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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

老害駆除して人生ハッピーエンド?〜ジジイに虐げられている俺、遺産ついでに駆除してやる〜

作者: イーサーク

 俺は、ジジイに虐待されている。


「このクソガキめ!」


 ジジイの怒鳴り声が、広大な屋敷に木霊した。

 まだ朝の四時前だ。

 部屋の中で寝ていた俺は野球バットで打たれて叩き起こされ、顔面にジジイの唾を浴びせられることになる。


「昨日、言っておいたろうが!! 住ませてやっているだけでなく、食わせてやっているのに、貴様という奴はこんなこともできんのかあー!!」


 言われてない。

 何のことなのかジジイの口から一切の説明はなく、代わりに止めどなく罵倒の言葉が吐き出される。


「なんのことだよ!?」

「居候の分際で口答えするな!」


 俺が理由を尋ねるだけで、絶叫と暴力が飛んでくる。


「仕事でもできない! 家の手伝いもできない! 資格も取れない! 勉強しなさいと何度言っても、勉強しない。本当に貴様はダメな奴だな! このクズめ!!」


 努力はした。しかし百点満点、資格合格といった結果を出したところで、されるのは、こんなもので満足するなと賞状や答案用紙を破らされ、罵声とバットだ。


 こんな日々が何年と続いている。

 八十代の大金持ちのジジイ、二十代の貯金のない俺。

 大きな屋敷で暮らす俺たち。互いに唯一の肉親同士なのに、なぜかジジイは俺を虐げることしかしない。


 ジジイは、バブル期全盛の頃に金持ちの友達連中と一緒に株や不動産で莫大な富を築いた。地元の政界と財界に深い人脈があり、現在でも一等地の借り主、貸金業、米株、会社経営などで貯蓄をたっぷり増やしている。

 ブラックどっぷり、法律余裕でオーバーだ。


 対して俺は、小遣いなんて一銭ももらったことがない。食い扶持すら自分で稼ぐことを強いられている。仕事を選ぼうにも、ジジイが人脈を使って邪魔してくるせいで就職できず、バイトを探すのにも一苦労だ。家賃はたっぷり取られ、俺の手元には雀の涙ほどしか残らない。


 一番最悪だったのは俺が小学生の頃、野球が大好きなジジイが思い出のバットを冗談半分で振るって、右足の骨を叩き折られたことだ。


 あの時のジジイもさすがにまずいと思ったのだろう。

 医者や警察官に笑顔を振りまく裏で、院長と署長に賄賂を渡してお咎めなし。

 俺はボールを捨てられ、後遺症で好きだったサッカーができなくなった。


 そんな俺が、この家を出ていかない理由。

 数百億円にもなるジジイの遺産だ。


 ジジイは、もうすぐ死ぬ。

 既に八十歳過ぎで、複数の病気持ち。

 ずっといっしょに暮らしてきた俺にはわかる。老い先短いんだ。


 あと数年我慢すれば、数百億円もの財産が唯一の肉親である俺の元に入る。

 そうなれば、ジジイに虐げるしかなかった俺の人生は、一発で大逆転だ。


「さっさと起きろ!! 仕事だ!! 仕事だ!!」

「わかりました……わかりました!!」

「うるさい! 大声出すな!!」


 ……何もかも変わると信じたい。


 その日の昼、やっと手に入れたスマホに友人からのメールが送られてきた。


 夜に俺は呼び出されて、ファミレスで刑事と会った。

 ”刑事”とは、中学生時代からのあだ名だ。

 こいつが町で本物の刑事になった今でも、俺との妙な友人関係が続いている。


 悪い噂は聞かないが、昔からのつき合いである俺は知っている。

 こいつはあくどいことを昔からやっていた。今では立派な悪徳刑事だ。

 久しぶりの再会だったが、刑事が話し出したのは世間話ではなかった。


「相変わらずジジイにイジめられているのか?」


 俺は何も言わなかったが、刑事が笑ったので悟られたとわかった。


「そいつはよかった」


 何がいいのかさっぱりわからない。


「何の用だよ?」

「お前、最近のネットの話題について知ってるか?」


 俺は知らないと答えた。

 すると刑事は、自分が持ってきたパソコンの画面にとある動画を再生した。


『この国は、老害の巣窟である!』


 パソコンの画面に再生されたのは、とあるインフルエンサーの主張動画だった。

 会場に集まったたくさんの観衆が聞き入っている。


『奴らはこの国の若者の未来を食い潰し、生き長らえている! この国の未来のために、老害は駆除しなければならない!』

『そうだ!』『そのとおり!!』

「……なんだ、こいつ?」


 俺は動画から目を離さないまま刑事に尋ねた。


「今、ネット上で急上昇中のインフルエンサーだよ」


 刑事は答えた。


「聞いてのとおり老害なんて皆殺しにしちまえって訴えてるんだ」


 そのインフルエンサーは、他の動画でも”老害超大国”、”害虫以下の害悪”、”奴らは、虫けら以下の存在”といった言葉を使って、高齢者を罵倒していた。


 俺は、イカれていると思った。

 だが言葉の一つ一つが、俺の心に強く響いた。


「なんでこんな奴の話をするんだ?」

「お前のジジイこそ、このインフルエンサーの言う"老害"そのものだろう?」


 俺は、言葉が出てこなかった。


「きっとお前に遺産を渡す気なんてサラサラないぞ?」


 お前に何がわかる?

 俺が何か言おうとしたその前に、刑事は驚くべき提案をしてきた。


「お前のジジイを事故に見せかけて、殺っちまおうぜ」


 警察沙汰になっても、もみ消してくれると言ってくれた。


「お前、何言ってんだよ!」

「そんで、ジジイの数百億円もの遺産を手に入れよう」


 どういうことか俺は理解して、席から立ち上がり問い詰めた。

 何の話かと思ったら、遺産を目的とした殺人計画のお誘いかよ!


「地元の警察は腐り切っている。捕まる心配はない」

「そ、そういう問題じゃねえ!」

「このインフルエンサーの言う通りだ。俺たち若者は金、女、青春、仕事、出世の機会、可能性ある未来、貴重な時間を老害どもに奪われ、弄ばれ、喰い殺されているんだ。だったらさっさと皆殺しにして、奴らから奪い返してやろうぜ」

「お、お断りだ!」


 俺は席を立ち、刑事を置いて、ファミレスを出ていく。


「いいか。これは正義なんだ。考えが変わったらいつでも言ってくれよ」


 刑事のそんな言葉が聞こえた。


 家に戻った俺は、暗い部屋でインフルエンサーの動画を再生した。


『老害は――?』

『駆逐、駆逐、駆逐、駆逐、駆逐、駆逐!』


 インフルエンサーの呼びかけに、集会所に集まった観衆が連呼する。


『一人残らず?』

『駆除! 駆除!』


 俺は、動画に合わせて、


「駆除! 駆除! 駆除! 駆除! 駆除! 駆除! 駆除!!」


 片手を振り上げ、自然と声を上げていた。



 恐怖と興奮が入り混じったような奇妙な感情だった。

 自分が何を叫んで、どんなことを思っているのか理解できない夜を過ごした。



 動画をくり返し観る日々を送った。


 観終わってこれでやめにしようと思っても、またクリックしてしまう。

 依存症か、何かかこれ。


 そんなある日、ジジイが留守にしている隙に、刑事が俺の家にやって来た。

 今度は計画の協力者として、メガネをかけている弁護士を連れていた。


「これを見せてやろう」


 刑事はそう言って、一枚の封筒を俺に手渡した。


「なんだ、これ?」

弁護士こいつが手に入れたお前のじいさんの遺言状だよ」


 弁護士の工作で、開封したことがバレないようにできると聞かされた。

 俺は封筒を開けて、遺言状を読んだ。


 少し読み進めただけで、俺の心は凍りついた。

 遺言には、俺への罵詈雑言が並べ立てられ、最後にこう書かれていた。


 私の遺産数百億円は、あんなガキ(俺)に一切渡す気はない。

 一緒に商売やってる友達に均等に分配されるという。


 ジジイの友達とは、金持ちの老人たちのことだ。


 遺書を握りしめながら、俺は決意した。


「……殺ろうぜ」


 刑事は笑って、俺の肩を叩いた。

 弁護士は、冷たい表情のままだった。



 刑事の計画は別のものだったが、俺は強盗に見せかける計画にこだわった。

 ジジイの家に侵入し、事を終えた後に貴重品を幾つか持ち去る。

 そうすれば、警察はただの強盗殺人事件として処理するだろう。


 刑事は言った。


「難しくなるが、まあ何とかなるだろう」


 俺、刑事、弁護士、あとこういう仕事に慣れているチンピラが加わった。

 弁護士のオフィスで、計画を練る夜が何晩と続いた。


 それが、俺に残された唯一の道だった。

 覚悟を決めた俺の心にもう迷いはなかった。



 犯行当日の夜、俺は部屋の中にいた。

 居間の方からテレビをつけて野球観戦しているジジイのうるさい怒鳴り声が聞こえてくる。


 約束の時間となり、家の裏口に来た俺は、強盗に成りすました刑事たちを家の中へ招き入れた。



 それでどうなったかというと、結論から言おう。

 ……成功! 成功! 大成功ー!!!


 警察の連中、ちっとも俺たちのこと疑いやしねえの。


 ジジイはどうしたかというと、まずプロ野球に熱中している隙を突いて、後ろから思い出の野球バットで右足を叩き折ってやった。


 その時、ジジイのうるせえ悲鳴ときたら。


「……なにしやがる!? なにしやがるんだ、このクソガキ!?」

「なあ、ジジイ……金持ってんだろ?」


 その後のことは、えげつねえから詳細省くけどこれだけ言っとくわ。

 ジジイの汚えシワクチャ面を、思い出のバットでグチャグチャにしてやった。

 超キモチいい~~♫♫(≧∇≦)b


 初めは意地張って、俺のこと罵倒してきたけど、最後はピーピー泣いて命乞いしやがるの。

 俺を虐待しまくったジジイの最期の泣きヅラときたら♬

 ざまあねえぜ。笑いが止まらないとはこのことだ。


「うるせんだよ。老害」


 最期の最期に、俺は、はっきりと言ってやった。


「お願いだから……俺のために死んでくれ」


 事を終えた後、俺たちは計画通りに証拠を隠滅し、金品を持って急いで現場から離れた。


 翌日、何食わぬ顔で朝帰りした俺は、血みどろになったジジイの汚え死体の前で、かわいそうな孫を演じながら警察を呼んだ。


 ジジイの死は、地元のニュースで「悲惨な強盗殺人」として報じられた。

 刑事と弁護士の計らいで、警察の捜査はすぐに行き詰まり、疑いの目が俺に向けられることはなかった。


 ジジイの遺書は、弁護士の手によって見事に書き換えられた。

 数百億円ものジジイの遺産全てが、唯一の相続人として俺の手に渡った。


 それから俺の人生は、バラ色に変貌した。


 贅沢三昧の毎日。

 高級車を乗り回し、世界各地を飛び回り、贅沢なパーティを開いた。


 昔の自分が嘘のようだ。


 いやあ、たまらねえ、たまらねえ。

 復讐は何も生まないってと言ったの誰だよ?

 バカじゃねえの。

 はっきり言ってあげます。復讐、超楽しい~。


 もちろん遺産は独り占めはしてないぞ。

 刑事たちと分けた。俺が幸せになれたのは、こいつらのおかげだからな。


 賄賂にもだいぶ使った。

 刑事が言うに、結構な額が必要だったらしい――やっぱり腐ってんな。


 ジジイの葬式はやりたくなかったけど、世間の目をごまかすために一応やった。

 ジジイの友達だった金持ちの老人連中がいっぱい集まって来た。

 友達づらして、この株だの土地だの俺に言い寄ってきやがる。


 見ただけで、こいつら腐ってんなとわかった。

 遠くからでも臭えニオイがプンプンしやがる。

 そばにいたくもねえ。


 ハエみてえな奴らだ。まさに金の成る木にたかる虫けらだ。


 いや、ハエの方が何百倍もマジだろう。

 ハエは、子孫を遺すためにがんばって生きている。

 あいつらは、若者の未来を喰い潰しているだけだかんな。


 そう、あいつらはジジイと同類。老害なんだ。

 まとめてブチ殺したくなった。

 俺たちの世界に、こいつらは必要ねえ。


「……なあ」


 俺は、葬式の場で刑事に言った。


「あいつらも駆除しようぜ」


 金をもっと稼ぐ。


 老人は金を持っている。若い頃みたいに動けない。

 いいカモだ。


 そして何よりあいつらは老害だ。

 害虫以下の害悪。

 毒虫以下の毒悪ども。


 殺すしかない。殺すに限る。


 この国は、老害の巣窟。老害超大国。

 あいつらは、この国を脅かすウイルス、病原菌、がん細胞。


 特にベビーブームは、世界始まって以来のクソゴミ集団。

 時代遅れの考えで戦争と自然破壊ばかり起こし、俺たち若者を虐げ、富と時間を吸い上げ、負の遺産だけをたっぷり残そうとしている史上最低最悪の世代。


 この世から抹消すべき存在だ。

 現代社会の黒歴史そのものだ。


 だから殺す。一匹残らず。


 殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺しまくって、殺しまくって、殺し尽くす。


 老害駆除は、正義。

 この国の未来のため、世界のため。

 俺たちがやらなくちゃいけないことは、義務なんだ。



 早いもんで、数十年の年月が流れた。


 老害を駆逐駆除しまくって、俺たちは超大金持ちになった。

 刑事の上にいたお偉い連中も標的にした。


 俺自身は、超美人でスタイル抜群の女と結婚し、セレブ生活を満喫している。

 幸せだ。


 時代も変わった。

 老害はますます増えて、俺たちが正義のためにやっている老害駆除が流行り出したんだ。


 火炎瓶を使った自宅への放火。

 散歩する老夫婦を標的とした通り魔。

 老人ホームを襲撃しての一切合切の鏖殺。

 日を重ねていくごとに巧妙になっていくオレオレ詐欺。


 楽に死なせはしなねえ。病床だろうとじっくりなぶり殺し。

 墓に入るのだって許さねえ。墓石をぶっ壊し、遺骨を暴いて犬の餌にする。

 昔の政治家や財界人の慰霊碑や銅像が今じゃ見る影もねえ。


 老害を派手にブチ殺すネット動画がバズりまくって、好評価を競うように大量にアップされている。

 俺が好きな動画は、泣き面のあいつらを地べたに跪かせて、骨董品の刀で一匹ずつ処刑していくものだ。とにかくサイコーなの、なんの。


 ジジイの遺産を手に入れたことで、俺の人生は逆転した。

 妻に恵まれ、この国の未来を救う義務を全うし、生きがいを感じる俺は今最高に幸せだ。


 ただ一つだけ後悔していることがある。

 息子ガキだ。


 赤子の時は、泣き叫んでうるせえうるせえ。

 幼児の時は、好き勝手してウゼえウゼえ。

 反抗期なんざ、本当に生意気だ。


 おまけに養育費。マジでマジで金がかかりやがる。

 趣味と遊びに使う金が減るっつうの!


 当時、適当な気分で作っちまったが、今じゃ妻ともども後悔している。

 こしらえるんじゃなかったぜ。


 ただ一つ楽しいのは、ぶん殴って言うこと聞かせる時だけだ。

 泣き面になって、途端に素直になりやがるの。


 楽しいのは、そん時だけだ。

 あとは、とにかく邪魔でしかねえ。


 よし、決めた。

 息子あいつに遺産は残さねえ。

 全部、妻と仲間のものにする。


 というわけで、遺言書をつくっておいた。

 これで、いつ何が起こっても安心だぜ。

 念の為だぞ、念の為。俺の気分がよくなるためにつくったんだ。


 そんな気分で、豪邸の居間でスマホをいじくっている時だった。


「……親父」

「あっ?」


 背後から息子に呼ばれ、俺は振り返る。

 突然、右足に激痛が走った。


「いってえ!?」


 俺はうめき声を上げ、うつ伏せになって床にぶっ倒れる。

 手足を動かすが、右足の骨折と苦痛によって起き上がれない。


 何が起きたのかと思えば、息子とその連れが俺の正面に回って取り囲んできやがった。

 何とか顔を上げると、息子ガキがあのバットを持っていやがった。

 息子が、俺の息子が……、父親の俺をバットで殴りやがったんだ!!


「何のつもりだ、てめえ……父親をなんだと!?」

「なあ、親父……金、持ってんだろ?」


 俺の息子が……、どこかで聞いたことのある言葉を口にした。


「……はっ?」

「だから金だよ、金。持ってんだろ?」


 なにを、なにを言ってるんだ、こいつは?


「……なあ、老害」


 ……はっ?


「お前は、俺に遺産を残してくれればいいからさ……」


 正義のために生きてきたこの俺が……ジジイと同じ老害!?


「さっさと……俺のために死んでくれ」


 息子が俺に、バットを振りおろ――。



 老害を殺してもいいという発想は、次の世代にも引き継がれる。


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[一言] 歴史は繰り返す…教訓になりますね
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