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初日の終わりに

意気揚々とクラスへ入っていった七瀬を後ろから見た後、俺も極力自然な雰囲気を装って、新しいクラスへと足を運んだ。

自分の席へと向かう途中、クラスメイトに挨拶をしながら、


「はじめまして。」

「いい髪形だね。」


...なんて何気ない会話をしながら和気あいあいと歩く...そんな光景を少しだけ期待してしまったが、現実は思い描いていたものとはかなり異なっていた。

教室の中にはすでにグループらしきものが複数出来上がっていたのだ。おそらくは中学校が同じであったのだろう。「久しぶり!」とか「また同じクラスじゃん!」とか、そんな声がちらほら聞こえてくる。

ああいう輪の中に割り込んで入るほど空気が読めないわけでもないし、そもそもそんな勇気もない。


小学生の頃だっただろうか、すでに完成しているグループに興味本位で突撃したことがあったのだが、そのグループ特有のノリとか、内輪ネタとか、今思い出すだけでも心が痛くなるのだがとりあえず結構痛い目にあったことを覚えている。


...というわけで俺は誰とも話すことなく、こっそりと自分の席へ向かい着席をしたのだ。

荷物を机に置き、それにもたれかかるように机に伏せ、早く教師が来てくれないかと心待ちにしている中、ふと隣の席の椅子が引かれる音と、誰かが座る気配がした。

ちらりと視線を向けると、ややくせ毛なのかセットしているのか、表現に難しい髪形をしている茶髪の男子が鞄を置いていた。そして俺と目があうや否や、気取らない態度で自然に声をかけてきた。


「よっ、お隣さん。これからよろしくな。」

「あー、うん。よろしく。」

「俺は波島司だ。時代を()()()どるって書く、言いたくなる名前だろ?」

「そうだな、俺は長谷川奏斗だ」


一瞬、言葉のリズムに戸惑った。そんな名前の言い回しある?と内心でツッコみつつも、別に突っ込むほど面白くもない気がして、表情には出さなかった。……っていうか、こういうノリに乗っかるのって、案外難しい。

何気ない冗談を軽くスルーしつつ自己紹介を済ませた。無視されたことが意外だったのか、司は少しだけ目を開いて驚いたような表情を見せた後、すぐに笑みを浮かべて話を続ける。

その顔が、どこか子犬みたいだと思った。懐っこくて、距離感の詰め方が上手いタイプ。俺とは対極の人種だな、とぼんやり思う。


「よろしくな長谷川。てか、このクラス知り合いの奴が多すぎないか?空気が俺たちを寄せ付けないっていうかさ。」

「中学が一緒の奴らが固まってるんだろうな。もうすでに内輪ノリが完成してるっぽいし。」

「なー。俺もアウェイな気分だ。新世界に来た感じ。」


その言い方、少し面白い。妙に詩的というか、口癖なのか?

初対面のくせに、司はまるで数年来の友達みたいに話しかけてくる。


それはそうと司の言う通り、クラスでは俺たちが割って入ることができなさそうな程の仲良しグループがいくつか出来上がっていた。教室のあちこちでは、まるで部活の打ち上げか何かみたいに盛り上がる輪がいくつもできていた。笑い声が断続的に弾け、名前の呼び合いが飛び交う。

その中で俺たちみたいな新参者は、壁の染みみたいに目立たず、存在感を保つしかない。


「互いにクラスでは孤独ってやつか。」

「孤独ってなんだよ、もうお前がいるじゃないか!」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。」


冗談交じりのやり取り。

でも、なぜか心が少しだけ軽くなった。

“お前がいるじゃないか”──そんな言葉を、初対面で言えるやつがいるだろうか。

彼の純粋な返答に思わず頬が緩み、悪い意味ではなく鼻で少しだけ笑ってしまった。

「照れてるのか?」なんて言いながら意味ありげににやつきながらこちらを見てくる視線にいたたまれなくなり、そのまま会話を続けつつ視線をふと前に移す。

その時だった。

視界の端に、黒く艶やかな長髪が揺れるのが映った。

――七瀬だ。


クラスの前方で女子数人と談笑していた彼女は、ひとしきり会話を終えると、こちらに向かって静かに歩いてきた。まるで教室のざわめきとは無関係かのように、落ち着いた足取りで。

そして、何のためらいもなく俺と視線を合わせ、ふわりと微笑んで軽く手を振る。

けれど、次の瞬間には何事もなかったかのように自分の前の席に腰を下ろし、前を向いて背筋を正す。

その一連の動作があまりにも自然で、けれどどこか隙がなくて、まるで“優等生”という言葉をそのまま具現化したようだった。


(マジで前の席だったのかよ)


一言くらい声をかけようとしたが、行動に移す前に前を向かれてしまったので、口を開けたまま前を向く情けない体勢になってしまった。が、なるべく自然を装いすぐに頬杖の態勢に戻る。


「ん?今少しだけ固まってなかったか?長谷川君。」

「別に何でもない。ただ...知ってる顔が見えただけだ。」

「へぇ、さっきはボッチみたいな雰囲気出しといてこんな立派な友人がいるなんて...僕には君しかいないのに...」


【シクシク】という効果音が付きそうなほどわざとらしく泣き真似をする司に、「なんだこいつ」って言ってしまいそうだったが堪えた。顔にはハッキリ出ていたが。


「ていうか、友達って言えるほど仲はよくないと思うぞ。偶然朝に会っただけだしな。」

「ふーん?それでそんな顔になるもんかー。なるほどねぇ。」


司がクスクスと肩を揺らしながら笑う。うざくはないが、ちょっとだけ鬱陶しい。


「おーい、”つかさーん”!」


聞きなれない名前と共にクラスの後ろで数名の男子が手を振っている。

そして隣の席の奴があっさりと手を上げた。


「ごめん、ちょっくら行ってくるわ。」

「...おい、さっき『俺には君しかいない』とかほざいてなかったか?」


俺はさっきのセリフを軽くバカにするような口調で真似をして皮肉った。


「いやいや、これはたまたま知り合いがいたってだけだよ。ほら、人生のたまたまってやつ?」

「便利だな、”たまたま”って言葉は。」


そういいながら司を見送った。

楽しそうに会話をしている司と、その周囲にいる数人。さっきのあだ名といい会話の盛り上がり方といい、同じ中学であることが一目瞭然であり、思わず苦笑いしてしまった。


そして司が戻ってきたのは数分後、どうやら周囲の奴らは別のクラスだったらしく、「じゃあ、またあとで。」と挨拶を交わした後だった。


「いやーごめんね、なんだか懐かしくて。」

「懐かしいも何も、せいぜい一ヶ月程度だろう。」

「いやいや、再開ってものはぐっとくるものなんだって。......そういう意味では、君たちだって再開じゃん?」

「は?」


何言ってんだよこいつって顔をしていると、司はチラッと視線を七瀬の方に向けた。


「ほら、前の子だよ。」

「なんでこいつなんだよ。」

「あーいや、ほら、今朝さ一緒に通学してきただろ?なんかフラグ立ってそうでいいじゃん。」

「見てたのかよ。」

「照れるなよー、青春って感じじゃん。」

「うるさいぞ恋愛脳が。」


どうやら今朝の行動を見ていたのだろう。変な勘違いをしているので面倒くさそうだし、修正しておこうと思ったが、どうせ話なんて聞かないだろうと行動に移す前に諦めた。

ニヤニヤと悪戯っぽく笑いながら肘で小突いてくる司に対し、適当にあしらいつつも大きくため息をついて前に視線を送る。

前の席の七瀬は、まるでこの教室の喧騒とは別の時間を生きているかのように、静かだった。

ついさっきまでクラスメイトと楽しげに言葉を交わしていたのが嘘みたいだ。あの柔らかな笑顔から、こうも一瞬で表情を消せるとは――。

まるで仮面を使い分けているみたいだな。いや、そういうのとは違うか。

スイッチの切り替えが自然すぎて、見ているこっちが戸惑うレベルだ。


背筋をぴんと伸ばして椅子に座り、肘を張らず、余計な力も入れず、自然体で姿勢を保っている。黒髪のストレートが肩を滑るように揺れ、時おり動かす指先の動きに合わせてふわりと揺れるその一房が、どこか柔らかい印象を添えていた。


机の上には整然と並べられた筆記用具とプリント。シャープペンの芯を一段階だけ出し、余白のバランスを見ながらページに小さく何かを書き込んでいる。内容はたぶん、配られたばかりのプリントの整理か、明日の準備だろう。特別なことをしているわけじゃないのに、その一連の動作が不思議と絵になる。

顔は少しだけ斜め下、手元を見つめる角度で伏せられている。光の加減で睫毛が濃く影を落とし、表情までは見えない。だけど、その横顔にはどこか張り詰めた空気があって、「気を抜かないこと」を自分に課しているようにも思えた。


(さっきまで、あんなふうに笑ってたのにな)


朝の冗談交じりのやり取りを思い出して、なんとなく違和感を覚える。でも、それは否定的な意味じゃなかった。ただ、目の前の彼女がまるで別人のように「完璧」に見えたから、少しだけ戸惑っていた。

誰とも喋らず、ただ黙々とノートを広げている七瀬。その背中は凛としていて、でもどこか――そう、ほんの少しだけ“壁”を感じさせるような、そんな気がした。


「……でもまあ、すごいな。あんな風に切り替えられるのって」


ぽつりとこぼした言葉に、司が反応した。


「ん? なにが?」

「いや……なんでもない」


適当にはぐらかすと、司は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにまた「まーでもさぁ」と軽いノリで話し出した。


「俺、前の席が美少女ってだけでわりと学校来るモチベ上がるんだけど。そういうの、ない?」

「ない」


即答すると、司は「つれねーなぁ」と肩をすくめて笑った。どこか含みのあるその笑みは、何かを察したような、あるいは興味を残して前を向いたような、そんな表情だった。


その直後―――


バァン!


教室の扉が、爆発音のような勢いで開いた。


まるで教室の空気が一瞬で真空になったかのように、クラスの喧騒がぴたりと止まり、数名は文字通り肩を跳ねさせる。俺も含めて、視線が一斉に扉へと向かった。


そこに立っていたのは―――音の大きさからは想像もつかないほど、やけに華やかな女性だった。


「えっ……」と誰かが小さく漏らす。


金髪のゆるふわパーマに、少しゆったりめのベージュのカーディガン、春らしい淡いワンピース。どこかのカフェ店員かと思わせるような柔らかい雰囲気をまとっていたが、本人は開いた扉を見て苦笑している。


「……あっ、あれ~? こんなに扉って軽かったかしら~?」


とりあえず誤魔化してるのは分かる。完全にやらかした顔だ。でも何事もなかったかのように教卓へと進み、スッと立つ。


小さく喉を鳴らし、深く呼吸を整えてから、こちらを一望するように視線を巡らせた。


「皆さんこんにちは~。このクラスを担当させていただく、神崎柚梨花柚梨花(ゆずりか)です~。これから一年間、よろしくお願いしますね~」


その言い方もまた柔らかくて、抜けてるような愛嬌があった。


金髪、おっとり、ゆるふわ……第一印象だけなら、近所のパン屋の看板娘と言っても信じそうになる。背も低めだし。とはいえ、扉をあんな音で開ける人が”完全におっとり系”かと聞かれると、微妙に引っかかるところもある。


「えーっと、それじゃあ、まずは自己紹介から始めましょうか~」


そう言って、先生は手に持った白いチョークを片手に黒板へと向かった。

小柄な体で背伸びしながら、黒板の上の方へ必死に手を伸ばして板書を始める。


《名前》《入りたい部活》《ひとこと》


……どうやら、この三つを簡単に話すスタイルのようだ。


「順番は前からにしましょうね~。じゃあ……最初は、名簿の早い人から順にやりましょ~。」


そうして左前、先頭に座っている男子に指をさした。

金髪に近い明るい髪色をした男が音を立てて立ち上がる。

日焼けした肌、制服がびしっと決まる体格、そして自信に満ち溢れている立ち姿。その見た目だけでもスポーツマンと読み取れる人物だ。座っているときから感じていたが、自然と視線を集める華がある。

彼が声を通しやすくするために教室の中央へ振り返った瞬間、教室の空気がふわりと張り詰めたようになり、誰かが小さく息を呑んだのが聞こえた気がした。


「はじめまして、荒川(はやて)です。小学校の時から水泳を続けていたので、高校でも水泳部に入ろうと考えています。勉強も頑張りつつ、行事やイベントも積極的に参加して、皆と楽しい一年にしたいです。よろしくお願いします」


声はよく通り、抑揚もほどよく、聴きやすい。

まるで朝の情報番組でインタビューに答えている高校生代表、みたいな完璧さだった。


教室には、期待と感嘆が混じった拍手が自然と起こる。


(……嘘だろ、最初からフルスロットルかよ。しかも水泳部か……こっちは朝から体力使って登校しただけで限界なんだが)


俺は思わず机に突っ伏したくなった。

頼むから最初は緊張して噛むタイプでいてくれよって、そんな淡い期待は見事に裏切られた。

よりにもよって、金髪・優等生・運動部。三拍子揃ったパーフェクトボーイ。


「……やべぇな。あれが基準になったら死ぬんだけど」


隣の司が小声で呟く。その口調は冗談交じりだったが、若干引きつっていた。

俺は小さく頷き返した。完全に同意だ。


続く何人かは、空気を少しずつ戻してくれた。

少し緊張した面持ちで、それでも一生懸命話している姿に好感が持てる。


「乾健大です。中学では陸上やってました。高校ではまだ迷ってますけど、よろしくお願いします」

「五月雨美月です。趣味は音楽聴くことで……たぶん軽音部に入るかも。よろしくです」


そんなやり取りが続き、クラス内の空気が徐々に日常的な温度に戻っていく。

俺の肩の力が少し抜ける。

まるで目に見えないプレッシャーが、少しだけ和らいだ気がした。


自己紹介の順番が前から、ということで、ついに七瀬の番が回ってきた。

彼女は静かに立ち上がった。

背筋をまっすぐ伸ばし、黒髪が肩に沿ってふわりと揺れる。

その動作の一つひとつに、無駄がなかった。

まるで、あらかじめ振る舞いが決まっているかのように自然で、けれど意図を感じさせる気品があった。


「七瀬鈴奈です。部活はまだ決めていませんが、文芸部か、弓道部に興味があります。……新しい環境の中でも、自分のペースを忘れずに頑張っていけたらと思っています。よろしくお願いします」


彼女の声は教室の隅々までよく届いた。その声音は穏やかで、丁寧で、それでいてどこか可憐だった。

言葉選びが的確で、姿勢も隙がない。まるで舞台の一節でも聞いているような、そんな不思議な魅力がある挨拶だった。


一瞬、空気が止まり、直後に小さな感嘆のような拍手が湧いた。


(……やっぱ、違うよな。)


今朝見た彼女、そしてさっきまでの七瀬。そこにあった軽口や冗談の余地は、ここにはない。

「優等生の七瀬鈴奈」として完璧に振る舞っている。その違和感が、少しずつ確信へと変わっていくのを感じた。


「……次、長谷川くん」


自分の名前が呼ばれ、立ち上がる。

誰の視線が自分に向けられているのかなんて気にしないようにして、ただ、なるべく普通に言葉を選んだ。


「長谷川奏斗です。部活は特にまだ決めてないですが……まあ、マイペースにやっていこうと思ってます。よろしくお願いします」


拍手が起きる。適度な、何も残さない程度の自己紹介。俺にとっては、これで十分だった。

極力周りの目線を気にしないように席に腰を下ろすと、司がこそこそと耳元に顔を寄せてきた。


「おー、いいじゃん。無難だけど悪くない」

「お前が言うなよ」

「いやいや、安心して。次は俺のターンだから」


司がニヤッと笑いながら前を向く。

数人の自己紹介を経て、ついに司の司の順番となった。

ちょっと嫌な予感がしたが、止める間もなく司が立ち上がる。


「はいっ、波島司です!部活は気分次第で、趣味はゲームとお菓子を食べることで、あと、よく寝坊するから朝見ないかもしれないけど、どうぞよろしく~」

語尾を強調しながらもおふざけを感じさせる、かつやけにハキハキと喋る司。

最後の一言で教室にクスクスと笑いが広がる。

女子数人が「ふふっ」と笑い、男子の何人かも肩をすくめながら苦笑していた。


(いや、自由すぎだろお前……。さっきまでの真面目ムード、どこ行ったよ)


司は得意げに座ると、俺の肩を軽く小突いた。荒川が最初に基準を爆上げしたときに顔を引きつらせてたくせに、自分はそれをはるかに超えるハードルを用意する鬼畜っぷり。

マジで何がしたいんだこいつ。


「お前が基準を引き上げてどうする」

「まあ、俺はこういうのでいいんだよ。ギャップも大事、ギャップも」

「それは“ある程度の好感度”を前提に成立するものだろ」

「おっ、俺の好感度に疑問を投げかけたな?」

「いや、好感以前に自覚のなさに驚いただけだ」

「毒舌かよ。まったく、ツッコミが辛辣で俺、心にダメージ」


そう言いながらも、司は上機嫌だった。

どうやら自己紹介のウケが良かったことに満足しているらしい。クラスのどこかからか、「あいつらしいな」的な言葉がぽつぽつと聞こえてきた感じ、中学校からこんなキャラだったんだろう。

てか普通に考えて知り合いがいない場で、こんなにふざけた自己紹介をできる人はいないだろう。

...たぶん。


(……この調子なら、なんとかやっていけるかもしれないな)


先生が「はいはい、次~」と軽く笑いながら次の生徒を促し、自己紹介のリレーは続いていった。

流れは、ようやく落ち着いてきた。俺はホッと息を吐きながら最後の人の自己紹介を聞いたのだ。


最後の自己紹介が終わると、教室の空気が一気に緩んだ。全員が同じ「やっと終わった」という空気をまとい、微かな安堵と疲れが混ざった空気が流れ始める。


そのときだった。


パンッ!


まるで銃声でも鳴ったかのような鋭い音が教室中に響いた。


「はいっ、じゃあ自己紹介お疲れさまでした~!」


神崎先生が、笑顔のまま手を打ったのだ。だがその音は、手をたたくというより、本気の号令のようで、何人かの生徒がビクリと肩を跳ねさせた。


俺もその一人だった。


(なんだ今の……絶対“慣れてる”音だったぞ……)


「えーっと、じゃあここからは簡単に学校の説明しまーす。ほんとは長々とルールとか読むんだけど、そんなの聞きたくないでしょ? 私も話したくないし」


とことん生徒の味方。そう思わせる笑顔と軽快な口調。ここだけ切り取れば完璧な教師であることは間違いないのだが。今の手の音といい扉を爆音で開けたことといい、過去に”何か”を経験してないと説明がつかない気がする。ただ、こんなに生徒思いの先生に対して変な疑念を浮かべることは失礼だと思い、すぐに考えることをやめた。

先生は黒板脇の棚から何束かのプリントを取り出し、前の席の生徒に手渡しながら話を続ける。


「このプリントに校内マップとか、年間予定とか、部活の一覧とかまとめてあるから、読んどいてね~。校則は太字のところだけで十分~」


「えっ、全部じゃなくていいんですか?」と真面目系男子が聞くと、

「うん、読むならいいけど、私は太字だけしか読んでないよ?」という本音全開な返事が返ってきた。


(先生、よくわかってるじゃないか)


このご時世において、“いい意味で形式に縛られずに、やりたいようにやる”教師なんて、そうそうお目にかかれない。

それだけに、神崎先生のような存在はかなり珍しい部類だ。

生徒を飽きさせないテンポ、必要以上に威圧しない姿勢、でも締めるところはきっちり締める。

この人が担任なら、三年間、案外悪くないかもしれない――そう思った。……多少の不安を添えながら。


その後も先生は、掃除当番のローテーションは前から順番で回すこと、校内の自販機は一番奥の校舎にひっそりとあること、校門の開閉時間は「意外と」厳しいので気をつけること、などなど、要点を選び抜いてテンポよく話していった。

まるで台本でもあるかのような淀みのなさだったが、不思議と無機質な印象はなく、むしろ言葉には熱と工夫があった。


(流石に教師歴が長いのか、あるいは天性のスキルか……)


話し方自体はそこまでゆっくりではない。むしろやや早口気味なくらいだ。

なのに、するすると耳に入り、頭の中で整頓されていく。


「Who」「What」「When」「Where」「Why」「How」──いわゆる英語で言うところの“5W1H”を自然に織り交ぜながら、難しい言い回しは避け、生徒の立場で咀嚼しやすい言葉を使ってくれる。

気がつけば、話のすべてがきちんと脳内に収まっていた。


(……話し慣れてるな、この人)


そう感心している間に、説明はひととおり終わっていたらしい。


「じゃ、ホームルームはこれで終了です~! 初日、お疲れさまでした~!」


最後は両手を広げながら、軽やかに宣言。

その声に合わせて、教室のあちこちで椅子の音と安堵の息が混ざる。

まるで重たい石が一斉に下ろされたように、空気が一気に緩んだ。

そして俺もまた、その柔らかくなった空気にひっそりと肩を落とした一人だった。


その後、教室が一斉にざわつき始めた。カバンを閉じる音、椅子を引く音、笑い声。安堵と開放感が波のように広がっていく。


「ふぅ〜……初日からいろいろ濃かったな」


隣の司が、椅子の背もたれにのけぞるようにして大きく伸びをする。


「お前が自分で濃くしただけだろ」

「ちょっとはオブラートに包んでくれない? せめて“存在感があった”とか、“個性を感じた”とかあるじゃん?」

「事実をそのまま言っただけだ」

「つれないなあ。もっと優しくしてくれないかな。そしたらコロッと惚れちゃうかも」

「今すぐ惚れ直して帰ってくれ」

「雑すぎる!返答として成立してないでしょ!」


司はそう言いながらも楽しそうに笑っていた。こいつ、ほんとに打たれ強いな……。

そんなくだらない会話をしていると、ふいに目の前に影が差した。


「ふふ、お二人とも仲がよさそうですが、昔からの知り合いだったりしますか?」


目を上げると、七瀬が俺たちの席の前に立っていた。表情は柔らかく、さっきまでの“完璧な優等生”の雰囲気とはどこか違う、自然体な空気をまとっている。


「いや、こいつが馴れ馴れしくて誤解させたかもしれないが、俺らは初対面だ。」

「えぇ、ちょっと言い方酷くない?」

「それはそうと……どうしたんだ? 何か用か?」

「いえ、ホームルーム終わったのでご挨拶でもと思いまして」

「あれ、俺のことはスルーする感じなの?泣いちゃうよ?」


司は大げさに目元を拭うふりをしながら、肩をすくめて悲しげな表情を作ってみせた。その仕草はまるで舞台のコメディ役者のようで、わざとらしいのにどこか憎めない。

七瀬はそんな司の芝居がかった反応にくすりと笑みを浮かべ、ほんの少しだけ首を傾けた。

その微笑みがあまりに自然で、さっきまでの優等生然とした雰囲気が霞んで見えるほどだった。

……なんなんだこの人、切り替えがうますぎる。無自覚でやってるならちょっと怖い。

それから、七瀬は自然な動作で司に視線を向けた。


「こんにちは。私は七瀬鈴奈といいます。今日からよろしくお願いしますね、波島君」


少しだけ頭を下げるその所作は丁寧で、それでいてどこか距離を取りすぎない、絶妙なものだった。


「おお……! あ、どうも! 波島司です。時代を“つかさどる”って書いて司。さっきの自己紹介、いい印象が残るように頑張ったけどどうだったかな?」

「ええ、ものすごく、強く、刻まれましたよ」

「だよね!やっぱり!第一印象が……って、あれ? 言い方に含みがあったような」

「気のせいじゃないですか?」


七瀬はほんの少し口元を緩めて笑った。

俺はそれを見て思わず口を挟む。


「そもそもよく寝坊するってなんだよ、開き直りか?」

「いやー、あれはキャッチーな自己紹介をね、意識したわけですよ。“ギャップで差をつけろ”ってどこかのバラエティで言ってたし」


「そのバラエティ、お前の人生に多大な影響与えてるな……。てか、普段真面目な奴が寝坊するからギャップなだけで、お前が寝坊したらただだらしないだけの奴だぞ」

「...確かにそうかも」

「そこ納得していいのかよ」

「ちなみに私、あの“気分次第で入る部活”ってところが一番気になりました」

「でしょ? 選択肢に可能性が広がってる感、あったでしょ?」

「うん、つまり“何も決めてない”ってことですよね?」

「ま、まあ、言い方を変えればそうだけどさ!」


七瀬の返しに、司はあたふたしながら頭をかいていた。

その様子を見て、俺は小さく笑ってしまった。どうやらこの二人、テンポは悪くないのかもしれない。


「まぁ、とりあえず初日お疲れってことでそろそろ俺たちも帰りますか」


司が周りを見渡しながら話を切り出した。

教室は先程とは変わり、人がぽつぽつ残っている簡素な状態になっている。

そこまで話は長引いた気はしないが...、ほかのクラスメイトは入学式の疲れでそそくさと帰ってしまったのだろう。


「だな、俺もぱっぱとかえって明日に備えたいしな」

「明日ってなんかあったっけ?」

「話聞いてなかったのかよ、学校があるんだよ」

「それはそうだけどさ、詳しくは何があるのって?」

「帰ってからプリント確認してみろ」

「ケチだなー減るもんじゃないのに」


別に明日は特別な行事もなければ、特別に必要な持ち物もなかった...はずだから、教えてやってもよかったが、話を聞いてなかった方が悪いってことで、あえて何か必要なものがある風に匂わせておいた。


「まぁとりあえず、電車で帰るんだよね?とりあえず駅まで向かおう」


男二人で納得しながら立ち上がった時、七瀬が髪を耳にかけながら話しかけてきた。


「おふたりとも、電車で帰るのですか?」


立ち上がった姿勢のまま、少しだけ振り返ってこちらを見ていた。淡く揺れる黒髪と、柔らかな眼差し。


「もしよければ、私も一緒によろしいですか?ちょうど同じ駅方面ですし」


一瞬だけ、彼女の瞳がこちらの様子を探るように揺れた気がしたが、すぐに柔らかく笑った。


「あれ、七瀬は徒歩圏内じゃなかったのか?」

「別に徒歩でも来れるし、家と駅が近いので電車でも来ようと思えば来れるんですよ。」


ふと今朝の会話を思い出した。確か今日は時間に余裕があって気分的に徒歩で来たんだっけか。

自転車でも電車でも来れるだなんて、なんて羨ましい立地なのだろう。

俺なんて、馬鹿らしい時間をかけて電車と自転車を用いて通学しているのに。


「そうだったのか、別に構わないぞ。一本道を左折する天才はそういないから、ちゃんと保護しないといけないしな」

「……あれはですね、風景が似ていたんです。それにちょっと考えごとをしていて……」

「たぶん、それ“考えごと”っていうより“意識の旅”じゃないか?」

「うっ……さすがに否定できないかもしれません」


七瀬はあっさり白旗をあげて、照れ隠しのように口元に手を添える。その仕草が妙に板についていて、こっちも何も言えなくなった。


「ま、いっか。それならちゃんと駅まで付き合うよ。迷子予防のためにな」

「ありがとうございます、長谷川君」

「じゃぁ、話もまとまったし帰りますか!」


司がきっかけを作るように手を叩き教室から出ることを促した。

下駄箱までの廊下はすっかり人が減っていて、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだった。窓から差す西日が斜めにのびて、床のタイルに淡い陰を描いている。


「にしても、初日からけっこう疲れたな」

「情報量、多かったですもんね」

「あと、神崎先生の手、でかい音出すの禁止にしてほしい。マジで心臓止まるかと思った」

「音、というか質量のある“何か”が飛んできた気がした」

「……正直ちょっと怖かったですよね?」

「ちょっとどころか、“何者だよ”って本気で思った」


ガラスの扉を抜け、校門を出ると、ちょうど春風が三人の間を抜けていった。

歩道には並木の桜が咲き揃い、時折花びらがひらひらと舞って肩に落ちる。


「このあたり、桜すごく綺麗なんですね」

「春の風景って感じ、ちゃんと出てるな。あと一週間もすれば葉桜になりそうだけど」

「その頃にはクラスにも慣れてるかな」

「……どうだろうな。でも、今日くらいの距離感なら、悪くないと思う」


自然と、そんな言葉が口からこぼれた。

七瀬はそれを聞いて、小さく笑った。


「そうですね。悪くない、です」


俺は一歩前を向いたまま、手の中の鞄をぎゅっと握る。

春の始まりの風が、またひとつ、背中を押した気がした。


駅に着く頃には、辺りの風も少しだけ冷たくなっていた。舗道に舞う桜の花びらがコンクリートの隙間に落ち、そこに春の名残を残す。


自動改札を通ってホームに上がると、ちょうど電車の到着まであと三分という表示が出ていた。夕方の駅にしては人も少なく、ホームにはほんの数人が点在しているだけだった。今日は新入生しか登校していなかったし、大部分の生徒は数本前の電車で帰ってしまったのだろう。


「ちょうどいいタイミングだったな」


俺がそう呟くと、司がベンチに腰を下ろし、脚をぶらつかせながら言う。


「にしても、朝はバタバタだったけど、なんだかんだ無事に終わったな、初日」


「“無事に”って言えるのか……?」


「ほら、死んでないし、転んでもないし、俺の自己紹介も受け入れられたし!」


「最後のは“受け入れた”んじゃなくて“スルーされた”だと思うけどな」


「それを言うなってばー。長谷川の冷静ツッコミ、地味にダメージでかいんだから」


「悪いと思ってないけどな」


司が「こいつマジで毒舌だ」と笑っている横で、七瀬はホームの端の方で電車の来る方向を見ていた。風で前髪が揺れて、それをそっと指で整える仕草が、どこか静かだった。


「……今日、楽しかったですよ。おふたりと話せて」


ふいに、七瀬がこちらを向いてそう言った。顔は相変わらず整っていて、でもその表情には、午前中よりもずっと“素の彼女”が浮かんでいる気がした。


「まあな、俺も……意外と悪くなかった」


「お、照れ隠し?」と司がすかさず茶々を入れてきたが、無視して電光掲示板に目をやる。電車のライトが、遠方から近づいてくる。


「おっ、来た来た」


電車がホームに滑り込み、ドアが開く。三人で並んで乗り込むと、空いていたシートに自然と並んで腰を下ろした。


車内は静かで、座席の向こうには揺れる広告と、少し眠たげなサラリーマン。そして同じ学校の制服をきた生徒がぽつぽつと点在している。

走り出した車両の窓の外では、町の風景がゆっくりと後ろに流れていく様子を、俺はじっと眺めていた。

それと同時に、明日から本格的に始まる高校生活に不安を募らせる。


「明日から、大丈夫なのでしょうか...」


そんな俺の心配事を代弁するかのように七瀬が沈黙を破った。

ボソッと、考え事が口に出てしまったような、電車の音にかき消されてしまいそうな程小さな声。


「大丈夫って、そんなに心配することかなー?」


司が彼女の独り言をすかさず拾う。

彼女は口に出てしまっていた事実にハッとした表情を浮かべ、一瞬視線を落とした。

そして、取り繕うように小さく笑みを浮かべる。


「いえ...そんな大げさなことじゃないんですけど、ただ...」


そこで言葉が詰まり、窓の外へと視線を逃した。流れていく景色と、光指す夕日の中に言い訳を探すように。


「初日って、思ったより疲れるものですね。人と話すことも、調子を合わせることも 。新しい人間関係ってすごく緊張しますし」

「あれー七瀬さんもそんなこと思うんだ。てっきり余裕綽々にやってのけるものかと思ってたよ」

「そんなわけないですよ。私だって色々考えながら話してるんですよ。あなたと違って」

「七瀬さんも長谷川に負けず劣らずの毒舌だねー」

「まぁ、そんなに心配することでもないだろ。それこそ少しづつ新しい環境に慣れていけばいい」


今朝、クラスに入る前に彼女が言ってくれた言葉を思い出しながらも答える。

実際七瀬の心配事はすべて時間が解決してくれる問題なのだ。

新しい人間関係は自然と構成され、グループを成し、カーストが形成されていく。

変に努力せずとも俺たちはその流れに身を任せておけばよいのだ。


気づけば電車はいくつかの駅を超え、この市の中心的な駅へと到着した。

当然降りる乗客が多く列車からさらに人が減る。その流れとともに司が立ち上がった。


「んじゃ、俺はこの駅だからあとは二人で楽しんでな!」


電車を降りながらもこちらに振り返りつつ、意味ありげな笑顔を向けてくる。

そして小さく、まるで敬礼でもするかのように手を頭の上に持っていき電車を降りた。


「えぇ、また明日もよろしくお願いします」

「ん、じゃあまた」


俺たちも扉が閉まる前に軽い挨拶をすます。

挨拶をして間もなくして電車の扉は閉じた。電車が進み始めても司は改札へ向かうことなくこちらに向けて大きく手を振っている。そして、住宅街へと電車が突入し司の姿はついに見えなくなった。

先ほどよりも大きく人が減ったことで、電車の車輪の音がより大きく感じる。

窓の外を再び見ると、先ほどよりも日が傾いていた。赤く傾いた陽は電線を褐色に縁取り、屋根瓦の影を長く伸ばしている。


...てかこいつはいつになったら降りるんだ?さっき徒歩圏内とか言ってたけど、徒歩の許容範囲がおかしくないか?


「あの方...司...さんは何というか、面白い?おちゃらけた?なんて言えばいいでしょうか。とにかくすごい人でしたね」

「そうだな、何も考えてなさそうで気楽そうなやつだった」

「確かに、一番言えてるかもしれませんね。でも、ああいう方がいると気を緩めやすくて気楽です」

「そうなのかもな」


七瀬は顎に手を当て、必死に考えた上で言葉選びに困っていたが、正直この言葉が一番的を得てる...と思う。七瀬も同意してくれてるようだし。

あいつに絶対直接言えないが、正直ああいう系統の人が身近にいてくれると助かる後々の人間関係とか、情報網とか、俺みたいに他人に話しかけることを躊躇してしまう人にとってはとてもありがたい人物だ。


「今日は本当に長い一日でした」


七瀬は鞄をぎゅっと抱え窓の外へ視線を移す。

ふと漏れたその言葉は、誰に向けたものでもない独り言に近い響きをしていた。

俺は相槌を打つ代わりに、同じ景色に目を向ける。夕日はゆっくりと沈み、町のあちこちの光が目立ち始める。


駅を5,6程過ぎた頃だろうか、次の駅が近づくアナウンスが流れると同時に、七瀬が鞄を持ち直し、座面から腰を上げた。

その動作も相変わらず静かなものであり、立ち上がった時に揺れる黒髪が、電車の揺れと重なり柔らかく弧を描いた。


「では、私は次の駅ですので」

「あぁ、暗いから気をつけてな。あと迷子のならないように」

「またそう言って、もう迷子にはなりませんよ、多分」

「今多分って言ったか?」

「それはそうと、学校側ももう少し早く入学式を始めてくれたらよかったのですがね」

「...確かにな」


七瀬は話題を切り替えるように軽く笑ったが、その言葉自体はもっともだった。

日が傾いた後に、生徒をぞろぞろ帰らせるのは正直危なっかしい。

……まあ、朝に弱い俺にとっては、遅めの開始はありがたかったけど。


次の駅が近づくアナウンスが再び流れ、七瀬はさらに扉へと慎重に歩みを進める。

電車は人気の少ない駅へと滑り込み、金切り音を響かせながら停車をした。


「それでは、また明日」

「あぁ、気を付けて」


ドアが開き、七瀬の後ろ姿がホームへと溶けていく。

足取りに今朝感じたような迷子の気配はなかったが、やはりどこか遠くに行ってしまうような雰囲気をまとっていた。


(色々あった一日だったな。本当に)


大きくため息をつきつつ視線を落とす。何とか会話はできていたつもりだが、やはり緊張感はあった。一人になったことに、心のどこかで安堵し、肩の力がふっと抜ける。


扉が閉まりかけた、そのときだった。

――視界の端で、七瀬がこちらを振り返っているのが見えた。


そこにあったのは、さっきまでの落ち着いた優等生の顔ではなかった。

目を大きく輝かせ、屈託のない笑みを浮かべ、子どものように大きく手を振っている。

頬は緩み、目尻はきゅっと下がり、声色は明るく高い。


「じゃあね!」


まるで司がするような軽い別れの挨拶。

その瞬間、俺の胸の奥で何かが引っかかった。


(……誰だ、今の)


思わず返事が遅れ、ドアは無情にも閉まる。

ガラス越しに見える彼女は、先ほどまでの七瀬とは別人のようだった。

いや、別人というより――同じ顔をした「別の何か」。


朝の一直線の道をわざわざ曲がっていったこと。

時折見せる唐突な話題転換。

そして、今のあの笑顔と声。


(……まさか、そんなこと……)


考えが脳内をぐるぐると巡る。

電車は動き出し、彼女の姿は闇と駅の灯りの向こうに遠ざかっていった。


残された窓ガラスには、俺の困惑した顔だけが映っていた。













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