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12.永田町戦争2@2006.6.15 12:08

「先生! 先生!」

 突然小峰との通話が切れた。とても嫌な予感がする。切るにしても何か言うだろう。

 地下鉄は国会議事堂前駅に到着していた。党本部に戻ろうとしたら、思ったよりまずい状況のようだ。確かに自分達が行っても同じ運命になるかもしれない。でも、放ってはおけない……。

「降りるぞ」

「えっ」

 他の人間が驚きを隠せないなか、磯江は地下鉄を降りた。もちろん他の者もそれに続く。



「てめーら、わかってんだろーな? 俺ら原理党を怒らせたらどうなるかぐらいよ」

 原理党過激派の人間だった。もちろん武装している。 

 小峰は唇を噛んだ。もちろん痛い目にあうことくらい合っている。でも原理党のしていることが合っているとは到底思えない。原理党に従うしか無いのか……

「うっ!」

 いきなり男は倒れた。小峰達は唖然とする。唖然としていないのは……

 菊名だった。銃を男の方に向けたまま、冷たい表情をしている。しばらくすると銃をしまって、小峰達に行った。

「逃げますよ」

 菊名は委員会室を出ようとする。この男がここにいるということは……原理党の党員が一度帰ってきて、うじゃうじゃ国会にいるということだろう。案の定、音を立てて歩くことすら危険な場所となっていた。

 生死をかけた逃走劇が始まった。小峰と末崎はまたしても複雑な気分がするが、菊名に従った。



 思ったより、クーデターにも限界があった。それを今実感しているのは味である。

 地方の反発は原理党が止められるものではなかった。クーデターが出来たのは、都市部に原理党員・過激派が多かったためであり、地方には原理党の人間はあまりいない。いても小選挙区当選の議員くらいで、到底1人の地元の原理党国会議員が食い止められるものでは無かった。

「国会に戻れ」

 味は過激派と自衛隊にそう命令した。地方の反発は止められそうに無い。なので首相達をなんとかして拘束して地方の首根っこをつかむことにした。あわよくば殺してしまえと。

 ところが味も馬鹿では無い。なにせ尾崎の微妙な心情を読み取った男だ。自分のことくらいはなおさらよく分かっているはずだ。そして自分の能力、このクーデターの限界はどこに来るのかも考えていた。

「それはそれで仕方が無い。だが……」

 味は負けず嫌いだった。

「その時は勝たなくてもいい。ただ負けるのは許せない。……負けない」

 味は携帯を取り出した。最終手段をとりあえず『始動』させておいた。

 これで背水の陣が出来た。民政党にとっても、原理党にとってもである。



「こっちだぞ!」

「いねーじゃねーか!」

「くまなく探せ!」

 原理党の追っかけもしつこかった。そして敏感だった。さすがクーデターをしてきたことだけはある。だが、菊名のその回避もまた賞賛を浴びるべきものであったと言えるだろう。

「まだ、見つかってないみたいですね」

 末崎は走りながら、菊名に話しかけた。

「そうは言っても、どこかで銃を使う羽目になるだろう。だが銃弾も少ない」

 その菊名の答えに末崎は唖然とする。

「どうするんですか!」

「それが最後だ。少なくとも小峰総理のな」

 菊名はどんな敵なのかはっきりしなかった。偽善者でも、はっきりとした敵でも無い。彼がどういう人間なのかを小峰や末崎が理解するにはもう少し時間が必要だった。



 磯江が逃げ去った後の経済産業省では銃弾が飛び交っていた。

 尾崎は逃げようとしたが、放送室は上の方の階にあったため、逃走は容易ではなかった。

「こっちだ!」

 逃げても逃げても官僚達は追ってくる。それをどれもすれすれの所で回避しながらエレベータに辿り着いた。エレベータの扉が開く。誰も中にはいなかった。しめた、と尾崎は思いエレベータに乗った。

 自分の体から重力が引いていくのを感じる。そしてまた重力が戻ってくるのを感じながら、尾崎は降りた先に注意を傾けた。

「……!」

 尾崎は顔をしかめた。エレベータの前は完全に官僚が配置されていたからだ。こうなればもう回避して逃げ切ることは不可能だろう。残りの弾数もロクに分からない銃を使うしかない。

 両者の間の凍った空気を、相手方から割ってきた。

「尾崎を殺せ!」

 官僚の中でも上司に当たるように見える人間が指示した。とりあえず尾崎は走り出す。官僚達は自分達の方に急に向かってくるのに驚いていたが、そのうち彼らも発砲し始めた。弾が尾崎の肩の上をかすめる。尾崎もようやく銃を取り出して迎撃をし始めた。尾崎の弾は狙った人間を次々と当て、官僚達が次々と倒れていく。最後に指示していた官僚に銃を向ける。

「ひっ!」

 官僚は悲鳴にもならないおびえた声を出すと、階段で上へと上がっていった。

 尾崎は軽く息をつき、官僚がいなくなったのを確認して経済産業省を出た。



「国会議事堂まで頼むぞ」

 味は原理党専属の運転手にそう命令した。その運転手も状況を何も知らないわけではなかった。

「え? 国会ですか?」

「そうだ、国会だ。国会はこの国に一つしか無いだろう?」

 運転手は言葉に詰まる。味とあろう人間が直接国会に赴くのは危険だと思うのだが、口から出ない。ようやく運転手も言葉に出来た。

「今の国会は危険ですよ? 味さんが行くところでは無いのでは……」

 親切心みたいなものが運転手の中にあったが、味はそれに構わなかった。それどころか、

「そうだから行くんだ。構わず出発してくれ」

 車はエンジン音を立てて、走り出した。戦場となった国会を目指して。



 まだ生きている自分に、尾崎は少し驚いた。ああいう緊急事態にとっさに動く自分の体にいつにもなく感謝をした。

 息絶え絶えに運行している都営地下鉄は発車ベルが鳴るのみで、駅員がいつもする発車の際の注意喚起や、車内アナウンスすらも無い。なのでいちいち駅名標を確認する必要があった。停まった駅の駅名標は「国会議事堂前」。

「ここだな」

 尾崎は発車してしまわないうちに、そそくさと地下鉄を降りた。



 駅を降りると、永田町には喧噪が戻っていた。

 勿論それは悪い意味で普段の喧噪とは違っていた。尾崎はそれを確認しつつも国会に向かって歩き出した。

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