白昼夢
世界を構築して以来、事あるごとに介入を繰り返し、あるときは蛇としてイブに林檎をすすめ、あるときは伝説の剣を渡して歴史の流れを変化させた。
ダビンチ村で生を受け、画家として人生を謳歌していた時、不思議な力を使う女性に出会う。彼女は、まきに火をつけたり、何もないところから水を出したりして糊口をしのいでいた。
私は一目見てトリックを利用していないことを見抜いた。
しばらくして、私に、自画像の依頼がきた。会ってみると不思議な力を使うあの女性だった。商家の長男にみそめられ、輿入れしたそうだ。今では、見世物小屋に立つことなく、商家を大きくするために尽力しているそうだ。彼女には商いの才もあったのか腰入り後の家は繁盛している。何度か会ううちに彼女と個人的に親しくなった。
彼女は、子供のころ大病を患い奇跡的に命をつなぎとめたこと。その後、同時に色々な考えをめぐらすことができるようになり、他の人も同じように考えられるのだと思っていたことなどの話を聞けた。
私は、血液を絵に加えることで絵にも魂が宿ると嘘をいい、彼女から少しだけ血液を分けてもらった。その日は急いで自宅に戻り、誰ものぞいてはならぬと弟子に言い聞かせて、その血液の解析にあたった。そこには以前の世界にあったものが存在した。魔法を行使する能力。不確定性原理の利用。低確率な現象を選び、求める世界を現実にする。
この世界の創造にあたって、細心の注意を払って取り払おうとした力だった。
力を与えた原因は、ウィルス。この時代では存在自体知られていない。
私は、完璧と思っていたこの世界にウィルス≪バグ≫が存在したことを何よりも嘆いた。
ウィルスの存在を消そうと試みたが、膨大な数と日々変異するウィルスに断念せざる負えなかった。
彼女の自画像を書き始めて数年。彼女に変化が現れた。食欲がないという。また彼女は歳の割に若く魅力的だった。
私は、彼女に真実を告げた。彼女には永遠ともいえる長い生があること。その長い人生の中で感情が希薄になるだろうということを話した。
私なら人としての死を用意できることも話して聞かせた。
彼女は人として死ぬ事を選んだ。最愛の家族や友人が私をおいていなくなることが耐えられそうにないと嘆いていた。後日、彼女に薬を処方した。私の目の前でそれを飲んだ。
私はその後、彼女の家に通うことなく彼女の絵とともにフランスに移り住んだ。
彼女の自画像は今でも人の目を楽しませている。