プロローグ
私は、郵便受けに手を入れ、チラシと一緒に紛れ込んだ手紙を見て、目をぱちくりした。
この字は、数年前になくなったおじいちゃんの字だ。何故此処に入っているのか?
そう言えば、生前に書いて、死後に届けて貰うという、変わったサービスが在ったと思い至った。
おじいちゃんの字は達筆過ぎて、昔から読めた例しがない。草書体と言う奴で、よく私に手紙を書いて寄越したが、一度も内容が分からなかった。その内手紙が届いても開くことなく捨てていた。
分かる字で書いて貰いたいと思ったが、そう伝える事も無く会いにも行かず、死んだと連絡が来るまで頭から消えていた。今頃、また届くなんて、読めもしない手紙を開く気にならずにまた其の儘にしたのだった。
夜、就寝前にスマホを見ていて、ふと、この字を検索してみようと思い至った。
パソコンの前に行き、封筒の表に書かれた文字を一文字ずつ探して見て行くと、其処に書かれていたのは、『招待状』と書かれているのが分かった。
「何の招待状なの?」封を開けてみると金色のクレジットカードのようなものが入っているだけで、他には何もなかった。
「何よこれ。やっぱり、おじいちゃん呆けていたのね。損した。もう寝よ!」
その夜、夢を見た。
おじいちゃんが、夢に出てきてこう言ったのだ。
「もうそろそろこっちに来ないか?こっちは面白いぞ。お前もきっと気に入る。」
夢の中で私は、おじいちゃんに抗議していた。
「読めない字で訳の分からない手紙をよこすのは辞めてちょうだい。読んで貰いたいなら、分かる字で書いてよ。」質問の答えにはなっていなかったが、そう言っていた。夢だから仕方ない。
おじいちゃんは、悲しそうな顔で俯き、
「済まなかったのう。」
そう言って、消えて仕舞った。何か、自分が悪いことをした気になったが、夢というものは自分の心をさらけ出してしまうものなのだ。普段言えないことも、言えて仕舞うものなのだ。
だが、嫌な気持ちになった。自分は意地悪な女だと。優しさや気遣いの出来ない、極普通の人間だ。
そうでしょう?私は、偽善者ではない。自分が持っていない優しさを、さも持っているようには振る舞えない、至って正直で不器用な普通の人間なのだから。