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キガナ戦記  作者: ひじり
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【終章】「ひみつ」

 ガサ国の部隊長に続き、セボ国の部隊長が敗れたとの情報は、キガナ地帯全土に広まった。

 侵攻を中断していたセボ国の兵士達は頭を失い、退却を余儀なくされていた。シニソノギ国も無事に立て直しつつあり、ニジガ城の城主アルクスと個人的に同盟を結び、挙句にはツギト城の女城主ソールを嫁に取ったとの噂が広まった。

 御機嫌なのはソールだ。既成事実を作り上げ、外堀を埋めていこう、と。

 部下の兵士達に命を出し、用意周到に事を運んでいる。

「……あの、佐屋?」

 その一方で、不機嫌さが顔に出ているのが、佐屋だ。

 アルクスが声を掛けるが、目を細めて首を横に振るばかり。

 現在、二人はニジガ城の一室、アルクスの部屋にいた。ドアノブに施した転移魔術は解除し、己の部屋に帰ることができ、アルクスは満足していた。

 しかし、新たな悩みの種がある。それは勿論、佐屋のことだ。

「機嫌を直してくれよ」

「無理です」

 怒るのも無理はない。僅かな隙が、事を大きくしたのだ。

 アルクスとソールは夫婦になったのだと、国中が思い込んでいる。訂正するのは困難だ。

「なあ、佐屋? どうすれば許してくれるんだ」

「無理です」

 何をどうしようが、アルクスを許すつもりはない。嫉妬心を隠さず、佐屋は頬を膨らませた。

 しかしながら、当の本人は佐屋の気持ちに気付いていないのが問題だ。

「アルクスー、もうみんな集まってるよー」

 部屋の扉が叩かれ、声が聞こえてきた。エリサが二人を呼びに来たのだ。

「ああ、すぐに行く」

 扉には鍵を掛けているので、誰も入ってくることはできない。アルクスは、自室への入室許可を、ディードやトットルにさえ出したことがなかった。しかし、今部屋の中には佐屋がいる。それだけでも十二分に佐屋のことを大事に思っていることが伝わるのだが、佐屋の不満は燻る。

「佐屋、式が始まるぞ」

「……ん」

 ニジガ城の城内のあちらこちらに、シニソノギ国の兵士の姿があった。それはつまり、ツギト城の女城主ソールと、ヨナガ城の女城主ルーナも城内にいるということだ。

 今宵、ニジガ城とシニソノギ国との同盟の儀式が執り行われる。

 アルクスがシニソノギ国を救った時、確かに同盟を結びはしたが、それはあくまでも口頭でのことだ。正式に儀を執り行い、同盟を宣言する必要があった。

 ただ、だからこそ佐屋の機嫌は良くならない。エリサやルーナだけでなく、ソールまでもがアルクスのそばにいるのだから当然だ。

「ああ、そういえばだけど……」

 渋々といった顔で佐屋がアルクスのそばに近寄る。

 部屋の扉を開ける前に、一つ疑問に感じていたことを佐屋へと投げかけた。

「ダリノアと、もう一度会う方法があるって……言ってたよな」

 ふと、思い出したのは、ニジガ城の城内でエレステとダリノアの二人と戦った時のことだ。

「それ、本当なのか?」

 佐屋が告げた台詞に、嘘が無いとすれば、アルクスは両親に会うことができるかもしれない。

 故に、淡い期待を抱かずにはいられない。だが、

「じゃあ、目を瞑って」

 と佐屋が言う。

「目を?」

 予想外の返事に、アルクスは首を傾げる。

 佐屋が何を考えているのか分からず、言われるがままに目を閉じた。

「瞑ったぞ」

「ん」

 佐屋は、アルクスの顔を間近で観察する。こんなにじっくりと見るのは初めてだった。

 満足いくまで顔を見た後、佐屋はアルクスの肩に両手を置き、踵を上げた。そして、

「――……隙だらけ」

 初めて出会った時と同じように顔を近付け、唇を重ねた。

 二度目の、柔らかな感触に、アルクスは目を開ける。

「いっ、えっ!?」

 驚きに目を見開くが、佐屋は「……ふぅ」と一息。アルクスの顔を見上げ、

「今はまだ、ひみつ」

 と言って、屈託のない笑みを見せるのであった。


(了)


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