第6話 アップルパイ
ピコン
ステータスの異常?変更?を示す操作音がした気がして、翼はユキの身に何かあたのではないかと、不安におそわれる。
「全ステータスオープン」
全ステータスオープンで、翼と従魔のステータス3つが展開された。
【名前 ユキ
【HP 4205/6600(+100)
【MP 3300/5050(+50)
【スキル 神獣
【種族 キマイラの王
ユキのHPが、いきなり100も上がったのか。
MP+50も凄いな。
しかもキマイラの王になってる。
これは、多分、無事に王宮を取り戻せたみたいだな。
あ、もしかして、もしかしたら、その恩恵で俺にも、HP100入ったかも。
【名前 ツバサ
【HP 100/150(+50)
【MP 50/75(+25)
【スキル テイマー
【従魔 ベビーリーフスライム キマイラの王
【職業 料理人
◆魔法 クリーンを覚えた
「ちぇ、半分だけかよ。まあ、俺は何にもしてないけど。でもクリーンを覚えたんだな。これはずっと、ずっと、使えるようになりたかったんだ。これが一番嬉しいかも」
【名前 リーフ
【HP 10/70
【MP 20/45(+25)
【スキル 回復
【種族 ベビーリーフスライム
あれ、待てよ。
リーフまで、一気にHP50も上がってるぞ。
もしかして、従魔が獲得した同等のHPやMPを仲間で分け合えるのか?
「でも、ユキがキマイラの王になったら、従魔契約も終わりかもな」
「何が終わるのだ」
「だからユキが王様になったから┅┅ユキッ」
翼はユキに駆け寄って、敵の返り血を浴びたユキを、気にもせずにギュッと抱き締める。
「無事だと思ってたけど、無事で良かった」
「何だそれは」
ユキは悪態を付きながらも、抱き付く翼の頭をスリスリした。
「ユキちゃん」
リーフもユキの前足にピッタリとくっついてくる。
「動いたら腹が減ったのだ。さっきのご飯にシチューをかけたのは残っておるか」
「あるよ。俺のスペシャルカレーは上手いだろ。その前に、クリーン、俺にもクリーン」
翼が手をかざして、クリーンと唱えるとユキと翼の服に付いた血が、跡形もなく消えてなくなる。
「そなた、魔法が使えたのか」
ユキは、魔法が使えないと思っていた翼が、いきなり自分に魔法をかけてきたので、驚いている。
「ユキのおかげだ。職業とスキルに関連する魔法を覚えていくんだ」
クリーン魔法は、テイマーにも料理人にも最適な魔法で、特にいくらでも汚してくる従魔を従えてるなら、必須とも言える。
「ユキ、王様になったのに戻ってきたのか」
「うむ、我は従魔だからな。弱いそなたを守る義務がある。それにそなたの飯は旨いからな」
「よっ、弱くて悪かったな。カレーやらないぞ」
「我のカレーを寄越すのだ」
「リーフも」
「いや、いや、リーフはお腹壊すから、葡萄ジュースでいいか?」
「ぶどうすき」
うん、ジュースだけどな。
◇◆◇
翼はたくさん作り置きしておいたカレーを温めて、ご飯の上にたっぷりかける。
「さあ、大盛のカレーだぞ。お疲れさん」
翼は、山盛りカレーをユキの前に出してやる。
「それにリーフもお利口に待ってたから、葡萄ジュースな」
「我もお利口に戦ってきたのだ。酒を寄越せ」
「何がお利口にだよ。人を心配させて。お前はカレーでも食ってろ」
そう言いながらユキの前に、ラッキョウと福神漬けを出してやる。
そして体力を回復出来るワインを料理道具の大きなボールにたっぷり用意してユキの前に置いた。
◇◆◇
「それで、これからどこに向かうのだ?」
ユキは前もって翼に行き先を聞く。
「この村が、まだ再建中だから食事係でもしていこうかと」
「ふううう」
ユキは大きなため息をはく。
「なんだよ」
「そなたが、そうしたいなら、そうすれば良い」
ユキは、まるであきらめたようなセリフだ。
「お話しのところ失礼します」
そこへ村長さんがやってくる。
「何かありましたか」
「神獣様に、皆の替わりにお礼を申し上げたくて、まいりました。ありがとうございます」
「うむ」
「あと使途様、この村に残って頂けると言うのは本当ですか」
「いや、再建途中だし、食事の手伝いをしたいなと思って」
「助かります。よろしければ、この教会の隣の空き地に使途様達のお住まいを建てようかと」
「ずっとこの村に定住する訳ではないので、教会で寝泊まり出来ればいいです」
「いいえ、いいえ。隣の敷地に使途様方の家を建てたら、それを代々守っていきますので、またお越し頂ければ幸いです」
「あの、家の替わりにお願いしたい物があります」
「何なりとおっしゃって下さい」
「空き地なら、耕して果物の種を植えていくので、育ててもらえませんか?」
「おお、使途様方の果物をお与え頂けると言うことですか。大切に育てるとお約束します」
「そんな大袈裟な物じゃなく実ったら食べて、余ったら売ってください」
そしていつかまた、ユキと一緒にこの村に来て、果実酒を作ろう。
「では早速、隣の空き地を耕せるようにしましょう」
「皆さん、村の再建でお忙しいですから、食事を作る以外の時間に耕します」
◇◆◇
村長に話した通り、翼は、土地を耕す為に鍬と鋤を借りて、時間があると土地を耕した。
「さあ土地も耕せたし、どの果物が適してるかは分からないから、何種類か種を蒔こう」
翼は、果実酒に適した種を持ち歩いている。
なんの種にしようかな。
葡萄、リンゴ、みかん、桃にしよう。
土地を4分割にして、4種類の果物を育ててもらおう。
「なんか果物のデザートが食べたくなったな。収納全オープン」
冷蔵庫、焚き火台、ワイン樽を出して、火をつけておく。
「リーフ、デザート作るんだけど、何の果物が食べたい?」
「デダート」
「デザートって言葉は覚えたんだな。ちょっと違うけど」
翼は冷蔵庫から果物を出して、リーフに見せる。
この紅いリンゴか、ピンクの桃か、オレンジ色のみかんか、葡萄。
「どれがいい?」
「わかんない」
「果物は、葡萄ジュースしか飲んだことないもんな。他のは次回作るとして、定番のアップルパイか」
っていっても、オーブンはないから、ピザ生地を作ってと。
卵、牛乳、砂糖、薄力粉を混ぜて鍋でとろみを付けたら、冷やしておく。
リンゴをスライスして鉄板に並べて火を通して、ブランデーでフランベ。
鉄板で焼けてきたピザ生地にカスタードクリームをのせて、スライスしたリンゴを並べる。
グツグツしてきたら、6等分にして出来上がり。
これをいくつ作れば足りるかな?
「まずはリーフとユキに味見してもらおう。自分にも1ピース」
「デダート」
「そうだよ。リンゴのデザート。召し上がれ」
リーフに1ピース。
残りの4ピースをユキに振る舞う。
「うむ。むむむむっ、旨い。モチッとした生地に甘いタレと酸っぱい果実か。旨い」
ユキはデザートを食べたことがないのか、旨いを連発していく。
「うまい」
リーフがユキの真似をする。
「リーフは美味しいでしょ」
「おいしの」
「そうそう、ユキの真似しなくていいからね」
「むむ、だが旨い」
「美味しかったなら良かった。あ┅┅」
匂いに釣られたのか、村の人達が集まってくる。
「アップルパイもどきが出来上がったので、食べていって下さい」
翼は鉄板の上のアップルパイもどきをカットして、村人に1ピースずつ振る舞っていく。
「こんな美味しい食べ物があるなんて」
「リンゴは食べた事があるけど、火を通すとまるで別の食べ物ですね」
この村の人もユキと同じで、デザートを食べたことがないのかな?
「あのリンゴの木も植えましたし、アップルパイの作り方のレシピいりますか?」
「よろしいのですか?」
「レシピ欲しいです。村の名物になりそうですな」
「皆で力を合わせて作ってみます」
「ははははっ、良かったです」
力を合わせて作るような物ではないのだが。
翼はアップルパイの作り方をメモに書いて、村長さんに渡した。