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1 朝目覚めたら

そんな夢を見た翌日、何時ものように枕の横に置いてあるスマホを取ろうと手を伸ばして転げ落ちた。

「此処はどこ?私は・・・春日誠かすがまことだ。」自分の事は分かっている。

でも、此処は分からない。本当に、ここは何処だろう。

白い石で出来た四阿だ。石の造り付けのベンチがあり屋根がある、至ってシンプルな造りの四阿。

多分、このベンチから転げ落ちたのだろう。でも、ここに来た覚えはない。昨晩は酒は飲まなかったし、確かに自分のアパートで寝たはずだ。

未だ、変な夢の続きなのだろう。早く目が覚めて欲しい。

周りを見まわしてみる。四本の柱の間に見える景色は、すべて違う。私の目の前にある空間は、雪景色だ。左側の空間は、秋の紅葉の木々が黄色や赤の入り交じった、とてもカラフルな色の森だ。

後ろを振り返ってみるとその空間は、砂。一面の砂丘だ。奥の方に僅かに海の波がきらめいていた。その隣はと見ると其処は緑の草原だった。

「不思議な夢。四季が揃っている四阿の真ん中にいる夢など聞いた事もない。」

まあ、夢だし、常識は、通用はしないわな。そっと、歩き出し、雪を手に取ってみようとしたが、そこから先には行けなかった。何かに阻まれているようだ。左の方も、後ろも同じ。何処にも行けない。

まるで、私の人生みたい。ふっと苦笑いがこぼれた。夢まで正確に私の人生を、描かないで貰いたい。せめて夢ぐらいは自由に行動したいものだ。少し気落ちして、右側に手を突くと、ごろりと転げ出てしまった。目の前には先ほどの四阿があるが、周りは、すべて草原になっていた。


「面白い。このまま何処まで行けるか、歩いて行ってみよう。」

てくてくと歩いて行く。暫くすると、小川に行き当たった。ぴよんと飛べば向こう側に着くような小さい川。「真逆、三途の川ではないわよね。」ふふっと一人自分の冗句に笑いがこぼれた。もし、今自分が死んでいて、これが本当の事だったら笑えるでは無いか。つまらない人生の幕引きが、いとも簡単にできてしまった。変だけど、面白くて色彩が綺麗な夢だ。

着ているものは、作夜着て寝たパジャマでは無く、作業着のようなゴワゴワの上下、上着とズボンだ。

ポケットに手を入れて、何か無いかと探ってみると、ビスケットが出てきた。は、は。これは若しかして、童謡の「ポケットを叩くとビスケットが一つ。」というやつか。笑える。

でも夢だし、叩いてみると、もう一つ出てきた。

「は、は、は、なんだこれ。まるで、おとぎの国のようではないか。ポケットを叩けばビスケットが増える。食い物には困らない。夢でもお腹は減るのかな。ふは。」

私は面白くなって、どんどん先を目指し歩いて行った。


暫く行くと、大きな城壁があった。

「?随分リアルだけど、私の知識にはない造りだ。」

ポンポンと叩いてみたり、爪で削ったりしてみる。つるりとして、まるで陶器のようだ。

このような石壁はテレビの番組でやっていただろうか?見たことがない。

城壁を伝いながら入り口を探して歩いて行くと立派な門があった。其処に初めて人がいた。第一夢人発見だ。ふ、ふ。声を掛けてみよう。

「こんにちは。貴方は門番?此処は何処ですか?」怖そうな人だけど平気だ。夢だし。

「嬢ちゃんはここがどこか分からないで来たのか?何処の田舎から出てきたのだ。全く、小さな女の子一人で、親はなにをしているのだ。早く自分の家に帰りなさい。お前は此処には入れないよ。」

小さな女の子?ふと自分の身体を見てみ手も、別に小さくなってはいない。何時もの大きさだ。

入れないと言われたので、来た道を戻ることにした。

少し小高い場所から先ほどの城壁の方を見てみると彼処は城塞都市だった。

グルリと見まわすと、点々とプロバンスの農家みたいな造りの家が立っている。家の周りは、農地のようだ。

「あの門番は、彼処にある農家が私の家だと思ったのね。」

この夢はフランスの田舎風の夢か。ぼーっと見まわしていると、突然足に何かがぶつかってきた。

「イッターッ!なによ!」

下を見ると、可愛いウサギが居る。でも牙をむきだして此方を威嚇している。

「ウサギに牙があるなんて、まるで異世界だわ。ファンタジー風の夢か。」

よく見ると尖った角まである。

また此方に向かってこようとしている。何となくポケットに手を入れて中を漁ってみるとなんか出てきた。大きな鍋蓋?直径50センチ。よくポケットに入ったな。夢だし。こうなったら異世界って事で、この角ウサギ?を遣っ付けてやろうじゃないの。

「おい!ウサギ!掛かってこい!」

ウサギは此方に向かってジャンプした。すかさず鍋蓋で防御。そして横になぎ払う。

ウサギは、強い衝撃に当たって気を失ったようだ。ヒクヒクしている。ファンタジーではこいつを殺せばレベルが上がるんだったよね。

「フン!」

足で踏み潰すと、キラキラしたものに変わって、消えて仕舞った。

「スプラッターな夢でなくて良かったよ。ん?なんか落ちてる。」

ウサギの尻尾。ふわふわのコロンとした茶色い尻尾だ。ポケットに突っ込んでおく。

レベルが上がったそぶりはなかったが、もっと倒せば上がるかも。ウサギを探しながら、草原をゆっくり歩いて行った。


さっき、ぶつかられたところがろがじんじん痛い。

「夢って痛くないと思っていたよ。」

しゃがみ込んで、ズボンをめくり調べてみると赤くなっていた。

「何か薬、入ってないかな。」万能ポケットに期待を込めて、手を突っ込んでみたら、小瓶に入った水っぽいものが出てきた。本当に何でも出てくる。多分これは薬だろう。蓋を開けて足に振りかけて見ると、痛みがなくなり、赤みも消えていた。

でも、この夢何時覚めるんだろう。結構な時間が経っている気がする。

そのまま体育座りで休み、考える。

「歩きすぎて足も疲れてきたし、お腹も減ってきた。おしっこもしたい。まずい、絶対おねしょになる。」

目覚めたときの惨状を想像して、ぐっと我慢するが、どうにも我慢の限界だ。

「仕方がない。」草むらに隠れて、してしまった。さっぱりしたが、落ち込む。この年になっておねしょはきつい。本当に夢なのだろうか。すべてがリアルすぎる。

また、ポケットを探ると手紙がでてきた。おじいちゃんの字だが、何故かちゃんと読める。


『誠よ。この手紙が読めていると言う事は、お前が四季の庭に来ていることになる。苦しそうに生きているお前にご褒美だ。ここで暫く遊んで行きなさい。心配はいらない。ちゃんと帰れるから。居たいだけいて、英気を養って欲しい。バカンスのつもりで、異世界を楽しみなさい。』




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