峰も久々に電話した娘が元気な様子をしていたので嬉しく感じた。

 電話を終えた小峰は新聞を開いた。日付は「平成28年6月13日」とある。1面にはでかでかと衆議院総選挙の記事が載っている。小峰としては心苦しい記事だった。大敗していないとはいえ、反対勢力の原理党がまとまって議席を取っている状況は小峰には喜べるものではなかった。就任以来失敗を恐れて目立つ改革をしてこなかった小峰は内閣改造を約束し、衆議院総選挙後の今日は午後に閣議を開いてその話を考えていく。とはいえ最終決定権は小峰にあるわけで、今の時刻は12:40。総裁室に帰って新人事を考えるほうが有効に時間を使えそうだと考えて、小峰はエレベーターに乗った。


 今思えば、このときにゲームの下地は出来ていたのだった。


 大切な閣議とだけあって、このときに閣議室にはもう既に1人いた。内閣官房長官、末崎誠一郎すえざきせいいちろうである。末崎は小峰に一番近い役職にあるだけでなく、小峰が心から一番信頼する人間だった。内閣改造のニュースが各報道網で流れ、新人事の予想コーナーもにぎわっていたが、末崎のポジションが無い番組は無かった。末崎がいてこその小峰政権なのだ。

 すると、閣議室の扉が開いた。窓をぼんやり眺めていた末崎の目が、扉へ向かう。

「これは、末崎さん。こんにちは」

 入ってきたのは国土交通大臣の長島理恵ながしまりえである。末崎も挨拶をした。ところが、末崎のその姿勢に対して長島は思わぬコメントをする。

「それにしても末崎さんは早いですね。さすが小峰首相の側近、ソツが無いのですね」

「そんな言い方やめてください」

 末崎は本当に小峰を心から尊敬している。この二人の信頼関係は本当に強いのだが、テレビなどで取り上げられるとまるで汚い仲のように思われてしまう。末崎はそれが悲しくてならなかった。そして長島のような言い方も心から嫌っていた。

「末崎さんはよろしいじゃないの、出世することはあってもクビになることはないわ。でも我々民主連合はあくまで政治グループ。連立政権は形だけ、だからいつこの閣議室に入れなくなってもおかしくないの。今日の閣議は真剣問題なんです」

「そうですか、でもそのような言い方はよして下さい。大変心が痛みます」

「ふん」

 長島は不機嫌そうに反応して、席に座った。



 その頃総裁室で人事決めを慎重に進めていた小峰の元に秘書が来た。

「首相、このような怪文書が」

 秘書から手渡されたのは一枚の、紙。そこには新聞の文字の切り抜きで

『内閣改造ヲヤメテ、総辞職ヲシロ。従ワナイノナラバ我々ガ内閣改造ヲ行ウ』

 と書かれていた。

「またか」

 最近は総裁室にこのような原理党員の過激派からの脅迫文書とみられるものが、よく来るようになった。これもその一つだろう。小峰はよりによって忙しいときに、とつまらなそうに言った後、秘書に処分を命じた。

 この予告はそんなに規模の小さいものではなかった。



 13:00。小峰が閣議室に入った。今日の閣議は人事の話が出るということで皆小峰より先に来ていた。内閣改造ということはこの閣議を知らん顔している人間が明日は大臣になっているかもしれないのだ。皆不安・疑心の念で閣議に臨んだ。小峰はそこに配慮をして詳しい人事は言わなかった。

「とりあえず、内閣改造の人事についてお話します。引継ぎについてですが……」



 野党第一党である原理党の本部、時は12時50分。原理党の議員の男がテレビを見ていた。彼は尾崎といった。テレビはニュースに変わる。ニュースの内容は尾崎にもある程度見当が付いていた。昨日の選挙の結果だろう。ところが予想は外れた。

「今日、小峰首相は臨時閣議を開きました。この閣議は近く行われる内閣改造に先立って行われているものだと言われています。閣議は1時から始まり、3時ごろに終わる予定とのことです。国会議事堂と中継がつながっています。山田さん!」

 小峰内閣が改造に踏み切る……もう今日早速来るとは思わなかったが全くの予想外ではなかった。むしろこれから起こることこそが尾崎にとって予想外の出来事となる。

「尾崎」

 原理党の幹部から呼ばれた。本部の臨時会議だそうだ。残ったコーヒーを一気に飲んで、会議室に入った。



 閣議は小峰が淡々と引継ぎの手順を言うだけで、他の者は黙っていた。そして全員が待っていたことが言い渡される。

「新人事の発表、発効ですが」

 皆の目が自分に向いていることを小峰は確認した。

「明日です」

 これまた急だったが、窮屈な日々を長く強いられるよりかはマシだろう。皆明日の予告を待つ。小峰は時計を見た。2時55分、いい時間だ。終了予定の3時にも近いのでこれで会議は終結するはずだった。

 はずだった。



 国会議事堂にアナウンスが流れた。皆が何事かと騒ぐ。そしてそれは告げられた。

「小峰内閣の諸君、貴様らは私達原理党の命令を無視して改造を進めることを選択した。君達のこの決定は原理党による内閣改造を選んだことになる」

 何を馬鹿な、といった顔を全員がした。野党が政治の実権を持つ与党に歯向かうのは全体的に不可能だと思ったし、ただのくだらん反乱であろうと思っていた。

「原理党の内閣改造は、ズバリ民政党の排除である。よって内閣改造の際に必要の無い人材は消す」

 閣僚たちはざわつき始めた。何やら話が冗談の域を超えたことを皆感じたからである。

「今から我々は国会議事堂および政府関係の施設・設備を占拠していく。お前らは閣議室にいろ。出たら死ぬと思え。そして喉が渇いたり腹が減って死んだほうがマシだと思った時に出て来い。諸君の健闘を……心から祈っているよ」

 笑いを含んだその声は本気そのものだった。


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