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第4話 実家は意外と変わらないらしい

 とぼとぼと、夕日に照らされながら歩き慣れた道を歩く。


「あんだけ喋ると、ちょっと寂しくなるな」


 たとえ相手が怪異だったとしても、やっぱり"誰かと話す"という行為には気持ちを落ち着かせてくれる。

 嫌なこともぜーーーんぶ、忘れられるから。


 しばらく同じように歩いていてると、黒い屋根の白いお家の前に着く。

 なーんの変哲もないただの一軒家。これが私の家だった。


「てか考えてなかったけど、どうやって入ったらいいんだこれ」


 人間はどんだけぶつかってもすり抜けたけど、果たして家の玄関はすり抜けられるのか……?

 なんとなく嫌な予感しかしないけど、助走をつけて全力で玄関にぶつかってみる。


「いっっってぇええええ!!」


 案の定、顔面と玄関が衝突した。

 ちょっと、マジで痛いんだけど!? すり抜けてくれたっていいじゃん!! 人間はあんなにすり抜けたじゃんか! 助走つけてもいけないのかよぉ!!

 ま、まぁ、廃ビルのコンクリートで普通に寝られた時点でものは貫通できないって、思ってたけどさぁ……。こうやって、実際にすり抜けられないとなんだかなぁ、幽霊損っていうか、死に損っていうか、、


「幽霊の壁すり抜けってテンプレ要素だと思ってたんですけど」


 意外とそんなこともないのかもしれない。

 幽霊も大概不便なんだなぁ。




 仕方がないから作戦変更。窓から侵入しよう。


 この時間は家に誰かいるからどこかしらの窓が空いているはず。そこからこっそり入れば問題ない。

 1階の窓という窓が開いているかどうかを確認すると、リビング横の窓がちょうど鍵が開いていた。


「誰もいない、かな?」


 中を確認すると、こっそり窓を開けて我が家に侵入。

 家に帰るだけだってのに、窓から侵入って泥棒かよ。


 私がいなくなっても変わり映えのないリビングの一角。

 部屋の片隅に置かれた小さな仏壇と写真立てが置かれている。手前の香炉にはもはや原型を留めていないほど小さくなった線香が1本、刺さっていた。

 写真立てに目を向ければ、顔の部分が真っ黒に塗りつぶされていて、もはやこれは誰に対しての仏壇なのかさえわからない。


「やっぱり」


 結局、何も変わらない。

 このリビングには、ただ、"変わり映えのない日常"が残っていた。


 自分の部屋に向かうため、2階へと上がる。

 階段を登って正面にあるのが私の部屋。それの隣が弟の部屋。


「お母さん、僕甘いものが食べたいな」

「そう? じゃあ明日お菓子でも買いに行こうか」


 今、私がこんなところにいるとは露知らず、いつもの会話が聞こえてくる。


 ……私が死んだことなど、一切気にしていないかのように。


 いつも隣の部屋から聞こえてくる弟と母の会話が嫌いだった。

 普通の家族のように振る舞う母が嫌いだった。

 関係ないと私に関わろうともしない父が、弟には手ほどきをした嫌いだった。


 それはいつも弟の部屋から。隣から。


 お母さんは、私のわがままを、聞いてくれたことがあっただろうか。

 それすらも、もう忘れてしまった。



 薄情な家族。

 けれど、仕方のないことでもあった。


 "出来損ない"と"天才"を両方愛してあげられるほど、人間の心は強くない。

 賢い方を、出来る方を、優先してしまうのは仕方のないことだから。



 たった、1本の線香の価値しかない私を、誰が愛してくれるというのだろう。



「さっさとはいろ」


 言い表せぬ感情を抑え込みながら、決して音を立てぬよう、ゆっくりと自室の扉を開けた。




 そこは、変わらぬ私の部屋だった。

 私が死んだ、その日から一切変わってない。埃はちょっと、溜まってるけど。


「意外。弟の部屋にでもされてるもんだと思った」


 案外そんなこともないらしい。

 ガサゴソとクローゼットを漁ってみると、真っ赤な毛糸の塊が顔を出した。


「お、いたいた。これ探してたんだよ」


 クローゼットから引っ張り出したのは"真っ赤なマフラー"と"真っ黒なブランケット"

 人型? のミチさんは黒か白みたいな色合いしてるから、赤色のマフラーはめっちゃ似合うと思うんだよね!!

 それに、マフラーならあの長い首を渦巻い状にぐるぐる巻けたら、隠せそうじゃない?

 ブランケットは私用。座布団よりこっちのほうが実用的だと思って。


「ミチさん、喜んでくれたらいいな」


 あの人が喜んでいる姿を想像して、胸がちょっとだけ軽くなる。

 マフラーとブランケットはスクールバックに詰め込んで、部屋の窓をおもいっきり開けた。



 "ワタシはここにいる"

 "いないものとして扱わないで"

 "弟だけを、愛さないでよ"





 なんてね。

 もう戻ってこないよ。



 夜風に靡いた私の髪は、青白い光りに照らされていた。

 鼻を啜る、その音さえも、夜の一部となって消えていくような気がした。

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