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最初に盗んだのはパンだった

この作品は、

「なんでも盗めるスキル」を持った男が、

軽い気持ちで使っていたら、気づけばとんでもないことになる話です。


主人公は基本的に深く考えていません。

だいたいノリと暇つぶしで動きます。


※戦闘は少なめ、勘違い多めです。


気軽に読んでいただければ嬉しいです。


最初に盗んだのは、パンだった。


 焼きたての丸パンが、棚の上に並んでいる。

 こんがりとした表面に、ほんのり焦げ目。

 匂いだけで腹が鳴る。


 ゲインはそれを見ながら、立ち止まっていた。


 金はない。


 さっきまで井戸で水を運んでいたが、日当は夕方だ。

 今すぐ食えるわけじゃない。


「……腹減ったな」


 誰に言うでもなく呟く。


 盗む度胸もない。

 怒鳴られるのは面倒だ。


 だから、ただ思っただけだった。


「……これ、手元に来ねぇかな」


 その瞬間。


 棚のパンが、消えた。


「……は?」


 ゲインは固まる。


 目の前の棚を見る。


 さっきまであった場所に、何もない。


 代わりに。


 自分の手の中に、温かい感触があった。


「……え?」


 ゆっくりと視線を落とす。


 パンだ。


 さっきのやつ。


 間違いない。


 焼きたての、あの丸パン。


 匂いも同じ。


 重さも同じ。


「……なんで?」


 周囲を見る。


 パン屋の親父は奥で作業している。

 誰も騒いでいない。


 盗った感覚もない。


 手を伸ばしてもいない。


 それなのに。


「……来た?」


 自分でも意味が分からない言葉が出る。


 とりあえず、路地に入る。


 誰もいない場所で、もう一度パンを見る。


 やっぱり本物だ。


 夢じゃない。


「……食うか」


 結論は早い。


 考えても分からないなら、先に食う。


 一口かじる。


 ちゃんとうまい。


 現実だ。


 その夜。


 ゲインは寝転がりながら、ぼんやりと天井を見ていた。


「……あれ、なんだったんだ」


 思い返す。


 触っていない。


 それなのに、手元に来た。


 あれが偶然なら、それでいい。


 だがもし違うなら。


 もう一度できるはずだ。


「……スキルか?」


 この世界では、誰でも一つくらいは持っている。


 大したものじゃないのが普通だ。


 だが、もしかしたら。


 ゲインはゆっくりと意識を内側に向ける。


 すると。


 頭の奥に、言葉が浮かんだ。



 《窃取》



「……それだけかよ」


 説明はない。


 使い方もない。


 ただ名前だけ。


 だが。


「……盗む、ってことだよな」


 それなら、話は合う。


 パンが来たのは、“盗んだ”から。


 そう考えれば、一応筋は通る。


 ただし。


「……触ってねぇぞ」


 普通の盗みじゃない。


 距離がある。


 手も使っていない。


 それでも、来た。


 ゲインは腕を組む。


 考える。


 だが。


「……まあいいか」


 すぐにやめる。


 分からないものは分からない。


 それよりも。


「……もう一回できるかどうかだな」


 そっちのほうが重要だ。


 目を閉じる。


 さっきの感覚を思い出す。


 欲しいと思った。


 来いと思った。


 そして――


 来た。


「……盗む」


 小さく呟く。


 誰もいない部屋の中。


 特に何も起きない。


 当たり前だ。


 対象がない。


 ゲインは目を開ける。


 そして、ふっと笑った。


「……明日だな」


 試せばいい。


 それだけだ。


 このとき、ゲインはまだ知らない。


 このスキルが。


 パンや金貨だけではなく。


 もっと厄介なものまで盗めることを。

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